休暇 2
太陽の光を反射しギラギラと輝く超高層ビル群。
都市に入るとその背の高いビルの影に入り一気に暗くなり、その暗がりを極彩色に光る看板が都市の根元を照らしている。
町の中は大型車が消えバイクや小型車が増え目まぐるしい速度で都市をかけ回っている。
「ほんとに奇麗ね、海の中にいるよう」
「外観だけで中身はきれいじゃないけどね~、主に人の心が~」
「いかに低いコストでどれだけ利益を出せるか、都市では才能は財、知らないは罪、効率こそが正義! 自分のスキルを高めてなんぼ、他人の財布の中身を落とさせてなんぼ! 自分のバラ色の人生のために他人は黒く塗りつぶしても構わない、それが都市、実力評価の世界」
「はしゃぐなユウスイ。もうすぐ着くな、速度を落としてくれ」
到着した目的地も他と変わらない天へと延びる巨大な柱のような建物。
道路を外れ壁を登りだす浮遊車。
「直角登るのは体が辛いわね」
「す、すごいな都市……」
ビルの途中に空いている穴から建物の中へと入り駐車場へと進む。
「さぁ到着だ、降りろ」
「はぁ~すごかった。都市の車の中でシートベルトせずに寝たら死にますね」
「実はね、浮遊車ってのは側面を壁にくっつけても走れるからあんな走りする必要はなかったんだ。ルツキちゃんが楽しんでくれるようサービスした」
「ユウスイが震えてるわよ~」
車両から降りレオを先頭にカヅキとメノウがユウスイの腕をもって連行し玄関口へと向かって行く。
ハクマは荷物持ちとして全員分の荷物を持ち、その様子を近くで見ているルツキと追いかける。
「なんだこの量……」
「一泊二日分の荷物だからそんなに重くないでしょ?」
「むしろ一泊二日でどうしてこんなに荷物増えるのかわからないんですけど」
「二日分の着替えと寝間着とあと化粧品と、あとは~……」
「今日入れて二日なのに二日分?」
「お姉さまがたと会うのに、この服じゃダメでしょう」
玄関ホールは黒曜石のような黒いタイルが敷き詰めてあり、天上や通路にはナノレベルの小さな光源による明かりで壁が光っている。
「すごいなこんな施設を貸し切りって……」
「は~、美術館みたいね。行ったことないけど」
本来は大勢の人であふれているのだろうが貸し切りということもあり、鎮圧銃を持つ警備と数人の護祈のお付きの者たちが来訪者の確認をとっているだけの寂しいものだった。
一般人を寄せ付けない圧を持った豪華な内装にハクマは一瞬建物に入るのをためらうほどで、ホールにいる他の護祈のお付きの者たちも天井につられているシャンデリアや壁にかかる絵画などを口を開けてみている。
ホログラムでシャンデリアの付近に惑星のようなものが複数浮いていてハクマが内装の装飾に圧倒されている間に警備の一人とレオが話しをしており、ルツキが呼ばれて彼女は駆け足でハクマから離れていく。
代わりにカヅキが近寄ってきた。
「ハクマ君、ユウスイを預かってくれない? 私たち少し外で買い物してきたいんだよね」
「俺両手塞がってるんですけど」
「それもそうか。いやー皆荷物が多いね、僕はこれでも減らしたほうだからね。んじゃメノウと買い物に行ってくる、せっかくの休みだし晩酌をね。あとは任せるよ部屋は後で隊長に聞くから大丈夫」
ユウスイをロビーのソファーに放置しカヅキとメノウは外へと向かって行く。
彼女を任されたハクマはレオの話が終わるまで、ユウスイの近くのソファーに腰を下ろしどこからか聞こえてくる電子音楽に耳を傾けながら皆の荷物を足元に置いて待つ。
「大丈夫か? さっきまですごくすごく元気だったじゃないか」
「……普通に疲れた、急に垂直に上りだすんだもの心臓が持たない……あとそういえば今日ネットに接続できない。護祈の安全性を確保するために業務以外で外出するときは隊長以外はネットが利用できない」
「そうなんだ」
「私、存在価値が今ない状態。つらい」
「まぁ、今日は戦闘とかないから目を休めると思って休もうじゃないか。こんな大きな施設だ娯楽施設は多いんじゃないのか?」
ユウスイは仰向けにソファーに寝転がり生気のない目でシャンデリアを見上げる。
「確かに私らはすることないけど、荷物持ちはこういう日も仕事あるでしょ。荷物持ちなんだから」
「筋トレができないから、こういう荷物で少しでも運動を。ちょっとかさばって持ちづらいのが難点だ」
「筋肉馬鹿か、もっと他に何かないのか」
「俺にはこれしかないしな。というかネット接続できないだけで気力失っている奴が言うことなの?」
話が終わりレオは歩き出しルツキが手招きしながら呼ぶ。
「二人とも置いていかれるわよ、早くこっち来なさい」
薄いディスプレイが張り付けられているようでハクマたちの歩きに反応して壁の絵が動く。
「すげぇな、こんな建物を貸し切りだなんて。やっぱ都市ってすっげぇな」
「みてみて、絵の兎が動いてるわ! なんで武器持ってるのこの兎? 都市でもこういうのはやっぱり高い所なのユウスイ?」
「うん、まぁ上の方ではあるかな。二人とも田舎者感出るから口を閉じてなよ。あとそれ月の兎だから持ってるのは杵」
「上に行くエレベーターはどこだ」
「道に迷ったのね」
「……まぁビル一本500メートル、一回当たりの面積も広いしね。多分あっち」
「悪いなユウスイ、案内してくれ」
「壁の兎に目的地いえば連れてってくれるよ、これナビ」




