14.自己流装備調達
「今日は上手くいったけど、装備がこのままなのは不安だしな」
ヘイジはバックパックから今日の戦利品であるヒメヤマトカゲの皮を一枚取り出す。
「これで防具作ろ……」
本来であれば特獣から得られた素材等を鍛冶屋や仕立て屋に持ち込んで、新たな武器防具を揃えることになる。しかしModによって追加されたものは、専用のスキルによってプレイヤーが自作するようになっていた。
ヘイジが初めての依頼にヒメヤマトカゲの討伐を選んだのは、初心者向けというのもあるがModで追加された防具の素材となるからだ。
この特獣の防具は最初のステータスでも作製できるまさに初期装備なのだ。
「こ、こうか?」
ヘイジはヒメヤマトカゲの皮を手に持ったままスキルの発動を試みる。すると頭の中に製作可能な装備が浮かび上がった。
「あー、こんなのだったな」
文字や画像ではなく、忘れていた知識を唐突に思い出す様な感覚を覚えるヘイジ。目的の物を選ぶと、素材が手から消えると同時に布の塊が現れた。
「おわっ、本当にできた」
自分でスキルを使用した結果であるにもかかわらず、ヘイジは驚いてしまう。既に銃を出せていたとはいえ、素材が瞬時に防具に変化するさまを想像できず半信半疑だったのだ。
「何というか、ゲーム的だなあ」
畳まれた成果物を広げながらヘイジはぼやく。あまりに異質な光景に困惑してしまうが、手軽に装備が手に入るのだからと納得する。装備の製作を依頼すれば素材を用意しても手数料が発生するわけだが、それが不要なことも大きい。
「これが防具かあ……」
本来この世界の防具とは、一種の魔法道具のようなものだ。天然素材や特獣由来の優れた素材と職人の魔力を使ったスキルによって、外見からは想像もつかない防御力を着用者にもたらす。
しかしヘイジが作ったものは、ゴワゴワとしたジャケットのような物だ。その製作過程も相まって、ヘイジにはそれが特獣の攻撃に耐えうる物なのか甚だ疑問であった。
「これ防御力とか……」
ヘイジは不満げな声をこぼしながら、背面を見たり裏返したりしてみる。
「大丈夫なのか?」
それはヘイジの前世の世界で起きた、二度目の世界大戦の歩兵の野戦服をイメージして作られたものだ。正面はジッパーとボタンで二重に閉められるようになっており、胸と腰の位置にはポケットが左右ひとつずつ付いている。
オリーブ色で統一された外観は自然に溶け込みやすそうではあるが、特獣相手にどれ程の意味があるかも怪しいもので。
「まあでも、Modを作ったの俺だしなあ」
モデルとなった野戦服は、実戦に即した様々な機能や工夫が凝らされた物であろう。しかしヘイジは外見を参考にしたに過ぎない。銃やスキルのように、ちゃんと機能するのを祈るしかないヘイジであった。
ため息に不安を押し込めつつ、ヘイジはもう一枚の皮を取り出す。少し思案する様なそぶりでしばし皮を見つめると、それはジャケットと同色のズボンとベルトに変化した。
ジャケットと同様に野戦服を参考にしたもので、左右の腿と尻には大きめのポケットが付いている。
「一応、着てみようかな……」
正直なところ防具としての信頼はしていないに等しいヘイジだったが、せっかくだからと完成したジャケットとズボンを着用してみる。幸いサイズは丁度良く、体を動かしにくいということも無いようでひとまずヘイジは安堵した。
「防御力ってどうなってるんだっけ。しまった、覚えてないな」
しかしゲームよろしく装備のステータスを可視化できるわけでも無いので、依然として防御力には懸念が残るままだ。
「まあ、しゃあない。明日も頑張ろ」
ヘイジは諦めと共に防具を脱ぎ去る。
「せっかく銃があるんだし、離れて戦えばなんとかなるだろ」
そもそも防御力を体感する様な事態は避けるべきなのだ。特獣の攻撃が届かないほどに距離を取ればよいと、ヘイジは割り切ることにした。
ふとヘイジが窓を見ると、防具に頭を悩ませているうちに夕食時となっていた。思いの外時間をかけていたことにヘイジは驚きつつも、食堂へと降りて夕食を摂る。味も量もそこそこであったが、懐に優しくヘイジは助かっていた。
ベッドを軋ませて眠りにつく頃には、胸のつかえのことなどヘイジはすっかり忘れ去っていた。
夕暮れ時のギルドでは、相も変わらず職員たちが仕事に勤しんでいる。ハンター達の来訪時間は様々であるが、ピークはとうに過ぎていた。作業は専ら夜勤への引継ぎ業務であり、比較的穏やかな時間が流れている。
「そういえば例の新人さん、早速駆除依頼に出ていらっしゃいましたよ」
事務作業を続けながらクスミはタリンにそう告げる。
「えぇ!? 例の新人って、あの能力がちぐはぐな彼?」
タリンは驚いて聞き返す。ここ最近ライセンスを取得した新人はヘイジしかいなかったのだが、まさか彼が駆除依頼を受けるとは思わなかったのだ。
「だっ大丈夫だったのぉ?」
「ええ。対象はヒメヤマトカゲでしたが、当日の昼過ぎには帰ってこられましたよ」
「あぁ、やっぱりきつかったのかなぁ」
机に肘をついたタリンは、惜しい物を見るように目を細める。
「いえ、二匹駆除されていました」
「うそぉ! 筋力も魔法力も一般人程度なのにどうやって倒したんだろう」
「ヘイジさんの適性だと魔法での討伐は無理ですから、武器を使って倒したのでしょうが」
クスミは書類から顔を上げてタリンに目を向ける。感情をあまり表に出さないクスミにしては珍しく、その顔は明確に困惑を示していた。
「角に比較的新しい傷が付いていませんでした。そうするためには、近距離で抵抗を許さず瞬時に倒したか、飛び道具で急所を狙い撃って倒したか。いずれにしてもハンターになりたてでは困難でしょう」
実のところヒメヤマトカゲは特獣であるものの、体表の丈夫さや身体能力は無害な動物から大きく逸脱しているわけでは無い。
能力が成長していない一般人でも、一応討伐は可能なのだ。しかしそれは、ヒメヤマトカゲの挙動や急所を理解し、かつ武器の扱いが非常に熟達していればの話である。
「可能性としては、ハンターないしそれに準ずる経験が無いというのが嘘か。あるいはこの短い間に著しい成長をした等でしょうか」
ヘイジは筋力や魔法力が一般人の領域を超えることは無いが、俊敏や技巧が成長していれば武器を使って何とか討伐は出来るだろうとクスミは考えていた。
「うーん。嘘をついてるってのは無さそうかなぁ。彼の振る舞いを見た感じ」
「私も同意見ですね」
過去にトラブルを抱えてハンターを辞めた人間が、身分を変えて再度ハンターになることは無い話ではない。しかし二人は、ヘイジから新人特有の初々しい雰囲気をしっかりと感じ取っていた。
「じゃあ著しい成長ってぇ」
時にハンターは、常識破りの急成長をすることがある。格上の特獣と戦い、生き延びた時だ。
二人はヘイジにその機会があったことを知っていたものの、困った様に苦笑するしかない。
「ロクシリュウの討伐に貢献したってことぉ? それこそあり得ないよぉ」
クスミの言うように、それは考え難い事であった。戦うと言っても、安全な所から石を投げたり、ただ逃げ回るだけでは成長できないのだ。
特獣の討伐や撃退に繋がる働きをすることで初めて、ハンターは己を成長させることが出来るのだ。当然ながら、先日の測定結果を見る限りヘイジにはその素質が無い。
「天性の戦闘センスでも有るのでしょうかね」
測定と言えば、とクスミは書類に戻していた視線を再びタリンに向ける。
「能力測定でのおかしな事象も結局分からずじまいなんですよね」
「そう! そうだよ! あれ何だったんだろうなぁ」
タリンは椅子の背にもたれかかり天井を見上げる。ヘイジの総合力を測定したとき、確かに一等級の光を見たのだ。しかし各能力にそれらしいものは無く、とうとう分からず仕舞いであった。
「原因を考えようにもぉ、わたしは測定器の仕組みとか全然分からないからさぁ」
「開発は先魔研でしたか。ヘイジさん本人の事は伏せた上で、それとなく聞いてみるのもいいかもしれませんね」
能力測定器の開発に携わった国立の研究機関を思い浮かべて、クスミは苦い顔をする。
国力の骨子を担う優秀な組織ではあるのだが、院長を始め一癖も二癖もある人間ばかりと専らの噂だ。まともな返答は得られそうにないだろうとクスミは考えていた。
「七つの光石以外に未知の能力でもあったりしてぇ」
「未知なら測りようもないでしょうに」
「まあ言ってみただけぇ」
タリンは気にする様子を残しつつも、既に諦め気味であった。人の能力値を診ることを好む彼女であったが、能力値そのものや測定技術の専門家という訳では無い。今あれこれ考えても仕方ないというのが当面の結論だ。
クスミにとってもヘイジはこれまでに見たことの無い特殊な事例であったが、今は様子見するのみと判断していた。
ともあれ、優秀で問題を起こさないハンターならそれで十分良いとも言える。二人は確実にヘイジへの感心を高めたものの、次第に話題は他愛ない事へと移っていき、日は暮れてゆくのだった。




