過去 1
さらに上へと延びる高い建物の間から見える都市の外。
はるか下には昼夜を問わず減ることの無い車がどこかからきて何処かへ向かいせわしなく蠢いている。
日の上り始めた空には数機の自家用のヘリやホログラムを映し出す広告塔の飛行艇が飛んでいる。
「アースライトの発見で急発展した都市。人が都市に集まり人口は一極化し物と仕事も都市へと集まった。都市の外は人口が減り、代わりに食料問題の解決と交通整備のため、いくつかの町を残して区画整理された。ここの景色は少し見辛いけど都市との境目が見える、くっきりと白黒分けられた都市と外との境界線」
都市の外まで見える外の景色を見ていたハクマの背後から声がかけられる。
振り返ると後ろに二人従者を連れたドレス姿の女性が立っていた。
ドレスの生地に織り込まれた繊維状の発光器官がゆっくりと明滅し、身に着けた宝石がその光と反射させている。
「ガラスに映っていた顔が怖かったけど、都市は嫌い?」
「いえ、都市が、アースライトが見つかってから貧富の差が開いていって、こんな場所でぜいたくに暮らす人もいれば、都市に住めず町で巨躯の出現の怯える人もいる」
おそらくはどこかの護祈と思われる女性はにこにこと笑っており従者を連れて展望ガラスの方、ハクマの方へと近寄っていく。
彼女について歩くスーツ姿のお付きの二人は二人とも多少のサイバネティクスの施術を受けたようで義手や義眼が目立つ。
片方は手に荷物を持っており、もう片方はインカムで常に誰かと小声で会話していて特に護祈と会話するハクマを気にかけている様子はない。
「この時間は人が少なくていいですね、私が人にあまり迷惑をかけずに出歩ける。私は。ああ、自己紹介は結構です。ただ、今だけ話し相手になってくれれば」
彼女が近づいてくるにつれハクマに手すりのない高所にいるような忌避感を感じる不思議な悪寒が走るようになる。
得体のしれない現象に戸惑っていると護祈はハクマに向かって話始めた。
「都市は国を支える重要な場所だから守らなければ国が亡びる。我々護祈は対巨獣討伐チーム、ジアース。国を守る護国防衛隊の道具の一つであり、優先度は国の維持に必要な都市。多くの人も住んでいますし100人と1000人なら数の多いほうを守る。それでも私たちは誰も見捨てず町の人間も守れるように巨躯はなるべく海岸線沿いで阻止しているのに不満なのですか?」
「特に不満はないです。防衛隊も護祈もできることをやっていて、まだ護祈のサポートチームにきて半年もたってはいないですが」
「ならなぜそんな怖い顔を? 今は急激な発展で混沌な時代が訪れているだけ。私に経済の動きも未来を見通す力もないけど、少し時間が立てばきっとより良い世界になるはずです。くれぐれも早まり間違ったことはしてしまわないように」
ハクマは振り返り都市が見える展望ガラスに映る自分の顔を見た。
反射し映るのは特にしかめっ面をしているわけでもない普通の表情、自分ではよくわからず困惑するハクマ。
「俺、そんな怖い顔してますか?」
「心が、あなたの心の内側の顔が怖い表情をしています。私たち護国防衛隊の敵は出現の由来がわからない巨躯です。都市でも私たちでもありません相手を間違えないようにお願いします」
手を伸ばせば届くような距離に護祈と従者の三人が立っている。
護祈の放つ威圧感のようなものの居心地の悪さからハクマは展望室を後にした。
何とも言えない気持ちの悪さにハクマは早歩きで部屋に戻ろうとしているとユウスイが床に座り壁に向かってなにかしている姿が目に入る。
ルツキのサポートチームの部屋は隣り合っていることもあり、彼女を無視して部屋に戻ることも気が引け話しかけた。
「何をしているんですか?」
「この壁の兎がどれくらいできるか試してた。ほら声で道案内してくれるでしょ、喋ったりはしないけど他に何ができるのかなって」
何をさせたかわからないが一人一匹ほどついてくる壁に映された兎は、全部で6匹ほどの増え踊ったり餅をついたり、蟹と戦っていたりしていた。
「踊ったり意外と愉快なことができるんですね」
「文字の出力はできないみたい、ピクトグラムは出せた。月がモーチフなんだろうけどなんか蟹も出せた。戦い始めたけど」
ハクマとユウスイが壁の兎を観察していると、起きてきたルツキが怪訝な顔をして心配そうに声をかける。
「あなたたち‥‥‥何か面白そうなことしているわね? だ、だいじょうぶ?」
ユウスイが説明をするとルツキもそれに興味を持ち壁に向かって話しかけ始めた。
その後起きてきたメノウに軽く注意を受けレオからも軽く注意を受け、基地へと帰るためハクマの部屋に置かれた荷物をし車に移動させて娯楽施設を後にする。
車体を垂直にせず、正式な方法でビルを降りる浮遊車。
「基地戻る前に昼食を食べて帰るらしいけど、そこに行くの?」
「ああ、メノウがこの都市の店を調べてくれていてな。パンケーキの店に決まった」
「僕、調べものとかそういうのってユウスイの役だと思ってた」
「私外食はジャンクしか食べないから、おいしい店とかわからない。他人の評価なんて自分に当てはまるわけでも無いし、食べてがっかりはしたくないでしょ」
「なんか、他に車が付いてきてませんか?」




