浦島太郎の真実
この世界で唯一最後の男である兄、鬼島鬼兵衛の遺物を手にした鬼島雉鍋は旅を続けていた。旅の日銭は占いをして稼いだ(予知能力に等しい未来予測ができるので当たるに決まっていた)。屋号は、股にぶら下がっている筈だった兄の遺物に敬意を表して股楼とした。皆は彼女を占師股楼と呼び尊敬した。
「股楼様が来たぞう。占師股楼様じゃあ。」
川沿いの小さな村に大きな声が響く。木曽の山中を歩いていた雉鍋は、前方の大きな声に顔を顰めた。これまでの経験から、こんな風に先走って大騒ぎする村では面倒な事件に巻き込まれるものと相場が決まっていた。
「お兄ちゃん、何だか嫌な予感がするね。」
小さな声でそう言うと、杖の先にぶら下がった鬼兵衛の一部が答えた。
「今のところ、鬼退治が5件に殺人事件の解決が3件だからな。事件がないときも2件だけあったが、その時はその時で村のフェスティバルに三日三晩付き合わされて散々だった。」
重苦しい気持ちのまま足取りだけはしっかりと村に入ると長老と思しき老人が平伏し話しかけてきた。
「彼の名高い股楼様。この哀れな村をお助けください。この村には夜な夜な鬼が降りてきて、朝な昼なは邪竜に巨人が踏み荒らしに参ります。おまけに一週間前に殺人事件が起きて何が何やら分からぬ間に3日前に新たな被害者が、とうとう昨日は5人も一気に殺されました。いよいよ村のフェスが明後日に迫り、主役を務めていただく旅の方を探しておりますのに、こんなでみんな村を避けて通っております。」
「うへぇ。」
思わずため息を漏らすと
「私は右兵衛じゃありません。ウェンディでございます。」
と長老が答えた。
「ウェンディさん、まさかそれ全部を私にお頼みか。」
「股楼様、それだけじゃありません。まぁ、本当はこれが一番の望みっちゃぁ望みなんですが。」
何だか急にもじもじし始める。
「まだあるのか。」
「私の愛しのピーター様を探して欲しいなっていうか。見つけて欲しいみたいな。」
「はぁん。」
思わず変な声が漏れると老人は嬉しそうに言う。
「そうです。私の愛しのパン様です。今はどこで何をされているのやら。」
どうやら少し耳が遠いらしい。
「お兄ちゃんどうする。あいつおかしいって。面倒事どころの騒ぎじゃないし、上手いこと騙くらかしてとんずら決め込んじゃおうよ。」
「そんなで良いのか雉鍋、いや占師股楼様よ。衆生を救わずして何の功徳のあるものか。あぁ占師の名が泣いておる。嘆かわしや嘆かわしや。何もできないしがないちんこの身が悲しい。何もできないちんこが故、股楼様を頼らねばならぬこの身が恨めしい。」
「ずるいよお兄ちゃん。都合が悪い時だけ自分はちんこだとか何とか言って。」
「ちんこはちんこじゃないか。ちんこに目鼻が付いたと言われた令和栄光の先達とは違う。俺には目鼻はない。正真正銘ただのちんこだ。」
「お兄ちゃんは栄光の先達とか言うけど、それ絶対褒めてないから。むしろ軽蔑しきってると思う。どの古文書でもそうなんだから。」
「カーッ、雉鍋は分かってないなぁ。ちんこがいかに素晴らしいかを。あぁ、おぼこな妹が不憫でならん。ちんこの良さが分からないなんて、あぁ可哀想。本当に可哀想な妹だ。」
ひそひそ話していると、ウェンディがいつのまにか目をギラギラとさせている。
「股楼様、今ちんことおっしゃったか。パン様のお股にぶら下がっていたあのちんこに御座ろうか。」
二人は急に身を固くする。
「雉鍋よ、喧嘩してる場合じゃない。」
「まずは鬼退治ね。お兄ちゃんのためだもの、しっかり手伝ってもらうわよ。」
まだ夏だと言うのに木曽の夜は早かった。薄暗い木立ちからひぐらしの声が聞こえる。鬼はその木立ちの向こうから来ると言う。日が落ちる寸前、誰そ彼時に現れるらしい。
「本物の鬼の前で鬼を騙るとは不逞な輩だ。」
軽口を叩く鬼兵衛の隣で雉鍋が震え声で言う。
「お兄ちゃん、何かもぞもぞしない。」
身体も小刻みに震えて心無しか頬も紅い。他所の誰ぞが見たらまぁ何の誤解をせんやと思うが、安全安心の実の妹である。それにしても近親婚を忌む人類の本能に鑑みれば、人類皆兄弟という標語はやがて滅びゆく破滅の未来を暗示したものであろうか。くだらないことを考えながら、おい便所かと言いかけて言葉を失った。もぞもぞしていたのは、雉鍋ではなく目の前の林だった。やがて影はのっそりと起き上がり一声吠えた。鬼は木立ちの向こうから来るのではなく、木立ちの向こう山全体が鬼だったのだ。身の丈10kmはあろうかという巨大な影が二人を見下ろしてもう一度大きく吠えた。
「雉鍋、後ろに跳べ。」
10mばかり後ろに飛び退ったところで、さっきまでいた場所が白く燃え上がるのが見えた。鬼が白熱した光の束を吐いている。
「何だあれ。いくら何でもやり過ぎじゃないか。」
そう言って後ろを振り返ると雉鍋はまだ震えていた。
「お兄ちゃん違うの。違くないけど違うの。私トイレに行きたい。」
雉鍋はもはや泣きそうな顔をしている。鬼兵衛は息を呑んだ。大か小か聞こうとしたが止めた。あまりに下品だし、大でも小でも何も変わらないからだ。しょうがない、兄ちゃんに任せときなと小さな声で独り言を言うと、鬼兵衛の姿はかき消えた。数年振りの時空移動だった。時空移動の体力が自分に残ってるか心許なかったがやるしかなかった。可愛い妹のためではあるが、それよりも誰かのために生きている瞬間だけは生きている実感を少しでも持てるからだった。そんな自分本位な理由に鬼兵衛は気付いていたが、それでもそんな時は少しだけ自分を好きでいられた。自分のことはあまり好きではなかったから、そんな瞬間は替え難く貴重だった。
あらゆる生命が試験官で生まれる世界に男は必要なく、鬼兵衛の持つ男性性は最早純粋に犯罪性と同義でしかなかった。計算され尽くした美しい世界で、誰かのためにという暑苦しい自己犠牲は秩序の破綻をもたらすものでしかなかった。鬼兵衛が密かに憧れる令和の時代とは違い、今は男性性に一片の価値もないマッドパンクの時代だった。
成層圏も程近くジェット気流の中に鬼兵衛はいた。どうやら無事時空移動に成功したようだ。であれば雉鍋も無事なはずだ。便意尿意に無事もクソもないが、何と言ってもうら若き乙女のことだ。万が一クソまみれにでもなろうものならただではすまない。これから先どんなクソみたいな人生を歩むことになるかと思うと気が気ではなかった。
時空移動のため鬼兵衛は反動を使った。自分を成層圏まで移動させる代償に雉鍋の膀胱と直腸の中身を数百メートルばかり移動させたのだ。てこの原理よろしく距離が短い分、うんことしっこは物凄い勢いで後方に撒き散らかされたはずだ。村がうんこまみれになるが、ウェンディ以下村人達には我慢してもらおう。妹の名誉には代えられないし、それに鬼兵衛の理解しているところではウェンディの自業自得に違いなかったから。雉鍋はそのことに気付いているだろうか。
成層圏は空気が薄くとても冷えた。目の前に鬼の頭がある。小山程もある鬼の顔は笑っているように見えた。鬼兵衛は身体に血を集め身を硬くした。勃起と呼ばれる状態だ。筋肉のように硬く、石のように硬く、さらに鋼鉄よりもまだ硬く槍のように大きく尖った鬼兵衛は鬼の左目へと向かって行った。驚き目を瞑ろうとする瞬間に鬼兵衛は身体中の血を戻し力を抜いた。弛緩し地面へと落ちながら、鬼さんこちらと言って笑った。
山のような大鬼ははしゃぐような大声を出して追ってきた。束ねていたロープをたぐるように首が伸び、その分胴体はほどけて細くなっていく。ろくろ首のようだ。追いつかれそうになるたび鬼兵衛は急加速や急カーブを繰り返し逃げ回った。その度に大鬼は面白そうに笑う。手を打ち踊るようにして喜んでいた。散々追いかけっこをして、速度をわずかに落とし追いつかれそうになった風を装い鬼兵衛は白屁をこいた。今や腸管はおろか内臓のほとんどを無くした鬼兵衛にもできる屁技の一つだった。もう一つは赤屁だが血液量が絶対的に少なくほとんど威力がない。鬼は目を潰され、鼻がもげそうな臭さに耐えかね悶絶しながら地面へと落ちて行った。落ちながらその身が急速に縮んでいった。
鬼兵衛はもう一度時空移動した。白屁の反動で鬼兵衛自身も縮み始めている。残された体力も余りない。鬼が堕ちていくその先へと移動するとそのまま雉鍋のいる地面へ墜落していった。
尿意便意が急に楽になり雉鍋は冷静さを取り戻した。いつの間にか山のような鬼も兄もいなくなっている。木曽の山中はとても静かだ。お兄ちゃんといると調子狂っちゃうのよね。心の中で独り言を言って雉鍋は静かに歩き始めた。自分の後ろ、ウェンディの村の方へ。
ウェンディさんちょっと悪戯が過ぎるのじゃないかしら。歩きながら考える。お兄ちゃんは気付いているかしら。いくら何でもやり過ぎだ、とか言っていたからやっぱり気付いていたのかしら。
村が近くなるに連れ何だか段々臭くなってきた。トイレの臭いだ。雉鍋は嫌な予感がする。お兄ちゃん、やっぱり碌なことをしない。ますます臭気が濃くなる中、子供がはしゃぐような声が聞こえる。
「ひゃっほう、うんこだ、お祭りだ。降れ降れおしっこ、もっと降れ。うんこだ、しっこだ。ぶーりぶり。ぶりぶりびちょびちょ、うんこジェットコースターーーー!!キャハハハハァ。」
ケタケタと笑いながらどたどたと走り回り踊り狂う人影が見えた。月明かりに照らし出されたのは狂気の顔だった。目には妄執の光が宿っている。雉鍋は静かに一歩一歩と近付くと声を掛けた。
「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の身もこがれつつ。誰かを待つのというのはとても辛いものかしらね。それにしてもこの散らかりよう。一体全体、誰かがびっくり玉手箱でも開けたのかしら。」
「これはこれは股楼様。昔から待つのは待たせるよりもなお辛いと申しますし、玉手箱を開けるのは浦島太郎と決まっております。」
「それは違うわ。今日の玉手箱を開けたのは、永遠の少年を待つ乙女よ。ところで古より木曽には鬼女が出ると言います。鬼女に会うのは旅人かしらそれとも山中に住む村人かしら。」
「鬼女に会うのは旅人です。命辛々逃げおおせたと聞きます。」
「それも違うわ。鬼女に出会ったのは村人よ。村人は本当の鬼に会ったのよ。」
雉鍋の声音は次第に歌うような節回しになっていく。
「時には鬼と出会ってしまうこの世の中、人々に必要なものは何かしらね。ウェンディさん、それはね、」
雉鍋は続ける
「鍛錬、修練、コルト連。」
いつのまにか雉鍋の手にはコルト式の拳銃が握られていて、放たれた6発の銃弾は全て正確にウェンディの体に命中した。さっきまで手に何もなかったのに。ウェンディは前のめりにどうと倒れた。雉鍋は大きな穴を掘るとウェンディを投げ込んだ。
「王様の耳はロバの耳、ウェンディのものはウェンディの世界へ。」
そう唱えると次はお兄ちゃんねと言って夜道を歩き始めた。
そのころ鬼兵衛はひよひよと漂いながら地面へと落ちていた。すっかりしぼんで勢いをなくし、ゴム風船よろしく風に煽られ行ったり来たりしている。大気との摩擦で一時は激しい火の玉に包まれていたが、今は随分と下火だ。消えかけの炎をまとったちんこの人魂は力なく竹藪に落ちていく。意識は朦朧としていて、地面に激突する恐怖を感じ反射的に時空移動をした。そしてそのまま意識を失った。
木曽を探し回った雉鍋は光り輝く竹を見付けた。状況は思った以上に良くないようだ。世界を子供の遊び場に変えればピーターパンが帰ってくるのではというウェンディの目論みを阻止しネバーランドに送り返したがこの有様。混沌の大元はウェンディだけではなさそうだ。それに今度はかぐや姫だ。姫、姫、姫。最後の男である兄をこの世界から消そうとする者がいる。このままでは兄は姉になってしまう。いや、赤子から始めるなら妹か。いずれにせよ兄の嫁探しをこんなところで終える訳にはいかない。兄には幸せになってもらわねばならない。その幸せには欠片の共感も理解もできなかったが、兄がそれを望むのであれば、愛する人と出会い幸せな結婚をするという夢を叶えてあげたかった。そのために性愛や結婚とは無縁の子供の世界になっては困るし、かぐや姫の物語はここで終わらせるしかなかった。雉鍋は光る竹を蹴倒して、ぐにゃぐにゃになり青く燃える兄のちんこを取り出した。
「起きてよお兄ちゃん。いつまでもこんなところで寝てると女の子になっちゃうよ。」
妹の凶暴な宣告で鬼兵衛は目が覚めた。涙が止まらない。この世界に不要どころか害悪でしかない存在とそしられ、何をしても認められることなくいかなる主張も受け入れられなかった。自分を擁護する如何なる論も立てられず、最も悪いことに鬼兵衛自身が心の奥底で自分を非難する声の方を信じていた。害悪でしかない性、何一つ肯定されるところのない性。乗り越えられない生物学的障壁の向こうから一生非難され続ける性。それなのにその性すら奪われて何者でもない、自分自身ですらない存在になれというのか。
「ふざけるなよぉ。」
絞り出した声は予想以上に弱々しかった。みじめさと情けなさで一杯だったが、自分の中にわずかな力が残っているのを感じた。もう一度声を出す。
「ふざけるなよぉ。女の子になんかなるかよぉ。」
「何を寝呆けてるのよ、かぐや姫の呪いよ。早く竹から出てシャンとして。」
今度こそ目が覚めた。言いたいことは山程あったが堪えた。憧れの令和七賢人には程遠かった。ちんこに目鼻が付いたと評された英雄とは。
冷静沈着優秀な妹に引き摺られてボロ布のようになりながら鬼兵衛は月へ向かった。”衛星 the Moon”と書かれた立看板の近くでかぐや姫と対峙した。白屁の反動でぼろ雑巾のようになっていた鬼兵衛を時に盾にして(曰く玉袋防波堤)、時に鞭にして(曰くちんこ如意ヶ鞭)雉鍋はかぐや姫を成敗した。鬼兵衛を振り回しポカポカ殴りながら雉鍋は言う。
「こら参ったしなさい。参ったしなさーい。」
かぐや姫は鬼兵衛の好みではなかった。しかし、力任せに何度も身体を打ち付けられる度に鬼兵衛は何だか変な感じがしてきた。白屁の後だと言うのにまた大きく硬くなってきた。頭に血が上りボーッとしてきた。そしてそれが鬼兵衛の運の尽きであった。雉鍋は兄の変化に気付くと強い嫌悪感と怒りを顕にした。
「何よ、お兄ちゃんのバカ!!変態!!」
雉鍋は力任せに鬼兵衛を地面に叩きつけた。ちょうど硬くなっていた鬼兵衛が月に衝突し、およそ月の1/4が吹き飛んだ。良い思い出も悪い思い出も何もかも、自分のこれまで全ての人生、月世界そのものが、変な奴の訳の分からない反応とこれまたおかしな女の意味の分からない気まぐれで一瞬の内に跡形もなく消えてしまった。かぐや姫は急に心の底から恐怖を覚えた。さっきまで何の怖さも感じていなかったのに。月世界きってのエージェントとしていかなる辛酸も生き地獄も経験し、精神をコントロールする術も身に付けてきたのに、今は自分を支えるものは何もなかった。ついさっきまで心の内に気丈さがあったはずなのに。
「参ったし、もう参ったし。うちイタリア娘に頼まれただけだし。ナポリのピーツェジョなし。」
鬼兵衛と雉鍋はイタリアに降り立った。身体はぼろぼろだったが鬼兵衛は少しだけ浮き浮きしていた。何はともあれ彼女にまた会えるのだから。一方の雉鍋は苦りきった表情をしている。雉鍋の思いは複雑だ。かつての部下、兄の殺害を決意したとき切り札として探し出した女、桃太郎に会いに行くのだから。
火山鉄道の麓にある小さな事務所に彼女はいた。軽くノックをしてドアを開ける。はい、ときれいな声が返事をする。雉鍋はドアを開けお久し振りです桃太郎さんと言い部屋に入った。
桃太郎はウェディングベールに身を包みその下は桃太郎印のブラとショーツ履いているだけだった。桃太郎はすっかり大人になっていてとても美しく魅力的だった。しかし何故か表情には憂いと翳りがあった。雉鍋はまた緊張する。桃ちゃん、貴女は何のために。心の中で問いかける。
雉鍋の心を読んだかのように桃太郎が話し始める。その目は雉鍋を見ていなかった。桃太郎は雉鍋の持つ杖の先、鬼兵衛をじっと見ていた。
鬼兵衛さん、貴方は、貴方はどうして私を迎えに来てくださらなかったの。私もうずっと寂しくて。私へのあのプロポーズは嘘だったの。軽い遊びだったの。私に鬼にならないかと言ってくださったあの言葉は。それとも、鼻垂れ小娘だった私がお断りしたものだから、鬼兵衛さま、私のことがもうお嫌いになってしまわれたの。
桃太郎は泣き崩れた。雉鍋は頭が痛くなる。嫌な予感はものの見事に当たっていた。全ては自分のせいだった。兄の人生を狂わせたのは鬼島の掟だとしても桃太郎の人生を狂わせたのは紛れもなく自分だった。桃太郎を自分のエゴに巻き込まなければ彼女は性愛の何をもそれ以前に男性という存在すら知らずに一生を終えたであろうに。突然の再会と突然の告白に胸を高鳴らせるかつての部下と実の兄を他所に雉鍋は罪悪感で頭がおかしくなりそうだった。他人の人生に干渉をしてしまった。この時代最大級の罪業だ。先の見えない混沌に他人を突き落としてしまった。無意味かもしれない男女の道に他人を突き落としてしまった。それも後戻りのできない道に。雉鍋は一生懸命計算したが、安定した世界軌道に戻る道筋はどうしても見付からなかった。上手くいきそうに思える方法にも必ずどこか瑕疵があり、パタパタパタパタドミノを倒すように世界は混沌に向かっていってしまった。逃げ切られた。何が、何から。兄は鬼島の掟から逃れ、桃太郎はマッドパンクな社会の管理から逃れ、世界は安定した完全な軌道から逃れてしまった。じゃぁ私は、私はどうすればいいの。分かっていた。鬼島雉鍋は兄夫婦を一生後押しし続けるしかなかった。
気も狂わんばかりの雉鍋を他所に鬼兵衛は桃太郎の気持ちを知り幸せの絶頂にあった。鬼兵衛は桃太郎に向かって言う。
「待たせて済まなかった。でも信じてほしい、君のことを忘れたことは片時もない。どうか結婚してほしい。」
「鬼兵衛さま。本当に嬉しい。喜んでお受けいたしますわ。」
桃太郎は鬼兵衛を手に取り(ちんこだけになった鬼兵衛はちょうど両手に持てるほどだった)自身の胸に寄せた。鬼兵衛はキュッと身を硬くする。桃太郎が鬼兵衛を咥えるようにして二人は誓いの口付けをした。
二人の永遠の愛を誓う晴れやかな歌声が響く。
鬼のパンツはいいパンツ
強いぞ 強いぞ
虎の毛皮でできている
強いぞ 強いぞ
5年履いても破れない
強いぞ 強いぞ
10年履いても破れない
強いぞ 強いぞ
履こう 履こう 鬼のパンツ
履こう 履こう 鬼のパンツ
あなたも あなたも
あなたも あなたも
みんなで履こう鬼のパンツ
---Fin---