23.ワンランク上どころじゃない体験
群れと戦う事にしたヘイジだが、その前に一つやっておきたいことがあった。バックパックを降ろして枝に腰掛ける。
「やっぱり新しい銃は使いたいよな」
先程は邪魔が入ったが、幸い今いる特獣の中にヘイジの場所まで辿り着けるモノは居ない。ヘイジはここで銃を作ることにした。
素材を落とさない様に慎重に並べると、作りたいものを意識する。
素材が瞬く間に消え、代わりに現れたのは木製の茶色が目を引く細長い銃。主に第二次世界大戦から二十世紀前半のアメリカで使用された、セミオートマチックライフルをモデルにしたものだ。
「おー。できた!」
ヘイジは感動しながらずっしりと重いライフルを掲げる。これで今後は好きな時にこのライフルを出現させることができるようになった。拳銃にはない重量感に期待は膨らむばかりだ。
しかしずっと眺めている訳にもいかないので、ヘイジはライフルを小脇に抱えて今度は弾の生成を試みる。
ヘイジが意識を注ぐと、金属製のクリップに挟まれた八発の弾薬が現れた。こちらも問題無く生成出来たようだ。
拳銃の弾薬と比べて尖った弾丸形状とより大きな薬莢は、素人目にも殺傷力の高さが窺えた。
「あれっ」
加えて驚いたことに、魔力を消費した感覚がほとんど無かった。ヘイジの記憶が正しければ、Modを制作するにあたっては、銃の威力が高くなるほど弾薬の消費魔力も大きくなるように設定していたはずである。
当然ながらこれまで使用してきた拳銃弾よりも魔力の消費は多いはずだった。
ロクシリュウと戦って以降、ヘイジは拳銃弾で魔力消費を実感する事は無かったのだが、まさか新しい銃でもほとんど同じ感覚のままとは思わなかった。
「……」
ヘイジはようやく自身の成長ペースを過小評価していた可能性に気付くが、すぐにそれを頭の隅に追いやる。
最早過ぎた事であったし、重要なのは今の事だ。新しい銃を使って魔力がどれ程もつかが唯一の気掛かりだったが、あまり心配する必要が無さそうなのは嬉しい誤算だ。
あとは銃に装弾すれば狩りの準備は完了なのだが、ヘイジの表情はやや固い。と言うのもMod制作にあたってモデルとなる銃を調べた際、本銃は装弾時に指を挟む恐れがあるという情報を得ていたのだ。かなり痛いらしいと評判であった。
左手でライフルを保持すると、右手小指の付け根でコッキングハンドルを押さえながら、右手親指で恐る恐るクリップを挿入する。そのまま底まで押し込むと、すぐさま親指を引き抜いた。指を挟みそうな動きは無い。
「よしよし」
ヘイジは安堵しながら、最後の仕上げとコッキングハンドルを前に押し出す。すると勢いよくボルトが前進してガチリと音を立てた。
「……!」
ゴクリと唾を飲むヘイジ。今後も指を挟まれないよう気を付けると心に誓うのだった。
緊張する場面もあったが、新しい銃の準備も完了。
「よし、やるぞ」
枝の付け根に座り込んで姿勢を安定させ、小さな穴の様な照門を覗く。照星に捉えたのはモリガガメだ。
ヘイジは短く息を吐いた後、その頭部を狙って引き金を引いた。大きな発砲音と反動がヘイジを襲う。反動は拳銃よりも強かったが、ストックを介して肩で受け止めた為かそれほど苦には感じなかった。
モリガガメはもたげていた首を落として動かなくなる。
「よし」
初めて扱う銃であるにも関わらず良く当たる。ヘイジは娯楽の神に感謝した。
ヘイジにとって娯楽の神とのやり取りは、転生直後の鮮烈な記憶として強く残っている。
当然ながら娯楽の神のために、敢えて刺激的な人生を送るつもりなど毛頭無い。しかし今の自分の生活はさぞつまらないだろうとも、この一か月何度も考えてしまっていた。
これで少しは楽しめるだろうかなどと意味も無く考えて、すぐにその思考を振り払った。
銃声を聞いた特獣達が高所に居るヘイジを非難するかの様に騒ぎたてるが、ヘイジは冷静に次の獲物を狙う。
次に狙うのは木の周りを徘徊しているヒメヤマトカゲ。一発目は外すも、ヒメヤマトカゲの近くに立った小さな土煙を頼りに、狙いを修正して再度射撃。ヒメヤマトカゲは動かなくなった。
その後もヘイジを襲わんと気勢を上げる獣達を、一匹また一匹と狩っていく。
「撃ち下ろすだけ、撃ち下ろすだけ」
なおも騒がしさを増す森に焦燥感を覚えるが、自分にそう言い聞かせてどうにか落ち着きを保つ。
不意にキーンと甲高い金属音が鳴り、弾薬をまとめていたクリップが跳び出した。ボルトが後退したまま動かなくなる。弾を撃ちきったのだ。
「おっと」
ヘイジは慌ててリロードする。少々手間取りながらもリロードを完了させたヘイジの足元で何かを引っ搔く音がした。そちらを見やると、いつの間にやら現れたシンリントビクが幹に張り付いて登って来ようとしていた。
「うわっ」
驚きながらもすぐさま発砲。焦って姿勢を乱しながらの射撃だったが、二発目が命中したところで幹から剥がれ落ちていった。
「もしかして、やっぱりヤバい?」
ヘイジは気付くのが遅れていたらと考えて顔を青くする。後悔の念が湧き始めるが、これだけ派手に銃声を鳴らした以上今更ここでやり過ごすのも無理がある。
速やかに群れを狩って、夜が来る前に街に帰るしかないだろう。
その後もヘイジは無心になって銃を撃ち続けた。そうして何回リロードしたかも分からなくなってきた頃、とうとう特獣が周りから姿を消した。
「やりきったか?」
十分ほど待っても、いくら目を凝らしても特獣は現れない。
「はあぁー」
ヘイジは脱力して幹にもたれかかる。作業は単調だったが、周囲に気を張りながらの射撃は思いのほかヘイジを疲弊させた。
ヘイジとしては何時間も戦い続けた様な感覚だったが、大きく日が傾いている様にも見えないので体感ほど時間は経っていないのだろう。
しばらく疲労と達成感で呆けていたヘイジだが、早く帰らねばといそいそ動き出す。まずは木を降りねばならない。
「高い……」
改めて見下ろすとその高さにヘイジは身を竦める。樹皮には凹凸が多くあり、慎重にすれば何とか降りられそうだ。
ライフルが装弾されている事を確認した後、ライフルに繋がるスリングを体に掛ける。同じく装弾を確認した拳銃はズボンの腰に差し込んだ。
幹にしがみついている最中に襲われても反撃できるように、特に片手で撃てる拳銃も出したままにしておきたかった。ホルスターも用意しておくべきだったと少し後悔。
「はあ、ひい」
数分後、ヘイジは慎重に慎重を重ね、幸い特獣に襲われることも無く地面に足を付けることに成功した。
「疲れたあ」
幹を見上げて一言。身一つで二十メートル近く木を降りてきて疲れたで済んでいるあたり、ヘイジも立派に常人を超越している。
ヘイジもその自覚はあるのだが、ある程度成長したハンターなら飛び降りるだけでいいのではとも考えていた。ヘイジにそれを試す勇気は無かったが。
「帰ろ」
ヘイジは圧倒的な地の利を提供してくれた標樹に感謝しつつ、帰還の途につくため振り返って歩き出し、目の前の光景に足を止めた。
「ああ……」
目に入るのは大量の特獣の死体。
「解体しなきゃなのかあぁ」
今回狩った特獣の多くは駆除依頼が常設されているので、討伐証明部位を持ち帰ればそれなりの金額になるだろう。無論全て持ち帰るのは不可能だが、バックパックに空きがあるまま帰るという選択肢はヘイジには無かった。
それからしばらくして。
「あぁ~、終わったあ」
ヘイジはかすれた声を上げる。周囲への警戒を怠らずに解体を行うのは中々に骨が折れる作業だった。空は赤くなり、あと一時間も経てば日が落ちてしまいそうだ。
ヘイジは地面を見渡す。未だ多くの死体が手つかずだったが、時間的にも物理的にもこれが限界だろう。
解体した死体についても、採取した部位以外は野晒しのままだ。殺すだけ殺して放置するのも罪悪感があったが、変に埋葬などしようとして夜になっては元も子もない。
潔く諦めて、ヘイジは街を目指して歩き出した。




