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43.おそらく人類史上初の作戦

「昨日新しいスキルを覚えたんだ。対特獣地雷っていう―、おっも!」


 おもむろに何か取り出したヘイジだが、予想外の重さを支えきれず机に強打する。


 それはオリーブ色の円盤のような物だった。直径は三十センチ程で厚みは十センチあるかないか。しかしヘイジが使用しているライフルよりずっと重く感じた。


 ヘイジの発言の通りそれは特獣を標的にした地雷である。元ネタはアメリカ軍がかつて使用していた古いタイプの対戦車地雷だ。


「こ、これなんだけど、特獣が踏むと爆発が起きるトラップみたいな物なんだ。これを沢山設置すれば多少は数を減らせるんじゃないかなって」


 そう説明するヘイジは、机と地雷の間に挟まれた指の痛みをこらえるのに必死だ。


 一方のオリヴィアはヘイジと地雷を交互見て目を丸くしている。


「話には聞いていたが、本当にどこからともなく出てくるのだな。しかし爆発系の罠ということだが、これは見た事が無い。魔法道具ではないのか」


 興味津々な様子で地雷に顔を近づけて、コンコンと叩いたりしている。


「また変なのが出てきたわね。ホントどうなってるんだか」


 リタも慣れた様子でツッコミを入れつつ、同じく身を乗り出して興味深そうに地雷を見ていた。


「あの手の罠って魔力費が悪いわりに威力は微妙なんだけど……。ヘイジのスキルにそういう常識を当て嵌めるのは無理があるわね。実際威力はどんな感じなの?」


「いや、まだ試した事はなくて。あ、オリヴィアさんあまり強く叩かないでもらえると……」


 ヘイジも自分の非常識さは理解しているのでリタの前半のぼやきは流しつつ、しかし威力がどうかと言う問いには困ってしまう。なんせミヤマオオロクシを討伐後に使えるようになったばかりのスキルなのだ。


「おっと、すまない。では今から実際に試してみるか」


 そう言うとオリヴィアはカップをぐいとあおって立ち上がった。


「え?」


「いいんじゃない」


 リタも乗り気だ。確かに本番になって威力不足が露呈、などとあっては目も当てられないので、急遽森に出て地雷を試すことになった。


 そして数十分後。地雷を設置したヘイジは、リタ、オリヴィアと共に特獣が触雷するのを今か今かと待っていた。


 破片や衝撃波等、ヘイジが分かる限りの注意喚起をして、遠くの岩陰から覗いている。


 余談だが実験台となる特獣を探す際、「こっちだ」と何でもなしに言うオリヴィアについて行くとすぐに特獣が見つかった事に、ヘイジは大変驚いた。つくづく魔法を扱えない自分が憎らしくなる。


 しばし三人で雁首を揃えて見ていると、実験台に選ばれたヒメヤマトカゲがのそのそと動き出し、置いておいた餌に釣られて地雷の上を踏んだ。


 息を呑む三人。


 しかし爆発は起きず、ヒメヤマトカゲは餌を頬張るとどこかに行ってしまった。


「なにも起きなかったぞ」


「もっと重たい奴じゃないと反応しないのかも」


 ヘイジも具体的な装備の性能はいまいち覚えていなかったので、この辺りは手探りになってしまう。


 ただ元ネタが対戦車地雷ということで、起爆にはある程度の重量が必要だと考えられた。ということで、地雷を回収すると今度はもっと体重のある実験台にしてみることに。


 しかし異常分布の影響で手頃な特獣を見つける事が出来ない。そこでオリヴィアの提案で岩を使って起爆を試す事になった。


 数百キロはありそうな「手頃な岩」を数十メートル先の地雷に向けて投げるオリヴィア。


 見事に地雷に命中した瞬間、岩がオレンジと白の光りに包まれる。しかしそれもすぐに黒煙と土煙に覆い隠され、少し遅れてやってきた強烈な爆発音がヘイジ達を通り過ぎていった。


「うおっ」


「きゃっ」


「おいおい」


 三者三様の反応で立ち尽くす所に、少し遅れて砂礫や木片がバラバラと降り注ぐ。


 ヘイジが若干顔を引きつらせて二人を見ると、同様の表情をしたリタが静かに見返してきた。


 一方オリヴィアは、爆心地を眺めながら一人満足そうに頷いている。


「これは確かに効果的だな。ある程度の重量が無いと反応しないのも都合が良い」


 体重が重いのは巨大な体躯や頑丈な甲羅など持つ、比較的脅威度の高い特獣であることが多い。


 地雷が幾つあったところで、一万と予測される迂回波の前では焼け石に水だろう。しかしこれら高脅威度の特獣を狙い撃ちに出来るのは、ハンターの被害を減らすうえでも有効そうだ。


 ただ問題もある。


「ヤバさは十分理解したけど、爆発しなかった物は回収できるの?」


「出来るは出来るんだけど、ちゃんと回収物を自力で見つけないといけないんだ」


 リタの問いに答えるヘイジの表情は苦い。


 ヘイジがスキルで出した物は、本人が望めば消失させることが出来る便利なものだ。ただ、漠然とどこにあるかも分からないスキルの産物を消すことは出来なかった。


 つまり防衛戦が終わった後、不発の地雷を探して一つ一つ回収する必要があるのだ。


「起爆に条件があるとはいえ、回収漏れがあると結構怖いわね」


「そうなんだよ。だから一か所に大量に地雷を密集させたポイントを、いくつか作ろうかなって」


 これがヘイジの作戦だった。


「うまく全部に誘爆してくれればの話だけど……」


 ぼそりと付け加えるヘイジ。あの爆発を見れば大丈夫そうではあったが、誘爆しきらずに残ってしまう懸念も無いわけではない。


 ただその可能性を考え出すときりがないので、そこは祈るしかないとヘイジは諦めていた。


「一つでも起爆すればそのポイントの地雷はまとめて爆発するわけか。それなら残った地雷の場所も分かりやすいな」


 オリヴィアもヘイジの作戦の意図を理解して頷く。比較的脅威度の高い特獣を狙いつつ周囲の特獣も巻き込むことができる。密集させた地雷の個数さえ管理していれば、回収漏れも起こりにくいだろう。


「合理的だな」


「そうね。時間があればもっと色々できそうだけど、現状だと十分じゃないかしら」


 こうして、実際にその性能を確認したリタとオリヴィアは作戦に賛同し、彼女達を経由して提案されたこの作戦は直ぐに承認された。


 と言っても今更新しい作戦を組み込む余裕はファシュマン側には無い。それゆえ誤爆と混群の散逸が起きそうな場所は避けて、後は好きにやってくれと放り投げられた形だった。


 その後すぐさま地雷の敷設に取りかかることに。リタとオリヴィアの力も借りて、ヘイジはせっせと設置して回った。


 こうして数日でファシュマン東部に、大量の対特獣地雷が敷設されたのだった。

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