お茶会
次の日、兄妹だけでお茶会をするというので、マリーヌは出席していた。ちなみに兄妹のお茶会はよくあることであった。主にリリアンが2人を誘うからだ。
バラが咲き誇る庭で、お茶会の準備が進められた。マリーヌは早々にお茶会の席についていた。
エイダンもリリアンも揃ったところで、ハーブティーが配られた。
リリアンが、花の形をした砂糖を持ってきた。
「お姉様、可愛らしいお砂糖を見つけて買ってきましたわ。これをハーブティーに入れてお召し上がりくださいませ。」
「あら、可愛らしいわね。花の形なんて珍しい。あら、お花の香りがわずかにしているわ。洒落てるじゃない。」
「はい‼お姉様が気に入るかなと思って買ってきました。お姉様はいつもお砂糖を入れませんけど、これだけ小さいお砂糖ならそこまで甘くならず美味しく飲めると思いますわ。」
しれっと、リリアンは答えるが、これこそが、メイソンが開発した変身薬である。サプライズにマリーヌに仕掛ける変身薬作りを依頼したら、嬉々として作成に励んだのである。
メイソンは薬なら、ありとあらゆる物に挑戦しようとする心意気である。それがマリーヌを騙すためなら、睡眠なんて二の次だ。
「僕は、砂糖はやめておくよ。マリーヌも甘党ではないけど大丈夫かい?お菓子は甘さ控えめなものにしてみいたが。」
「え?ええ、そうよ。昔、たくさんケーキを食べてから懲りたの。でも、嫌いではないわよ。」
「そうですよね。去年もケーキを食べて激辛に引っかっちゃったいましたもんね。ふふ。」
リリアンが思い出したように笑う。
「そうよ‼あれ以来、ケーキを食べるたびにビクビクしているのよ‼
全く、甘いケーキを激辛にするなんて悪質だわ‼」とマリーヌが怒る。
「ごめん、ごめん。マリーヌの反応が面白くて、ついね。その後は魔法で甘くして、おいしくいただいたじゃないか。」
「そんなところで、魔法の才を器用に発揮しないでちょうだい‼
まさか、この砂糖も、激辛じゃないわよね??」
「このお砂糖は大丈夫ですよ。それにサプライズの日は明日じゃないですか。」
「それも、そうね。」とマリーヌは安心して、花形の砂糖をティーカップに入れた。しかし、本当は、全然大丈夫な物ではない。変身薬なのだから。リリアンは噓つきの才があるかもしれない。
ここで、エイダンに従者が耳打ちをする。「なにっ?宰相が呼んでる?ああ、あの提出した書類に
ついてか…不備があると厳しいからな。早急に対応した方が口うるさくなくて済む。すぐに行こう。マリーヌ、リリアン、すまないね。」と言って、席をはずした。
そして、リリアンに侍女が、「リリアン様、ロンが逃げ出したそうです。おそらく、リリアン様を探しに行ったのでしょう。他の人にはなかなか懐かなくて困ったものです。」と告げる。
ロンはリリアンが飼っている犬である。巡礼にも連れて行くほど可愛がっている。
「あら、寝てるときに来ちゃったから、驚いたのね。お姉様、少し行ってきます。」と席をはずした。
「あらあら、一人になってしまったわ。」と、マリーヌは、花のお砂糖を追加でドバドバ―っとティーカップに入れた。実は、2人が席をはずしたのは偶然の一致であった。事前の仕込みなどではない。
マリーヌ付きの侍女が、「マリーヌ様、あまりお砂糖を入れるのにはお体には良くありませんわ。」と注意をする。幼い頃から、マリーヌに付いているので、母親のような存在である。完璧主義者のかなり厳しい侍女であるが。
「あら、日頃、太らないように甘いものを控えているからこれくらいいいでしょう。それに、お兄様とリリアンには、甘いものがあまり好きじゃないと言っているのよ。そうしないと、2人とも私の好物をたくさん買ってくるんだもの。おかげで、昔、すごく太っちゃったわ。今は美容部門の広告塔でもある私が太るわけにはいかないわ。
だけど、そのせいで2人の前では甘いものを食べられないし、ストレートで我慢して飲んでいたのよ!このお砂糖はあまり甘くないし、1つがこんなに小さいんだもの。これくらい入れないと甘くならないわ!」
そう、何を隠そう、マリーヌは大の甘党なのである。しかし、以前にエイダンとリリアンの差し入れで太ってしまった経験から2人には甘いものは好きではなくなったふりをしていたのである。
そのため、2人が席をはずした隙に砂糖(変身薬)をたくさん入れてしまったのである。
程なくして、エイダンもリリアンもお茶会の席に戻ってきたが、マリーヌが変身薬を追加で入れていたのには気づかないまま、お茶会は終了した。