デートの続き
「コスモマウンテンの中ってこうなってるんだ」
ゲートを出ると、施設内の電灯が着いており、鉄の柱やレールが丸見えとなっていた。暗闇でコースターに乗っている時には気づかなかったが、こうして見ると柱などが思った以上に近くぶつかりそうで、これはこれでスリルがある。
「バカ大和。ゲートの処理は私がしておくから、あんたは最速で着替えてきなさい」
「え、でも」
「でももヘチマもないんだよ! いいから早くいきなさい!」
「いでっ!」
ゲートの外に出たかぐやは鬼の形相を浮かべて、口答えする大和の尻に蹴りを入れた。
「蹴ることないだろ」
不満を漏らす大和だったが、ズボンが粘り気のある液体に汚れているのは流石に気になるため、かぐやの言いつけを守って一度園の外に出る。急いで適当な服屋に入りズボンを買って再びデイズニーへ。
急いでかぐやの待つコスモマウンテンへと向かうが、途中でポップコーンの移動販売を見かけ足を止める。
(買うか)
かぐやの機嫌が悪かったことを思い出し、デイズニーとゲート処理のお礼も兼ねて大和はポップコーンを買う。
「「キャラメル味一つ」」
「あ、すみません!」
急いでいた大和は横から来る人に気づかず注文のタイミングが被ってしまう。反射的に謝りながら身を引くが、
「あ、」
「え?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、希生愛が立っていた。
「えぇ!? なんでこんなところにっ!?」
「お姉ちゃんと遊びに来たの」
愛はそう言いながら手に持ったチュロスで六時の方向を指す。ベンチには小さい子供と一緒に座っている女性がいる。
「ああ、それでそんなに持ってるんですね」
大和は改めて愛の姿を見る。両手にチュロスと肩からは既にポップコーンを一つぶら下げている。その上でまだ買うつもりのようだが、子供とお姉さんの分であれば納得である。
「これは私が食べるの」
「そうなんですね」
何も考えていなそうな無表情で平然と言い放つ愛。憧れの人の新たな一面を見られた大和はそんなところも可愛いなぁと表情を緩ませる。
「神剣ギルドには入るの?」
「……はい! お受けしようと思います!」
不意に聞かれた愛への問いに、大和はもう決まっている答えを堂々と返す。
「そう。それは楽しみ」
「ありがとうございます!」
無表情の愛が少し笑ったような気がして、大和は嬉しさで胸がいっぱいになり頬を染める。
「おおおおおおおおっ!」
「え、なに!?」
愛との幸運な出会いを大和が噛み締めていると、遠くから雄叫びと共にかぐやがかっ飛んできた。
「なにしてるのよあんた! 着替え終わったなら早く戻ってきなさいよ!」
登場するなり大和を叱責し、その手を取って引っ張っていこうとする。
「ちょっと待って! 今キャラメルポップコーン買うところだから」
「ふん、そんなこと言ってそこの女と少しでも長く一緒にいたいだけでしょ」
かぐやは隣にいる愛に遠慮なく敵意のこもった視線を向けるが、愛はなんのことかさっぱりといった表情を浮かべている。
「私も! 神剣ギルドのオファーを受けることにしましたから! よろしくお願いしますねせんぱぁい」
「うわっ、嫌な言い方やめなさい」
輩のようにガラの悪い絡み方をするかぐやを大和がお母さんのように注意するが、反抗期のかぐやはペッと唾を吐く真似をしてその場を離れる。
「行くわよ」
「あ、ああ」
ポップコーンを受け取った大和は、かぐやに引っ張られていく。
愛の興味はすぐにポップコーンに移っており、大和にむけた時よりも大きく口角が上がっており、(ポップコーンに負けた!)と大和は心の中で涙を流した。
「あの女のどこがいいのよ! 胸か! やっぱり胸なのね!」
「ち、ちげえよ!」
プリプリと怒っているかぐやに大和は買ったばかりのポップコーンを差し出しながら否定する。
「前に言っただろ。助けてもらったって」
「ふーん。あんた単純ね」
かぐやはつまらなそうに呟きを漏らすが、自身を顧みて恥ずかしくなり大和から顔を逸らした。
かぐやと大和の出会いはほんの数ヶ月前。入学式よりも少し前の春休み。
愛に負けず劣らずの美少女であるかぐやは街でナンパにあっていた。
「私に目をつけるセンスは認めてあげる。でも、私に釣り合うと思ったその蛮勇はナンセンスね」
「はあ? なに言ってんだこのガキ」
かぐやが絡まれていたのは、腕っぷしに自慢のありそうなのガラの悪い連中で、剃り込みのある坊主頭や刺青のある青年たちだった。
それでも、スキルに覚醒していたかぐやはこんなチンピラ一秒で片付けられる自信があった。いつでも殺せると余裕綽々だったが、
「なめてんじゃねえぞ!」
青年の一人が殴りかかってきた瞬間、稲妻の一撃で男を消し炭にしようとするが、二人の間に一つの影が割って入った。
「やめ──へぶしっ!?」
かぐやを守るように入ってきた少年こそ、大和である。大和は男の拳を受けて勢いそのまま倒れ込んだ。二秒ほどぴくぴくと震えていたが、すぐに立ち上がる。
「大勢で女の子をいじめて恥ずかしくないのか! お前たちの相手はこの僕だ!」
「なんだお前」
「やっちまうぞゴラァ!」
「どこからでもかかってこい!」
大和は三人の青年。自分よりも年齢も体も大きい相手に一歩も引かずに立ち向かった。結果は惨敗。他勢に無勢でボッコボコにされた。大和を仕留めた青年たちは諦めずにかぐやへ再び声をかけるが、
「ひっ……!」
かぐやの冷たい視線に恐怖を抱きその場から逃げ去った。そのままナンパを続けていれば間違いなくタダでは済まなかっただろう。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう」
かぐやは地面にうつ伏せで倒れる大和の背中をつつく。顔は痛そうなほど腫れているが、幸い骨は折れていなそうだ。大和は痛む体をゆっくりと起き上がらせると、
「君が無事でよかった」
と腫れ上がった不格好な顔でそう言った。それを見たかぐやは吹き出すように笑う。
「私、弱い女じゃないわよ」
「そうだとしても、女の子を守るのが男でしょ」
「ふっ、面白い男」
その後二人が出会うことはなかったが、入学後に学校で互いの姿を見つけ運命の再会を果たした。
(私も人のこと言えないじゃない)
かぐやは恥ずかしさを誤魔化すようにポップコーンをバクバクと口に運ぶ。
「お腹空いてるよな」
「ばっ!? デリカシー!」
「あぁ、ごめん」
初めて会った時の面影はどこへやら。大和は女心がまったく分かっていないままだ。かぐやは呆れ笑いを浮かべて、大和の手を引く。
「お昼はなし! 残りの時間目一杯遊び尽くすわよ!」
「おう!」
二人は閉園まで園内を歩き回った。




