25.清算と事情聴取
「群れと?」
訝しげにするクスミ。一方のヘイジは、ただでさえ忙しい中仕事を増やしてしまう事に内心謝りながら、いそいそとカウンターへ回収した素材の数々を出していく。
カウンターには素材を置くためのスペースが広めに確保されているが、今回ばかりはさすがに手狭で、積み上げるように置くしかなかった。
クスミの背後で議論していた職員の一人が不意に視線を上げたかと思えば、ぎょっとした表情で固まる。突如固まった同僚に何事かと顔を上げた他の職員達も、同僚の視線を追った先の光景に絶句してしまった。
ヘイジの背後では職員達と情報交換をしようとカウンターへ目を向けたハンターが、目を見開いて息を吞む。
「お、おい。あれ」
「ん? なんだ―え、マジ?」
声を掛けられた仲間もヘイジの立つカウンターを見て言葉を失った。
一人また一人と、カウンターで起きている異常事態に気付いていく。詰みあがっていく討伐部位の山に、多くの者は目が釘付けになっていた。
「すみません。こんなに多くなっちゃって」
目の前の光景に一人達成感を覚えるヘイジに、ずっと黙っていたクスミがようやく声を掛ける。
「ヘイジさん。もう一度お聞きしますが、群れと戦いになられたのですか」
クスミはじっとヘイジの目を覗き込む。
「は、はい。そうです」
クスミの気迫に気圧されたヘイジは、もしや良くない事だったのだろうかと不安になる。
「……少々お待ちください」
クスミは深刻そうな顔をして席を立つと、背後に立つ職員達の元へ向かう。なにやらクスミが話しかけると、呆然と素材の山を見ていた職員達の驚愕の視線がヘイジに集中した。
その後数回言葉を交わしたクスミは、カウンターに戻ってくるとヘイジに声を掛ける。
「ヘイジさん。こちらにお越しください」
「わ、わかりました」
只ならぬ雰囲気に委縮しっぱなしのヘイジは、案内されるままにカウンターの奥、議論を交わしていた職員達の所まで移動した。
「すみませんヘイジさん。今は我々も事態の把握を進めている最中でして。よろしければ遭遇した群れの情報を教えて頂けませんか」
そう言ってクスミは広げられた大きな紙に視線を落とす。そこに有るのは大きな地図だった。
「あ、はい。もちろん」
何事かと冷や汗をかき始めていたヘイジだったが、情報の提供を求められただけのようだ。
胸をなでおろしたヘイジは記憶と格闘しながら、時折職員達からの質問を挿みつつできるだけ正確に証言する。それを聞いた職員は木札に何か書き込んだり、地図上に駒を置いたりしていた。
「群れの特獣はあれで全部ですか?」
一人の職員がカウンターの素材の山を指さしながら言う。
「いえ、持ち帰れたのは一部です」
むしろ手つかずで残した物の方が多いだろう。
「えぇ」
「おいおい」
「で、では特獣の種類と数もおおまかでいいので教えてください」
質問した職員は顔をひきつらせ冷や汗を流す。他の職員も似たような反応であった。
その後ヘイジは職員達の質問に答え続け、数十分経ったところでようやく解放された。
カウンターに戻り、再びクスミと向き合うヘイジ。提出した素材はいつの間にか回収されており、カウンターの上はすっきりとしていた。
「改めてご協力ありがとうございました」
クスミが神妙な顔で礼を言う。しかしヘイジにはその表情がどこか険しいものに見えた。
「い、いえ。お役に立てれば幸いです」
ヘイジは思わず堅苦しい返事を返す。
「しかし、群れに戦いを挑むのは非常に危険な行為です。それどころか見える範囲の特獣を全滅させるなんて前代未聞です。何故こんな無謀なことをしたんですか」
態度に棘があるように感じられるのはヘイジの気のせいではないらしく、クスミはぴしゃりとヘイジを咎めた。
「すみません。いけると思ったので。あの、群れごと狩るのって、ある程度実力のある人達なら珍しくないんじゃ……」
「まず無いですね。依頼として出すこともありません。少なくとも当ギルドの管轄範囲においては、過去にも例は無いです」
クスミは強く断言する。特獣の群れに対して数に劣る状態で、ましてや一人で戦うなどハンターやギルドにとっては論外であり、例がないのも当然の事であった。
「なるほど……」
ゲーム中で主人公は割にとんとん拍子で英雄扱いされてゆくのだが、ヘイジはその理由が分かった気がした。そして自分がどれだけ危険な選択をしていたのかもだ。
「ヘイジさんの評価を改めなければなりませんね」
「えっ」
クスミの硬い表情や無謀との評価、先程の職員達の堅苦しい態度を思い出して少し構えるヘイジ。
そんなヘイジの様子に気付いたのかクスミは薄く口角を上げると安心させるように口を開く。
「もちろん、上方修正ですよ」
クスミの面差しは依然として起伏が薄いが、その瞳には確かな賞賛と期待が現れていた。
「ありがとうございます!」
「では、清算に移りましょうか」
その後受け取った報酬は、これまでに稼いできた金額の総額を上回るものだった。
「ところで、こんなに狩っちゃって大丈夫だったんでしょうか。死体も大分無駄にしてしまいましたし」
特獣は危険な存在であると同時に、人々の生活を支える資源にもなっている。生きる為とは言え乱獲とも言える数を一度に狩ってしまった事に、ヘイジは負い目を覚えずにはいられなかった。
「これが平時なら当分数を減らすでしょうが、今はそうとも言えません。また平時であれば死体は活用すべき資源ではありますが、それにこだわって被害が出るよりはましですね」
「よかった。そうなんですね」
自分のせいで食い扶持を失う人間はいなさそうだとヘイジは安堵する。
もちろん異常発生はあくまで特獣の移動による増加であって、総数が増えたわけでは無い。なのであまりにも多く狩ると、異常分布が収まった後に生息数の減少が見られるだろう。しかし生息母数が多いのでそれもすぐに回復するだろうと考えられていた。
「人的な被害無くこれだけの数を間引けたことは、ギルドとしても非常にありがたいです」
それよりも人に被害が出る事の方がギルドとしては遥かに問題である。ヘイジの戦果は称えられこそすれ注意されるようなことではなかった。
ヘイジは自分を囲む職員達の態度がどこか物々しく感じられたのだが、それは単に職員達がヘイジの異常な戦果に気圧されていただけである。
ギルドを出ようとしたヘイジは、顔見知りのハンター達に質問攻めにされてしまう。
へとへとで早く宿に帰りたかったが、報酬の重みやハンター達の称えるような顔を見れば悪い気はしなかった。




