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15.新しい獲物

 早朝に目を覚ましたヘイジは、朝食を済ませると早速ギルドを訪れていた。昨夜の夕食後は特にすることも無く早々に就寝したので、東の空が白み始める頃には目を覚ましていたのだ。既に昨日作った防具を装備しており、気持ちは準備万端である。


「デニスとかいう男が居ませんように」


 ヘイジはギルドの入口で軽く祈ってみる。ハンターを始めて早々にギルドで会いたくない人物が出来てしまった事は甚だ遺憾であった。とは言え危害を加えられた訳でもないので、口にしたほどヘイジは重く受け止めてはいないのだが。


 どのみちハンターとして生きていく以上、依頼を受けないという選択肢もヘイジには無い。


「おっ、よしよし。平和そうだな」


 ヘイジがざっと見回すも、それらしき人物は見当たらない。仲間を待つ者や依頼に出発する者、依頼から戻ったばかりと思しき者。そしてそれに対応する職員達。人は多いが混みあっているというほどでもなく、騒がしくも落ち着いた雰囲気だった。


 ヘイジは軽く安堵しつつも、特に長居する用も無いので依頼の掲示板へと足を進める。


「次に倒しときたいのは……」


 整然と並ぶ依頼書を品定めしながらヘイジは呟く。


 ヘイジの目標はハンターとして生計を立てていくことだ。ロクシリュウやそれに立ち向かった彼女達の様な強さは求めないが、ある程度の能力を身につけるためにもヒメヤマトカゲばかり狩るわけにはいかない。


「えっと確か、ゲーム通りならあるはずなんだけど……」


 目的の特獣を探して目を泳がせるヘイジ。Modの開発者であるヘイジは、その知識を活かして段取り良く装備を整えていく心づもりだ。したがって次に挑むべき特獣も既に決まっていた。


「あった。よかったあ」


  ヘイジが見つけたのはモリガガメという、大きなリクガメのような特獣の討伐依頼だ。ゲーム中でも最序盤に登場する特獣であり、難易度はそれ程高くないと認識している。


  ヘイジは安堵しつつ受付嬢へと向かう。列に並んでしばし待つと、顔馴染みとなりつつあるクスミの前へとやってきた。


「こんにちは。依頼を受けに来ました」


「こんにちは、ヘイジさん。依頼番号をお願いいたします」


「番号は―」


 ヘイジは番号を伝える。ライセンスを獲得した初日に、この流れは聞いていたので問題無かった。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 機敏に手元の資料をめくり出すクスミ。しかし少々と言う程の時間も掛けずに顔を上げた。


「モリガガメの討伐ですね。失礼ですが、通常二回目の依頼でモリガガメはやや早いように思えますが」


「えっ、そうなんですか」


 意表を突かれるヘイジ。ゲーム中ではモリガガメはヒメヤマトカゲと同様に、最初から受注可能な特獣だ。まさか待ったがかかるとは思っていなかった。


「はい。初心者向けの特獣ではあるのですが、ヒメヤマトカゲが標準脅威度一なのに対し、モリガガメの標準脅威度は二です。体格も大きく攻撃も危険です。大抵の方はもう少し、戦闘と活動環境に慣れてから挑戦されていますね」


 実は標準脅威度の程度を表す時、脅威度一では「一般市民を殺傷し得る」と表現される文言が、脅威度二では「ハンターや一般市民を殺傷し得る」と変化するのだ。クスミの提言も当然のものであった。


「そうですか……」


 ヘイジは悩む。先日の戦闘やゲームでのモリガガメを思い返すと、モリガガメは自身にとってそれ程の脅威にはならないと言うのがヘイジの見立てであった。


「いえ、でもやっぱりこの依頼でお願いします」


 ゲームを判断基準とする事の危険さは、ロクシリュウとの予想外の邂逅を経て思い知っているヘイジ。しかしだからこそより堅実に活動するためにも、可能な範囲においては早急に装備を整えておきたかった。


「かしこまりました。十分お気を付けくださいね」


「せっかく助言して頂いたのにすみません」


「お気になさらないでください。依頼の成功を祈っております」


 ニコリとほほ笑むクスミ。不快に思った様子もない彼女の様子を見てヘイジは安堵した。実際のところモリガガメは攻撃こそ危険であるものの、動きは鈍重で逃げるのは容易な特獣である。


 警告した一方でクスミがすぐに依頼の受諾を受け入れたのは、昨日の成果も併せて勘案した結果ヘイジなら問題無いと判断したからだ。


 ヘイジはクスミに礼を言うと身を翻す。早速依頼へ向かおうと出口へ足を向けるが、そこで違和感に気付いた。ハンター達の視線が自身に向けられている様な気がするのだ。


「?」


 ヘイジは人の前に立つことが得意な人間では無いので、こういった視線に敏感であった。あるいは、だからこそ過敏になっているだけという可能性もあったが。


 ヘイジは表面上は平静を装って出口に進みながら、理由について考えてみる。


「あっそうか」


 ヘイジは自身の服装が、異なる世界、異なる文明の物であることを思い出した。


 それとなく周りを見てみるも、当然ながら似たような服装の人物はいない。注目を集めるのもさもありなんであった。


「もしかして、これからずっとコスプレ状態ってことに……」


 ヘイジは頭を抱えたくなる。ヘイジがModで用意した装備は、一貫して前世の現実の物を忠実に再現していた。当然ながら奇異の目に晒される主人公の事など想定していないのだ。当時は我ながら良い仕事をしたと満足していたヘイジだが、今はその忠実さが憎いばかりだった。




 思わぬ瑕疵に悶えることになったヘイジだったが、その後の道中は平穏なもので、モリガガメの生息域である目的地へとたどり着いた。


「はあ、この辺かあ」


 地図をみて息を吐くヘイジ。ここまでに数刻は掛かっていたが、それに反してそれほど長距離は移動していないだろう。整地された道ばかり歩いて来たヘイジにとっては、体力はともかく心理的に険しい道のりであった。


「当たり前なんだろうけど、戦闘より移動時間の方が圧倒的に多い!」


 ゲームと違って移動も自力で行うのは大変な苦労である。支給された地図が無ければ、獲物を見つけるどころか依頼エリアへたどり着くことも困難だろう。


 ともあれ目的地に到着できたヘイジは、早速モリガガメを探し始めるのだが。


「足跡、足跡。うーん」


 ハンターがフィールドで獲物を探すには様々な方法が存在する。特に魔法を使うことで素早く正確に探査することができるのだが、魔法を使えない場合はその手段も限られてくる。


 即ち足跡、糞、匂いなどの痕跡を追う、狩人と変わらない手法だ。当然ながらそれには豊富な知識と経験が必要とされる。


 あいにくヘイジにはそんなものは無い。せいぜいギルドの資料でモリガガメの足跡形状を学んだ程度である。


「まいったぞ、これは」


 途方に暮れるヘイジ。碌な技能や知識も無しに、広い森で獲物を探すのはヘイジの想像を超える難事であった。


 地図で現在位置を確認しながら探索を続けるも、短くなった影が再び伸び始めたころでいよいよ本格的に焦りを覚えるヘイジ。思わず空を仰いだところで、ふと視線を止めた。


「木、登ってみるか」


 特獣の痕跡を追わねばと地面ばかり睨んでいたヘイジだが、視点を高くしてみるのも悪くないかもしれないと考えたのだ。無論、今のやり方に手詰まりを感じていたというのも多分にあったが。


 手ごろな木に近づくと、瘤に手を掛けうろに足掛け、落ち着けそうな枝を目指して懸命に登る。


「はあ、木登りとかいつ以来だろ」


 ヘイジはどうにかこうにか目当ての太い枝に跨ると一息吐いた。


「おお。悪くないかも」


 落ち着いて周囲を見ると、開けた森というのもあって中々遠くまで見渡せる。上機嫌に視線を巡らすヘイジは、すぐに違和感に気付いた。


「うん?」


 所々にある低木と背の高い草が混じった茂み。その中に不自然に草木が押し退けられた部分があるのだ。ヘイジが目を凝らすと、草木を押し退けているのは大きな甲羅だとわかる。まさにヘイジ探していたモリガガメのものだ。


 その距離十五メートル程であった。


「いや近っ。怖っ」


 肉食傾向が強いモリガガメは、しかし首の伸縮こそ素早いが体の動きは緩慢である。どの様に獲物を捕らえているのかヘイジは疑問だったが、恐らくこうして待ち伏せているのだろう。


 不用意に茂みに立ち入っていれば自身が餌食になっていたかもしれないと知り、ヘイジは顔を青くするばかりだった。

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