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18.リタもお手上げ

「あのぉ、ここで見た事はあまり言いふらさないでほしいんだけど」


 おずおずと頼み込むヘイジ。


「今更ね。まあ、プライベートな話ならそうするけど、ハンター関連の情報は仲間内で共有するわよ?」


 容赦のないリタである。


「まあ、それでいいか」


 これまでのリタやオリヴィアの姿を思い返すと、ヘイジは銃であれこれ悩むことが些事に思えてきていた。リタの異能に対する見解もあって、もはやそれほど神経質にはなっていない。


 ヘイジは甲羅を地面におろすと、その表面に手を当てて目をつぶる。脳裏に浮かぶ作りたい物を意識して目を開くと、そこには目当ての防具が現れていた。巨大な甲羅は跡形もない。


「おお、できた」


 上手く出来たことに安堵する。二度目であるが、ヘイジにとってもまだ慣れない現象であった。


 今回作ったのは、第二次大戦中に使用された近代軍としては初歩的なボディアーマーだ。


 胸部から上腹部を守る、剣道の胴の様なプレート。その下に連結された、下腹部を守るプレートに分かれている。


「やっぱり重い……」


 オリーブ色のそれは一見布製に見えるが、持ってみるとズシリとした重みがある。布の内に金属板が入っているのだ。


 甲羅と比べれば遥かに軽いが、常時これを着て戦うとなれば話は別だ。ヘイジは改めて自身のステータスを呪いたくなった。


 ヘイジはふと、リタから何の反応も無いことに気付く。不思議に思ってリタの方を見やると、彼女は口をあんぐりと開けて固まっていた。紫の瞳はまん丸と開かれている。


「……」


 ヘイジの戦いを見ても比較的平然としていたリタだが、さすがにこれには驚きを隠せないようだ。


「リタ?」


 反応が芳しくないリタにヘイジが再度話しかけようとすると、リタはゆっくりと口を動かし始めた。


「えっと、それは?」


 相変わらず愕然とした様子のリタ。


「新しい防具」


 リタが聞いたのがそれだけでは無い事は気付いていたが、ヘイジとしても説明のしようがなかった。


「新しい防具って。いや流石にそれは、あんたどうなってるのよ」


 平然としたヘイジを見て調子が戻ってきたのか、リタの表情はこわばりを残しながらも呆れた様子に変わる。


「俺だけが使える魔法みたいなものだよ、うん」


 ヘイジとしても精一杯の説明だが、リタに理解してもらえるとは思えなかった。ヘイジ自身よく分かっていないのでなおさらである。


「たまに生まれつき変わった力を持つ人がいるってのは聞くけど、これはちょっと予想外だわ」


 最早考えることも無駄とばかりに、リタは頭を振って空を見上げた。


 ヘイジからすれば以前見たリタの戦いぶりも、非現実的さではそう変わらない。しかしリタの反応を見るに、装備の製作を見せるのはやりすぎだったか、とやや後悔。


 とはいえもはや手遅れ。ヘイジは話題から逃げるように防具を装着し始める。少し手間取るも装備することが出来た。幾分マシになったものの、やはり無視できない荷重がヘイジに掛かる。


「へえ、そうやって着るのね」


 その様子をじっと見ていたリタが、興味深そうに言う。深い追究は諦めたようだ。


「どうかな?」


 ヘイジも自分の装備が異質に見えるであろうことは理解していたので、現地人の忌憚無い意見を聞いておきたかった。


「え? んまあ……、似合ってぇ……るわよ」


「お」


 あまりにもぼやけた反応。しかしここに姿見があれば、ヘイジは自分の「着させられてる感」に赤面してしまう事だろう。


「絶対だめなやつじゃん」


「そ、それよりも。なんかハンターらしくない色合いね」


 気まずそうに話を逸らそうとするその態度に、ヘイジは静かに傷付く。


「えっそうなの?」


 そして続くリタの言葉に驚かされた。ハンターは特獣に気付かれにくくするために、中でも斥候などは環境に潜むものだと思っていたのだ。


 しかしリタいわく、ハンターは目立つことが大事なのだそう。


 程度の違いはあるが特にこの地域に生息する多くの特獣は色の違いをあまり識別できないそうで、魔力や匂い、音などで見つかることが多いそうだ。また他のパーティーと遭遇した際に、魔法や矢の誤射を避ける為にも目立つ色が基本だった。


 特に、


「単独で突出する斥候なんて、一番目立たなきゃだめでしょ」


 とのことだった。


「はえー」


 ヘイジもよくよく思い返してみれば、テレビで見た猟師はオレンジ色の目立つジャケットを着ていたことに気付く。


「はえーじゃないわよ。あんたも誤射されないように気をつけなさい」


 さらりと恐ろしい事を言うリタ。そもそもは自分の話だと思い出したヘイジは何度も頷く。これからは周囲にハンターが居ないか、より気を配ろうと心に決めるのだった。


「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ」


 ヘイジはヒメヤマトカゲを担いで言う。依頼は完了した上に、追加の獲物も得られ上々の結果だ。それにこれ以上リタを引き留めても悪いだろう。


「そうね。私もこのエリアの調査は一区切りついたし、一緒に帰りましょ」


「あっそうなんだ」


 しかしリタは背を預けていた木から離れてそう答えた。ヘイジの配慮に反して、彼女も仕事を終えていたようだ。


 ヘイジとしてもリタにはハンターとして聞きたいことが多い為、願っても無いことである。


 彼女が居れば道中は安全だろうとの考えもあったが、流石にこれはヘイジも自分が情けなくなった。しかし実力の差を考えれば順当であろうと、言い訳じみて結論付ける。それはそれでまた少し悲しいものだが。


「今日は本当にありがとう」


 二人並んで街へ向かいながら、ヘイジは礼を言う。能力を見られてしまったのは想定外だったが、得るものも多い出会いであった。自分の知識の無さを思い知らされたとも言えるが、それもまた重要なことである。


「別にいいわよ、色々と面白いものも見れたし。あー」


 からりと応じるリタだが、居心地の悪そうな表情で二の句を継ぐ。


「ちょっとフェアじゃないからもう言っちゃうけど、オリヴィアからあんたの事を気に掛けるように言われてるのよね」


 調査中ってのも本当だけど、苦笑しながら語るリタ。その表情からは、純粋に感謝するヘイジへの罪悪感がうかがえた。


「えっ、気に掛けるって」


 突然の告白にヘイジは困惑する。これまでのやり取りに、リタからそういった含みは全く感じられなかったからだ。


「オリヴィアって言うとあの時のもう一人の方か。なんでまたそんな事を」


 気に掛けるという言い方は幾分柔らかく聞こえるが、ヘイジには彼女達のような実力者に目を付けられる理由が分からなかった。


「ええ。私達は同じ特猟会の人間なんだけど、面白そうな人材を見つけたら目を掛けるように言われてて」


 リタは困った様に眉を寄せる。


「特猟会?」


「ん? ああ、うちはまだ新興だから優秀な人手が欲しくてね。あちこち散らばって人材を探してるのよ」


「ごめん、そもそも特猟会ってなんだ?」


 ヘイジは特猟会という言葉を聞いたことが無かった。転生してからはもちろん、前世のゲーム内でも見た事の無い単語だ。


「は? あんた特猟会を知らないの?」


「うん……」


 当然の如く話すリタの様子から薄々予想していたヘイジだが、案の定彼女の反応は呆れや困惑を含むものだった。


「ええぇ、本当に言ってるの。特猟会はハンター関連業務に特化した商会みたいなものよ。反対にあんたみたいなのはフリーってことになるわね」


「おお、なるほど!」


 まさかハンターの企業のようなものがあるとは思わず、ゲームでは聞いたことの無い情報にヘイジは興奮気味だ。


「どんな田舎から来たのよ」


 一方ポニーテールを揺らして溜息を吐くリタ。


「いや田舎の人間も特猟会との関わりはそれなりにあるわよね」


 外部との交流が少ない辺境の集落等でも、比較的多く関わる外来者がいる。行商人とハンターだ。行商人は言わずもがな、ハンターが依頼を受けて訪れることも多い。当然ながら特猟会所属の場合もあるので、それを知らないヘイジはかなり異質に見えた。


「あんたは何から何まで。森にでも籠ってたんじゃないの」


 リタの胡乱げな視線がヘイジに刺さる。


「いやハハハ」


 ヘイジは出自が出自なので笑って誤魔化すしかなかった。


「そ、それにしても優秀な人手って。俺があ?」


 ヘイジは無理やり話題を戻すが、自分で口にして口角が上がるのを感じる。本意かどうかは分からないが、リタの様な実力のある人物にそう言われるのは悪くない気分だった。


「優秀かどうかはまだ分からないけど、少なくとも面白い人材なのは確かね」


 リタはそんなヘイジの様子を見て口角を上げると、忌憚無く切り捨てた。


「う、うん。ありがとう……」


 ヘイジは自分が特異な人間であることは理解しているが、リタからの評価を素直に喜んでいいのかは悩ましい所だ。


「ふふ。まあでも、私自身あんたには興味があるわ。戦いの参考になるかもしれないし」


「え?」


 ヘイジは意外な評価に虚を突かれた。


「自分で言うのもなんだけど、俺に参考になるところなんてあるか?」


 実力的にも、経験的にも、戦法的にも。張り合おうとも思えない程に、リタの戦い振りはヘイジの記憶に焼き付いている。


「何がどう役に立つかは意外と分からないものよ。少なくとも私は、強くなるためなら何だって糧にするわ」


 リタは何でもない事の様に言ってのけるが、その言葉尻からヘイジは強烈な頑なさを感じた気がした。


 先程までどこか達観したような落ち着きのあった瞳は、見開かれた訳でも無いのに飲み込まれそうな気迫を湛えている。


「……確かに。分からないものだよな」


「でしょ?」


 ヘイジは息を呑んだ。リタの強さとそれでもなお力を求める理由は、才能や努力だけでは説明できないのかもしれない。


 その後は世間話をしたり、主にヘイジが雑多な質問をしながら歩く。一応ヘイジなりに周囲への警戒は怠らなかった。リタが居る以上どれほどの意味があるのかは分からなかったが。


 しばらくそうしていると、いつの間にやら街に着く。行きと違って真っすぐ街を目指すだけだったので、ヘイジはだいぶ早く感じた。


「頑張りなさいよ。それじゃ」


 門をくぐると、リタはそう言って離れていく。ヘイジも礼を言って別れた。


 こうして、能力を隠すべきかなどと考えていたヘイジは、僅か三日でリタにその異能を知られるのだった。

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