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47.再戦

「はあ、俺も頑張ろ」


 なんだか戦う前から驚き疲れた気分のヘイジだったが、ここでぼんやりしている訳にもいかない。


 しかしライフルを構えて意気込んでみたものの、それからの戦いは忙しくもシンプルなものだった。無数の特獣が相手とはいえ、防壁上から撃ち下ろすだけなので当然と言えばそうなのだが。


「いや地味だ……」


 前衛がしっかり抑えていることもあって、ヘイジが頭を使うのはせいぜい強そうな特獣を探して優先的に攻撃するくらいで、後は無心で引き金を引き続けるのみだった。


 ちなみに現在使っているライフルは、シンリントビクの素材から製作した物だ。ロクシリュウの素材で製作した新ライフルは、大抵の特獣には威力過剰なので必要に迫られるまで温存するつもりである。


「思ったより大丈夫そうだな」


 迂回波を迎え撃つのは特獣の討伐を生業とするハンターと、人よりも特獣との戦闘の方が多い軍。それを支えるのは、特獣との長い戦いの歴史に裏打ちされた、入念で効果的な準備と支援。


 そして何よりオリヴィア、リタ、ヘイジの活躍によって、当初の悲観的な雰囲気からは想像できない程に安定して討伐が進む。


 数時間経って三割程ほど討伐された頃には迂回波の勢いも大分弱まり、壁上隊の面々の心には余裕が出来ていた。そんな彼らは先程からちらちらと横を気にしている。視線の先にいるのは一人で戦っているヘイジだ。


「な、なあ。あいつ何やってるんだ」


「俺が知るかよ……」


 棒のような武器を構え、上部の小さな部品を覗き、何度も破裂音を鳴らしたかと思えば、部品らしきものを交換してまた小さな部品を覗く。


 その至極真剣な眼差しとせわしない動きを見れば、彼が真面目に防衛戦に参加しているであろう事は窺えるのだが、なにぶん異質過ぎて気を引かれてしまうのだ。


 ヘイジの戦い方を知らない彼らは、「この男は何をしているのだろう」と横目に不思議に思わずにはいられなかった。


 しかしこうも長く近くで戦っていると、彼が棒から破裂音を鳴らすたびに特獣が倒れている事には気付き始める。


「ありゃあオオモリガガメだ! ロクシリュウも手を出さない頑丈さで―」


 ハンターの男が叫ぶが、その声に重なる様に銃声が響く。すると男が指差していた特獣は、四肢と首をぐったりと投げ出して動かなくなった。


「……」


 時折武器を木製らしき物から黒い物に持ち替えたかと思えば、高脅威度の特獣すらあっけなく倒してしまうのだ。


 そうしてちらちらと壁上隊からの視線を受けながらも、ヘイジはひたすら銃を撃ち続ける。


 更に数時間に経過して討伐数が五割に達した。ここまで減れば迂回波としてはほとんど凌いだようなもので、特獣が散っていくのは時間の問題だというのが軍と猟伐管理部の見立てだ。


 実際、迂回波の前進ペースはさらに弱まり、明確にファシュマンとは逆方向に進む特獣も増え始めたことで前衛の負担はかなり減っている。


 これを受けて、軍の一部といくつかのハンターチームが前線から離れていく。回り込んでくる特獣に備えるため、他方面の街道の防衛戦力を増やしているのだ。


 前衛に残された者達も体力魔力共に消耗し疲弊していたが、終わりが見え始めたこともあって悲壮感は無い。戦力に余裕があるので交代で休む事も出来ていた。


「ふう」


 ヘイジも前線の落ち着いた雰囲気を感じ取って一息吐く。ちょっとした小休止を挿みながらも、ほぼ休みなく撃ち続けていたので流石に疲れを感じていた。魔力も大分減った感覚があるし、銃床を当てる右肩はかなり痛む。


「ちょっと休憩……」


 数時間もの間特獣を攻撃し続け、ようやく休憩する仕草を見せたヘイジの姿に周囲の人間は戦々恐々としているのだが、ヘイジは気付かずに伸びをすると腰を下ろした。


 しかし少し気力の回復に努めようかと、鋸壁に背を預けて本格的な休憩に移ったヘイジの耳へにわかに叫び声が届く。


「まずい、ロクシリュウだ!」


「えっ」


 慌てて腰を上げるヘイジ。周囲の人達の視線を追えば、平原の入り口付近に確かにロクシリュウが現れていた。遠いものの特徴的な体色とそのシルエットは見間違えようがない。


「マジかよ」


 前衛の戦闘員は慌てて集まり備えようとするが、背後のヘイジから見ても不安や恐怖が窺える程に狼狽していた。


 どれだけ集まろうとも、ロクシリュウを傷つけたりロクシリュウの攻撃に耐えられるだけの能力が無ければ意味が無い。動揺も無理からぬことである。


 ヘイジは戦場を見渡すが、リタとオリヴィアは何処にいるかも分からなかった。


「俺が行くしかないか」


 このままでは前衛が蹂躙されてしまうだろうが、自分が面と向かって引き付ければ被害を抑えられるだろう。そう考えるとヘイジは自然と決断することができた。


 ヘイジはひとつ深呼吸をすると、真っ直ぐに遠くのロクシリュウを見据える。そこに恐怖や悲観といった雑念は無い。


 ただ、ひと月前は偶然遭遇したロクシリュウ相手に死にかけた自分が、こうして自ら立ち向かう選択を取れるようになった事がなんとも感慨深かった。


 ヘイジはライフルをロクシリュウ製の物に切り替え、いざ向かわんと気合を入れて勢いよく防壁から身を乗り出す。


「……」


 しばし遠くの地面を見た後、無言で踵を返した。


 一瞬、何かを期待するような眼差しの隊員達と目が合う。しかしそれを努めて無視すると、背後に何か言いたげな視線を感じながらせかせかと階段を駆け下りた。


 都市の外に出るとそのまま平原を走り、前衛の横をすり抜ける。


「ヘイジ!」


 前衛の一人が声を上げた。ヘイジが振り返ると調査隊で顔見知りになった男が、不安と安堵がないまぜになったような表情でヘイジを見ている。


「俺が行きます!」


「すまん助かる。でも無理はするなよ!」


 男はヘイジの実力を知っているので、心苦しさをにじませながらもそのまま送り出した。


 ヘイジは頷くと前に向き直って再度走る。堀のある場所まで来ると、それをやや危なっかしくも飛び越えた。


 ロクシリュウにとっては有って無いような堀だが、引き付けるヘイジが動き回る上では邪魔になるため、堀を越えた先で戦うつもりだ。前衛から極力離したいというのもある。


 ヘイジはロクシリュウを見据える。向こうも一人で突出してきたヘイジの存在に気付いたようだった。


「あの時のリベンジだ」


 そう意気込むものの魔力の残量には不安があり、最悪また銃剣に頼らなければならないかもしれない。その可能性を考慮すると自然とライフルを握る手に力が籠る。


 ヘイジは以前のロクシリュウを思い返す。中途半端にダメージを与えて刺激すればロクシリュウの動きは激しくなり、銃撃を命中させるのは難しくなる。周りにいる他の特獣が寄って来るのも危険だ。


 一発一発を確実に急所に当てて迅速に討伐する。残り少ない魔力でロクシリュウを倒すにはそれしかないだろう。


「速攻で決めるぞ」


 ヘイジは自分に言い聞かせると、ライフルを構え照準にロクシリュウを捉えた。


「さあ来い!」


 ヘイジの言葉を理解した訳では無いだろうが、いよいよ迫るようにロクシリュウが足を踏み出す。その瞬間、ロクシリュウが光に包まれた。


「あ……」


 一瞬で全てを察したヘイジの元に衝撃波が届く。


「どぅあぁ!」


 轟音と熱波が全身を襲い、今日一番の危機感を感じさせる声を上げてヘイジは背中からすっ転んだ。


 耳鳴りの中、ヘイジはどうにか上体を起こして爆発のあった方を見る。


 尻餅をついたまま呆然と見つめる先にあったのは、体の前半分のほとんどを失った見るも無残なロクシリュウの死体だった。


「……まじかあ」


 あまりにもあっけない決着であった。


 背後の前衛達からも反応がない。ロクシリュウが倒されたのなら歓声でも上がりそうなものだが、あまりにも唐突な決着に皆唖然とするしかなかった。


 結局その後は特に脅威となる特獣が現れることも無く、迂回波が散り散りになった事で防衛戦は終了となるのだった。

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