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11.初めての(ちゃんとした)戦い

 リタと別れたヘイジはギルドを出ると、ハンター向けの消費財を扱う商店へと向かった。


 バックパックや解体ナイフ、回復薬など必要な道具を一通り購入し、装備を整える。満足げなヘイジは、質量をほとんど失った財布から努めて意識を外しつつ目的地へ向かった。


 門を抜けて街道に出た所で、ヘイジは違和感を覚える。ここまで歩いてきたにもかかわらず、道具の入ったバックパックを背負っていることを感じさせないほどに体が軽いのだ。


 大した距離を歩いたわけではないが、それでもヘイジは明確に足取りの軽さを感じていた。


「うん? もしかしてステータスが成長してるのか」


 身体的変化の理由としては、それが最も無難な答えであろう。ゲーム的に言ってしまえば、ヘイジも一応はロクシリュウとの戦闘に参加していたので、討伐に際してステータスの成長があってもおかしくないはずだ。


「それくらいは有ってもいいよなぁ」


 ヘイジはロクシリュウの討伐に自分が貢献できたとは思っていないが、それはそれとして死ぬような思いをしたのだ。少しくらい経験値が貰えても罰は当たるまい、と内心ぼやいた。


 物は試しと目的地の森へ向けて全力で駆けてみるヘイジ。足を踏み出した瞬間、これまで体験したことのない速度で周囲の景色が流れだした。


「うおやばっ。速っ」


 予想だにしない速度に、ヘイジは手を振り乱しながら止まろうとする。足が絡まりそうになりながらも、高速で回る足を何とか停止させた。


 どれくらい走っただろうかと、ヘイジは振り返って目を見開く。走り出しから完全に止まるまで五秒ほどであったが、優に百メートルは移動していた。


 リタやオリヴィアほどでは無いが、以前の自分とは比べるまでもない程の変化であった。


「もう人間辞めてないかこれ……」


 ヘイジにとってこの成長度合いは予想以上のものだ。生身とは感じ方が違うことを考慮に入れても、ゲームでもここまで顕著な成長は覚えが無かった。


 初めてのステータスの成長であったが、ロクシリュウから得られた経験値は想像よりも多いのかもしれない。


「これなら少しは死に難くなったんじゃないか」


 他の能力も期待できそうだ、とヘイジは頬を緩める。この成長は、この世界で生きていく上での大きな一歩と言えるだろう。ヘイジは期待に胸を膨らませると、バックパックを背負い直して上機嫌に歩き出した。


 そのまましばらく歩き、街道が森に接する所まで来る。目的は街周辺に生息するヒメヤマトカゲの駆除である為、ここからは生息域である森に入ることになる。


 ヘイジは森を前に一呼吸おくと、気を引き締めて木々の影に足を踏み出した。まずは街道を軸に周囲の森を探索していく。


 ゲームならもっと楽なのに、などと内心不平を垂れながらも、ヘイジは周囲への警戒を怠らない。突如聞こえる鳥の鳴き声や異様に大きな虫に驚かされながら探索を続けていると、幸い一時間ほどで遠目にヒメヤマトカゲを発見することが出来た。


「なにがヒメだよ、ほんとに」


 思わずぼやくヘイジだが、それも無理のないことだろう。視線の先でのっそりと歩くその特獣は、大型犬ほどのトカゲであった。


 褐色の体に地球のトカゲより長い四肢を持っており、体高も大型犬に近く、鋭いかぎ爪はしっかりと大地を掴んでいる。ヘイジが画面越しに見たものより遥かに迫力があった。


 後頭部には二本の角、時折開かれる口には牙が無数に並んでおり、いかにも狂暴そうだ。あれで噛み付かれればひとたまりもないだろう。常時駆除依頼が出されているのもむべなるかな、という風貌であった。


「うーん。なんか既視感あって嫌だな」


 体色や脚の数こそ違うが、ロクシリュウを小さくしたような姿に見えるのだ。ヘイジの脳裏に昨日の恐怖体験がフラッシュバックし、背中を脂汗が伝う。


 ヘイジは唾を一飲みすると腰を屈め、拳銃を出現させる。合わせて弾丸も生み出すと、以前よりも素早く慣れた手つきで装弾。


 加えて前回弾丸を出したときは、はっきりと魔力が減る様な感覚が有ったのだが、今回はほとんどそれが無かった。ヘイジはその手応えに、確かな成長を感じて眉を上げた。


 自信を胸に、目を細め標的を睨むヘイジ。百メートル程離れているので、もっと近づかなくてはならない。


 ヘイジの記憶では、この拳銃の有効射程は五十メートルほどに設定されていた。しかしこの世界において、ゲーム上の設定がどこまで通じるかは不明だ。いずれにしても不意打ちで確実にダメージを与えるために、可能な限り距離を詰めるべきだろう。


 幸いにしてヒメヤマトカゲは狙われているとも知らず、伏せて木漏れ日で日光浴の最中。ヘイジは姿勢を低くしたまま息を殺し、じりじりと歩を進める。


 二十五メートルは切ったかというところで、ヘイジの足元でパキリと音が鳴った。枝を踏み折ったことを悟ったヘイジは、内心で舌を打ちながらも足元に視線を向けたりはしない。


 素早く拳銃を構えると、呼吸を抑えて照準器にヒメヤマトカゲを重ねる。緩慢な動きでヘイジへ向けられた頭部を狙って、引き金を二回引く。そして間髪入れずに幹の影から飛び出すと、ヒメヤマトカゲの背後に回るように駆けだした。


「クソッ。少しは弱っててくれよ!」


 ヘイジはヒメヤマトカゲの一挙手一投足を見逃すまいと、その姿を食い入るように睨みつける。ここからは相手の攻撃を避けながら射撃を命中させなければならないのだ。


 一方のヒメヤマトカゲはまるでヘイジなど意に介していないかのように、どっしりと伏せたままだ。


「ん?」


 いつ跳びかかられても対応できるように、と警戒するヘイジは眉をひそめる。反撃を避けてその隙を狙おうと構えていた彼の思惑に反して、ヒメヤマトカゲは一向に襲い掛かってこない。


 ヘイジはもしやと思い、拳銃を構えたままヒメヤマトカゲを中心に円を描くように、その正面に回ってみる。


「あっ……」


 ヒメヤマトカゲは、目を見開き眉間から出血。半開きの口からは舌がだらりと垂れ、息をしている様子もない。


 ヘイジは恐る恐る近づき、木の枝でつついてみる。ピクリともしない。即死であった。


「……ぃよおし。や、やったぞ!」


 正直なところ不完全燃焼な感が否めないヘイジであった。


「こんなにアッサリいくとはなあ」


 しかし安全かつ迅速に特獣を倒せた事実は非常に大きい。ヘイジは胸をなでおろす。ゲーム中で最初期に戦う特獣とは言え、ここまで一方的に戦うことが出来たのだ。初めての依頼としては、これ以上ない好調な滑り出しと言えるだろう。


「よいしょ」


 ヘイジはヒメヤマトカゲの死体を持ち上げ、肩に担ごうとする。細かな鱗はつるつるとしていて、手汗でもかけば滑って落としてしまいそうだ。


「おもっ……たより軽いな」


 少し強がってみるヘイジ。ステータスが成長したのだから、これくらいは余裕で運べねばと意気込んでいたヘイジだが、予想に反して見た目通りの荷重が体にかかる。


「そう言えば、筋力のステータスは成長しないんだった……」


 彼にできるのは、ありふれた筋トレぐらいのものだろう。ヘイジは街へ向けてトボトボと歩き出した。


 こんな事をしているのは、死体を街まで持ち帰るためだ。依頼を達成するだけなら角だけ回収すればいいのだが、ヘイジは他の素材も入手しておきたかった。


 しかし彼には特獣を解体する経験が無い。そのようなハンターのために解体を請け負うサービスがあるのだ。


 しばらく歩いたところで、ヘイジは視界に動くものを見つける。


「お」


 またしてもヒメヤマトカゲであった。


 依頼の駆除数に決まりは無いので無視しても良いのだが、せっかくだからと拳銃を取り出すヘイジ。


 あまり警戒していなかったせいか、先ほどと違い向こうも既にヘイジに気付いている。しかし牙を剝き出しにして駆け寄ってくる姿は、ロクシリュウと比べてとても緩慢に見えた。


 ヘイジは冷静に射撃を二回。ヒメヤマトカゲはくずおれると、そのまま動かなくなった。


「よしっ」


 ヘイジは小さくガッツポーズをする。よほどの不意打ちでもされない限り、ヒメヤマトカゲが脅威となることは無いだろう。

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