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17.もうばれた

「魔法が使えないハンターってこういう時大変よねぇ」


 焦るヘイジの様子に気付かないリタは少し話を戻す。しかしその視線は拳銃に注がれたままだ。


 少し居心地が悪くなったヘイジは、話題転換を試みる。


「それより―」


 しかし新たな話題を挿し込む前に、リタが口を開いた。


「ところで小さいの来てるわよ」


「えっ来てる? ちょっ、ええっ!」


 ヘイジはリタに疑念の声を掛けるも、真剣な視線を返されると慌てて周囲を見回す。しかしリロードをしていなかった事を思い出し、あたふたとローダーを出現させる。


 装填を終えて数秒後。茂みをかき分ける音と共に、獣道の十メートル程離れた所にヒメヤマトカゲが現れた。


 その姿を見てヘイジはほっと胸を撫で下ろす。昨日容易く狩れたこともあって、動揺した気持ちはすぐに落ち着いた。


 素早く狙いを定め、しかし引き金を引こうとしたところで、ヘイジは自身が一人ではないことを思い出す。


「あっ」


 ヘイジが視線をやると、リタは悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。


「どうぞ?」


 などと平然として言い放つが、ヘイジが躊躇っているのは理解しているのだろう。


「いやあ、リタさんもどうです?」


 自身の無理のある誘い文句に苦笑しながらも、説得を試みるヘイジ。


「流石に新人向けの獲物を盗るほど大人げなくは無いわ」


 素っ気なく答えるが、実際リタの言う通りなのだ。特獣はハンターの収入源である。特別な事情でもない限りは、この状況で圧倒的な実力を持つリタが初心者向けの獲物を横取りするのは褒められる行為ではない。


「はい……」


 ヘイジにも戦いづらい事情があると言えばあるのだが、その理由を言ってしまえば結局のところ意味が無い。


 どのみち隠し通すことは難しいだろうし、そもそもリタやオリヴィアの戦いぶりを思い返すと、ヘイジは能力を隠すことに意味があるのかも分からなくなってきていた。


 ヘイジはやむなく銃を構える。間の悪いヒメヤマトカゲを睨むと、頭部を狙って二回発砲。ヒメヤマトカゲは崩れ落ち動かなくなった。


「わーお」


 リタは気の抜ける反応に反し、ヒメヤマトカゲに開いた銃創を強く凝視している。そして拳銃へと視線を移した後、最後にヘイジを見つめた。


「驚いたわ。意味は分からないけど、だいぶ面白いことやってるわね」


「あ、ああ。こういうの、他にやってる人いる?」


 どう答えるべきか分からないヘイジは、逆にそう聞いてみた。娯楽の神曰くこの能力はヘイジ固有の物という話であったが、誤魔化しが効きそうな類似の戦法が有るかもしれないと考えたのだ。


「いないわよ。少なくとも私は知らない。ヒメヤマトカゲとは言え、新人がこんなあっさりと倒すなんて尚更。何なのよそれ?」


 しかしそんなヘイジの思惑はすぐに外れる。リタは当たり前のことを聞くなとでも言わんばかりに力強く首を振ると、興味津々に銃を覗き込んだ。


「うーん。魔法ともちょっと違う、特殊な技能みたいなものかな」


 魔法とは言い逃れ出来ないので、ヘイジは諦めてそう答える。嘘は吐いていない。と言うよりヘイジとしても説明のしようが無いというのが正直なところだ。


 そう、とリタは頷くと、俯き押し黙る。かと思えば、頭の中を整理するかのようにぼそぼそと呟きだした。


「金属っぽい物を高速で飛ばしてたわね。爆炎で押し出す感じで。魔力を使った様には見えなかったけど、その前に何か出した時は魔力を使った感じがあったのよね。本人の技能依存の特殊な魔力武器ってところかしら」


 納得した様子のリタだが、今度はヘイジが待ったをかけた。


「ちょ、ちょっと待って。えっ見えたの」


 たった一度の戦闘で、ここまで見破られるとは流石にヘイジも想像外だ。


「ある程度実力が付くとね。まあ目で追うのはギリギリだったけど。あと魔法を使える人は意識して空間の魔力を観察すると、その空間で何が起きたかが大雑把に分かるのよ。空気が圧されてるとか、熱くなってるとか」


 流石に疲れるけどね、とリタは眉間を揉むような仕草をしながら答える。つまるところ、リタはヘイジのタネを暴こうと構えていたのであった。


 ヘイジは容赦なく手の内を探るリタに少々気圧されるが、それよりも彼女の人間離れした能力に戦々恐々とする思いが強い。


「ハンターってすごいな」


「褒められるのは悪くないけど、多分あんたも大概よ。新人でモリガガメを狩れるなんてね」


 リタはそう賞賛するが、ヘイジは素直に受け取ることが出来なかった。樹上での戦闘を思い返して少し顔を青くする。


「運が良かっただけだよ、本当に。木に登ってなかったら多分やられてた」


 木の根元に襲い掛かるモリガガメの姿を思い出す。あれの矛先が地上に居る自身であったらと考えて、ヘイジは身震いした。


「これ目立つと良くなかったりするのかな?」


 適性の事もあるが、もはや銃無しでの狩りなど全く考えられない。ここまで見られてしまったのだからと、ヘイジは最も気になっていることを聞いた。銃を心置きなく使えるかどうかで、ヘイジのハンター生活は大きく変わるのだ。


「その道具さえ使えば誰でも同じことが出来るって言うなら、結構目を付けられるかもね。でもあんたの特殊技能依存って話なら大丈夫じゃないかしら。たぶん、変な奴ってくらいの認識ね」


 好感触な返答にヘイジは気を良くする。変と言われるのはやや気になるが、命懸けで金を稼ぐハンターならば、創意工夫の結果見慣れない戦い方になるのもそれほど珍しく無いのかもしれない。


「また特獣が来ても困るし、帰ろ。あー」


 声を上げたヘイジのは向く先には、モリガガメとヒメヤマトカゲの死骸が有った。特獣の素材を持ち帰らなければならないのだ。昨日は担いで帰れたが、熊サイズの亀となればそうはいかない。


「なあ、聞きたいことがあるんだけど」


「なによ」


「ハンターって特獣の死体を持ち帰る時は、どうしてるの?」


 モリガガメに加えてヒメヤマトカゲまで狩ったのだ。出来る事ならどちらも持ち帰って装備や金にしてしまいたかった。


 聞かれたリタの苦笑いを見て、自分が常識知らずな質問をしたことに気付くヘイジ。


「どうって、担いだり引っ張っていくか、魔法で運搬するかね。これよりもうちょっと大きくなると流石に大変だから、緊急でもなければ運び場まで特獣を誘導してから倒して、あとは運び屋に依頼するのが基本かしら」


 そんな問いかけに丁寧に答えるリタは、面倒見の良い人間であった。


「運び場?」


 ヘイジは聞きなれない単語について聞く。暗にモリガガメの死骸は担いで帰る範疇だと言ったことはあえて聞き流した。筋力が一般人程度にしか成長しないヘイジにとっては、生涯縁の無い話であろう。


「所々に街道から枝道でつながった開けた場所が有るでしょ? あれよ」


「ああ、確かにちょくちょく見る」


 地図を見るとそういった場所は確かにいくつかあり、ヘイジにも見覚えがある。何よりロクシリュウと出会った場所がそうであった。


「そこまで来れば曳車で運べるわけね」


 ヘイジは曳車と言う単語に引っ掛かりを覚える。思わず聞いてしまいそうになったが、直前に街で見た馬車の類であろうと推測して口を噤んだ。曳いていたのが馬では無かったのでそういう事なのだろう。いわゆる馬車すら分からないとなればいよいよ出自を怪しまれてしまいそうだ。


「まあでも個人でやるなら、その場で解体して欲しい部位だけ持って帰るのが無難かしら」


「なるほどなあ」


 ならば装備の製作に使うモリガガメの素材だけでも持ち帰るか、とヘイジはばらしにかかる。狙いは牙や爪、そして甲羅だ。臓器や骨は不要なので、本格的に解体する必要が無いのは救いである。しかし切れ味の良い解体用ナイフを以てしても、その作業は重労働であった。


 早々に見かねたリタが手伝ってくれなければ、とうに日は落ちていただろう。服装を除けば令嬢と見間違うような彼女が、手際よく甲羅を剥がしていく様は圧巻であった。


 ここのところリタに世話になりっぱなしなヘイジである。礼を言うと共に、いずれ形ある謝礼をせねばと心に決めた。


 駆除証明部位や牙、爪をバックパックに入れた後、甲羅を担ぐヘイジ。


「いやキツイな!」


 その大きさを見て薄々予感はしていたヘイジだが、全身にかかる重圧は街まで耐えられそうにない。


「貧弱ねえ」


「流石にそれは異議がある!」


 とても一般人程度が持ち運べるものではない。ヘイジは抗議の視線を送るが、リタはどこ吹く風である。諦めてしまいたくなるが、しかし新たな防具を作る為に、特に甲羅はどうしても確保しておきたかった。


「いっそここで作ろうかなあ」


 ヘイジは思わず口にする。防具にして装備してしまえば持ち帰りは容易だし、そうすれば放置する予定のヒメヤマトカゲを持ち帰ることも出来る。悪くない考えに思えた。


 問題はヘイジの装備製作をリタに見られる点だが、この重さを思えば心理的抵抗は大きくなかった。

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