巨躯 1
発展した人類の次世代エネルギー物質『アースライト』。
ほんの一欠片で一都市を照らし、そのエネルギーで生み出されたエネルギーで技術は飛躍的に向上した。
機械を使って想像した物質を形にすることができ個体、液体、気体、エネルギーなどいかなるものに変換できるが、アースライト自体のエネルギーを使い切れば消滅してしまうという欠点がある。
しかし、初めから消費を前提とした一時的な施設や電力に変えてしまうなどすれば利用法はいくらでもあり人類は莫大なエネルギーを得た。
人類の無限の発展を思わせるその輝きは、人類に新たなる脅威をも呼び寄せることになる。
深夜、繁華街や工場の輝きが眩く輝く都市、その近くで人工物ではない光が不規則に瞬く。
海岸付近でアースライトを使って放たれる戦車の粒子砲が『それ』へとむけて放たれていた。
上空を飛ぶティルトローターと地上の車両によって照明弾が放たれ照らされた『それ』は六つの足で地面を歩く巨大な怪物。
周囲の木々や戦車の大きさからおおよそ90メートルほどの長い体をくねらせて、攻撃を行いながら後退する戦車を追っている。
雷や花火のような低い音が夜空に轟き、複数の閃光が地面の近くで瞬いた後、地面が捲れあがり木々が燃えた。
手元にある無線機が点滅し音が鳴る。
『現在目標は時速約60キロで山岳部に移動中、作戦に問題なし』
『了解。作戦区域で護祈はすでに到着済み、誘導後速やかに離れよ』
超低音エンジンで走る戦車隊の車体の軋む音や地面が抉れる音が響く。
怪物の移動先が白く光ると銀色の巨大な影が暗闇の中から忽然と現れ怪物の行く手をふさぐ。
新たに表れた二本の足と太く長い尾で体を支えた、銀色の体に青と橙のラインの入った無機質な怪物。
突然の出現に六つ脚の怪物は足を止め首を上げ二匹の怪物らは向かい合うと咆哮を上げる。
『幽鱗凍光は護盾蒼鱗と戦闘を開始。戦闘を誘導から支援に変更する』
『了解。支援攻撃開始します』
新たに現れた銀色の怪物は尾を引きずりゆっくりと六つ脚の怪物へと向かって歩き出した。
戦いに遅れて一機のティルトローターが二匹の怪物へとむけて飛んでおり、戦闘の邪魔にならないよう、巻き込まれないように遠巻きにホバリングして状況を確認している。
「すでに護盾蒼鱗が到着していたようですね。手違いで僕の方には連絡がありませんでした」
「加勢の要請は来た?」
「護盾蒼鱗のサポートチームからはありませんね。引き返しますか?」
「いいえ、ここで見ていることにするわ。待機してもらえない?」
「りょーかい、連絡入れてますね」
幽鱗凍光と呼ばれた六つ脚は紫色の雷を口から吐き出し、雷が落ちたところに純白の霜が降りる。
護盾蒼鱗と呼ばれた二足歩行の怪物は、拳に青白い光を纏い放たれる雷を弾きながら幽鱗凍光に接近しその拳を叩きつけた。
攻撃を受けて幽鱗凍光が護盾蒼鱗が離れると待機していた戦車隊が攻撃を加える。
「問題なく倒せるみたいですね、ルツキさん。周囲の警戒任務をいただいたんでその辺飛び回りますから好きなだけ観戦しててください」
「ありがとうカヅキ」
ルツキと呼ばれた儀式用の衣装のような白い衣に身を包んだ女性は顔を窓にくっつけるほど近づけ戦闘に見入っている。
動くたびに大きな土煙を上げる巨大な怪物、巨躯。
アースライトで発展を遂げている世界にとってある日突然現れた人類の脅威。
出現した巨躯はどの個体も都市を目指すという特徴を持ち国は護国防衛隊として『対巨獣討伐チーム、ジアース』を作った。
「幽鱗凍光、やはり光学迷彩のような能力を持っていますね。海上で一度見失ったとかなんとか。夜だとまったく見えねぇ~」
「発動が遅くもう何の意味もないだろうけど、所詮向こうは獣の脳みそだし向こうが理不尽な能力さえなければこちらが勝つわ」
体表の色が変わり周囲と同化する様子を見せたが構わず殴り続ける護盾蒼鱗。
光を纏った拳で連続的に攻撃を行うと攻撃に耐え兼ねた幽鱗凍光の体にひびが入る。
そして連鎖的な小さな爆発をし、細かな破片となって周辺に飛び散った。
「驚異の排除。スケール1の出現もなかったようです。それじゃ僕らは基地に帰ります、それとも現場によって行かれますか?」
「いいえ、帰るわ。無事に勝利は見届けたし、これ以上いたら仕事の邪魔になるもの。撤収!」
「りょうかい」
「見ていたとろこスケール2というところかしら、今の幽鱗凍光っていう巨躯は」
「今週は多かったですね巨躯の出現頻度」
「大体はスケール1で護国巨躯の相手でなかった。実際戦車隊だけで討伐したのと、瀕死の巨躯にとどめを指した戦闘もあったわね!」
帰路に就くティルトローター。
少し目を離している間に残っていた護盾蒼鱗の姿は消え戦闘の痕跡と夜の静けさだけを残してその場を去った。