兄妹の悪だくみ
ある日、兄のエイダンに呼び出された。
「マリーヌの美容液は本当に評判がいいね。今度、メイソンと一緒に新薬を開発してくれないか?最近、新しい病気が発見されたんだが、薬の開発がなかなか進まなくてね。」
メイソンとは薬開発部門の筆頭魔術師であるが、マリーヌはこのメイソンという男が苦手であった。
自信家で毒舌、言わば、マリーヌと同じような性格であり、一緒にいると大体口論になってしまう。
「嫌よ。あんな男と協力する気になれないわ。私の素晴らしい美容液にも何かと文句をつけて。本当に気に入らないわ。」
「あはは、メイソンもマリーヌも薬品開発の才能はずば抜けているからね。2人がいれば新薬開発が大幅に進むと思うんだ。」
「まぁ、あの男は置いといて、私は天才ですからね。でも、協力するのは嫌だわ。それに、新しい化粧品の開発で忙しいのよ。」
「化粧品は急がないだろう。新しい病気は感染型だから病気が蔓延するのを早期に防ぎたいんだ。」
「リリアンがいるじゃない。」
「リリアンは聖女として忙しいからね。それに、薬の開発は得意ではないんだ。」
噂をすれば、妹のリリアンの朗らかな声が響いた。
「お兄様、お姉様、巡礼から、ただいま戻りました。これ、お土産です。どうぞ。」
「おかえり。今回の巡礼は長かったね。疲れただろう。ゆっくり休んで。」
「あら、また巡礼に行ってたの?あなたは王女なんだから巡礼になんて行かなくても来てもらえばいいじゃない。また、日焼けして、手もガサついているわよ。そんな簡素な服を着て。全く、お母様に似た美貌が台無しじゃない。」
エイダンが疲れを労う一方で、マリーヌは少々毒のある言い方をする。しかし、リリアンが気にすることはない。いつものことだからだ。
「えへへ、また日に焼けちゃいました。新しい病気が流行っているということで居ても立っても居られなくて。少し遠出して様子を見てきましたが、思ったよりも病気は限定的で対処できました。」
「それは良かった。」
「では、お兄様、薬開発はメイソンだけで大丈夫ですわね。私は忙しいので、これで。ご機嫌用。」
マリーヌは、それだけ言うと、颯爽と立ち去ってしまう。
「あら、お姉様は薬開発に乗り気じゃないようですね。」
「ああ。メイソンと協力するのが気にくわないみたいだ。天才が2人揃えば、薬開発が大いに発展するのに。」
「お姉様とメイソンはどこか似てますからね。仕方ないかもしれませんわ。お互いの才能を認めてるがゆえに、一緒にいると相手の才能を目の当たりにして悔しい気持ちが出てしまうのかもしれませんわ…。
それよりも‼‼
明後日はサプライズの日ですわ。準備はできていますか?」
「ああ。メイソンが満足のいく変身薬ができたって言ってたよ。楽しみだね。」
サルスト王国には、1年に1回、サプライズの日が設けられている。その日は、家族や友人等に嬉しいサプライズや教訓になるサプライぞを行っても許される日である。もちろん、悪質なサプライズは禁止されている。
エイダンもリリアンも、毎年、マリーヌにサプライズをするのを楽しみにしている。マリーヌは、反応が面白いからだ。去年は、甘いケーキを激辛にして驚かせた。そして、怒られた。
しかし、エイダンもリリアンも怒られたぐらいでは気にしない。エイダンがすぐに魔法で甘いケーキに戻し、リリアンがアクセサリーをプレゼントして機嫌をとっていた。
「では、予定通り明日はお茶会にしましょう。私もその薬を飲みますわ。楽しみです!」
とリリアンが機嫌良く言う。
「ああ。薬は砂糖のようになっているからね。味も砂糖と同じように甘いから気づかないだろう。砂糖1個で次の日の朝に変身できるようになっている。眠っている間に変身しているだろうから、早朝にマリーヌの部屋に行って、驚かせよう。」
と、2人で悪だくみをしていた。