休暇 1
その言葉を聞いてハクマ以外の皆がレオを見る。
「ルツキちゃんを都市に連れていくんですか!?」
「それはちょっとあれじゃない~?」
「私は反対! 何考えてるか知らないけど絶対やめた方がいい」
「楽しみだけど、私が都市へといっても大丈夫なの?」
怪我をしている腕をさすりながらレオは答えた。
「ああ、言葉が足りなかったな都市といっても町の中を歩くわけじゃない。貸切ったレジャー施設で羽を伸ばすという意味だ。他の護祈も来る。ルツキの休暇を申請したらちょうどよくそういう企画説明をメールでもらった」
「あ~、少し前にそんな案があったわねぇ、あれからまったく説明ないからお流れになったのかと思ってたわぁ」
席を立ちメノウがレオの方へと向かい彼女の持っていたタブレットを受け取り目を通す。
その後に続いてカヅキがレオのもとへと向かいルツキも席を立つ。
「今後数回に分かれて護祈達を休ませる。今回はタワープールだな、有名な施設らしいが詳細はしらん、各自勝手に調べるように」
「プール、それはいいわねぇ~、ルツキちゃんはここから出られず万年運動不足だから水の中を歩き回るだけでもだいぶ運動になるわぁ、定期的にはないだろうけど年に数回くらい用意してもらえないかしら~」
「お姉さまたちに会えるのね、いつ行くの?」
「僕水着持ってないな買わなきゃ、というかみんなで行くの? ルツキちゃんだけ?」
メロウからカヅキそこからルツキへとタブレットを回し読みしていく。
「あまりごちゃごちゃさせるのも護祈が休めないだろうし、誰もいないと彼女らも不安がる。メンバーは最小限、あまり大勢にはならないようにという話だった。まぁうちは全員行けるだろう」
「人に酔う護祈もいるしね~」
「ハクマ君は荷物持ちとして活躍するね。ユウスイが気配消してるな、ちゃんとついてくるんだよ」
それから日が立ち都市へと行く日が来た。
装甲車ではなく都市行きの浮遊車をレンタルし皆を乗せて基地を出る。
「浮遊車なんて初めて乗った」
都市では一般的に走る高級車の皮張りの柔らかい座席に座るハクマ。
同じようにそんな高級車に乗ったことの無いメノウたちが車内をいろいろと見ている。
「なんかふわふわしてて居心地が悪いわねぇ、落ち着かないわぁ。というかカヅキはこれも運転できるのねぇ」
「これはアースライトの力なの? うわ、なんか触ったらドリンク出てきた!」
「……電力、地面から50センチほど浮いて移動する……壁や天井にも引っ付ける。最高時速は300キロちょっと……憂鬱だ。あとそれ天然フルーツジュース、いつも飲んでるやつ」
車両は道路を滑るように移動し景色は広大な畑、郵便や商業用の大型倉庫街、都市に人が移住し誰もいなくなった廃墟の町と目まぐるしく移り変わっていく。
時折、過去出現した巨躯との戦闘で抉れた地面と一緒に修復された道路に変わり色が新しかったり古かったりしている。
「なんで浮いているのに道路の上を走るの? これ走ってる、滑ってる?」
「……この道路の上じゃないと浮けないから。……正確には道路下にある電力で充電しながら浮いている。あとそんなに高くは浮けないから普通に木にぶつかる、浮いてるっつっても数十センチ程度だから」
「ユウスイが予防接種に行くペットみたいになってるわねぇ。それよりこれすこし飛ばしすぎじゃない~? カヅキこれ今何キロ出てるの~?」
「まだ150キロしか出してないよ?」
都市に近づくにつれ細かい道が太い道と合流し道路を走る車の数も増え始めた。
浮遊車だけでなくタイヤで走る普通の車も混じりはじめ、大小さまざまな車両が行きかう大通りに入る。
「いつも通行止めと避難後しか道路を見たことがなかったから、車が走っているのを見るのはいつ見ても新鮮ね」
「健康診断で移動する時しかルツキちゃんはこのありふれた景色が見れないもんね」
「……別に見たって面白いものなんてないだろうに、はぁ」
「そんな絶望した顔しないのユウスイ。隊長の命令なのよみんなで休めって」
港から大型コンテナを乗せた無人他輪車の列を追い抜くと正面に都市が見え始めた。
「見えてきたよ23番都市、珠輝。え~、安全安心の電子機器のお取り扱い。家電製品の世界マーケット需要21パーセントを占める大企業が納めますこの都市は~アースライトの普及によって急速に成長しこの国で、電力稼働車、水上滑走船舶の次、三番目に都市建設へと踏み切った歴史ある~」
「何してるのカヅキ?」
「都市の特徴を簡単にアナウンス」
「歴史あるってここ2、30年の話じゃない? アースライト建築で高層ビルなんてにょきにょき生えるし」
「あれすごいよね、まえに建築しているところ見たんだけどアースライトで組み立て工場立ててその下で外壁や内装作りながら上に上がってくんだもの」
「ヘリコプターで資材をその工場に輸送するってホント?」
「6枚プロペラのデカい奴だね、あれも僕操縦できるよ」
「カヅキはすごいわね、何でもできるのね」




