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ヤスデ駆除

「あなたも三級に上がったんでしょ? ヤスデくらい軽く倒してみなさいよ」

「……驚くなよ?」

「はぁ? 今更あんたなんかに驚くわけ──」

「オーガ、スケルトン召喚!」


 小馬鹿しにして鼻で笑うかぐやの言葉を遮りながら、大和はモンスターを召喚した。


「かぐやのことは信用してるし、そのうちバレるだろうから……」

「オーガ!? どこで拾ってきたのよこんなもの!」


 突如目の前に現れた巨体に、かぐやは開いた口が塞がらず大和に詰め寄る。胸ぐらを掴み「説明しなさいよ!」と大和の体を揺らす。


「まさか、この前の異常ゲート!?」


 かぐやの記憶に新しい最近のニュースが脳裏を過ぎる。


「あんたがこれを倒せるわけないでしょ!? 倒せるとしたら二級相当よ! まぁ、私なら余裕だけどね」


 かぐやは言いながらオーガの背中を指先でつつく。どこからどう見てもモンスターだが、かぐやに敵意を向けることも襲うようなこともない。死体というには綺麗すぎる見た目のオーガにかぐやは興味津々だ。


「あなたも、修羅場を超えてきたってわけね」

「まあ、そうだね」


 無用な心配をかけるため、死にかけたとは言わないよう大和は口を噤んだ。

 オーガを先頭に二人は森の奥へと向かうが、かぐやが作った道の左右からまたもやヤスデの足音が響いてくる。先ほどのかぐやの攻撃に引き寄せられたようだ。


「なんか武器持ってない?」

「デートに武器持ってくる人なんていると思う?」

「そうだよねー」


 死体使いのスキルが役に立たなかった頃の大和は、普段短刀でゲートを攻略していた。キックボクシングを習っていると言っても、あくまで人間サイズの敵を想定したもので、今回のヤスデを素手で倒すのは難しいだろう。


 そう考えていた大和だったが、ないものねだりをしてもしょうがない。大和は前向きに考えてヤスデを相手取る。


 ヤスデの攻撃は絞める、齧る、のしかかるの三パターン。毒や遠距離攻撃などは持っていない上、表皮は硬いが、オーガのような筋肉の硬さではない。


 大和は動き左右への動きが緩慢なヤスデの横を取りそこから背中に乗ると、思い切りジャンプしヤスデの頭に拳を振り下ろした。両手を合わせハンマーのように叩きつける。地面に頭を打ちつけたヤスデの外殻に罅が入り、一撃で絶命した。


「やるじゃない」


 後ろで静観を決め込んでいるかぐやは、冷静を装っているがヤスデの気持ち悪さに鳥肌が立っている。

 大和と同様にオーガも単体でヤスデを相手取り、大きな体でヤスデを座布団のように投げ飛ばしている。千切っては投げ千切っては投げを繰り返し、オーガの体がヤスデの返り体液塗れになる。その様子をかぐやはドン引きしながら眺めていた。


 周囲にヤスデの死体が転がる中、体が千切れているにも関わらず動き続ける足を見てかぐやが小さく悲鳴を上げる。


「もうちょっと綺麗に倒しなさいよ!」

「ごめんごめん」


 あたりが静かになった頃、我慢の限界に達したかぐやは大和とオーガを怒鳴りつけた。なお、スケルトンも三人がかりでヤスデを一匹殺した模様。


「ねえ、これ回収しちゃだめ?」

「……回収してもいいけど、私の前で出したら即消し炭にするから」


 目の前に転がる死体の山を見て目を輝かせる大和は、スキルの容量いっぱいになるまでヤスデを回収した。と言っても、回収できたヤスデの体は一匹弱。魂は全て回収でき五十匹ほどとなった。


(魂の上限数はかなり多いのか?)


 保有する魂の数に上限の表記がないため、一体何匹のモンスターを使役できるかが未知数であり、大和は疑問を抱えた。

 ヤスデの大群は弾切れなようで、その後襲われることはなく無傷でコアまで辿り着いた。


「ボス級のモンスターが出なくて良かったわね」

「そうだね」


 ゲートでは主に通常モンスターとは別にボスモンスターと呼ばれる個体が生成されることがある。ボスモンスターは通常一体で、通常モンスターの一段階から二段階強いモンスターが生成される。ゲートによってモンスターの分布は様々だが、今回のように最速で攻略するとボスモンスターが生まれる前にコアを手に入れることができる。


「じゃあ、コアも回収した帰りましょ」

「ああ」


 かぐやがダンジョンコアとなる水晶を台座から持ち上げる。コアはその場所にあることで効力が発生するため、取り出すことでゲートを終わらせることができる。ゲートの難易度によってコアは高額で引き取られるため、持ち帰るのが常であるが、深度2以下に限ってはコアの需要がないため、現地での破棄も認められている。ゲート攻略の依頼時にコアの回収有無について指示が出ることがほとんどで、前回の大和の依頼では破壊での指示が出ていた。


 森は広いがかぐやの作った道のおかげで迷うことなく真っ直ぐ帰られる。コアが機能していないおかげで新しいヤスデの発生もないため、かぐやは清々しい顔をしているが、すぐに思い出したように暗くなる。


(折角のデートが台無しじゃない!)


 かぐやはゲートに巻き込まれるという不運を恨む。早起きをしてメイクをして、オシャレをしてきたというのに、この後に待っているのゲートの処理としての報告と、コスモマウンテンは安全のため一旦停止。ゲートの処理に時間がかかればそれだけデイズニーランドを楽しめなくなる。何より、


「あんたは返り血とか浴びすぎなのよ! もっとスマートに戦いなさいよ!」

「そんなこと言われても、武器なかったし。それに俺のせいじゃねえよ。オーガが散らかすから……」

「オーガもあんたみたいなもんなんだからちゃんと制御しなさいよ!」


 身綺麗なかぐやとは打って変わって、大和は返り体液が服、主にズボンにかかっており、このままデート継続は不可能な装いとなっている。


「ほんっとバカ! 折角準備したのに……」

「そんな落ち込むなって! 年パス持ってんだろ?」

「そうじゃないわよヴァカ! 死ね!」


 慰める方法を間違った大和は、間違っている理由が分からず困惑する。だが、とにかくかぐやが怒っていることだけは理解できたため、理不尽だとは思いつつも謝った。


「ご苦労様です!」


 二人がゲートの入り口にやってくると、偵察隊と思しきハンターたちが入り口で二人を迎えた。


「コアは回収してきました」

「そうなんですね! それじゃあ、ゲートの処理はお任せしても大丈夫ですか?」


 大和がコアを見せると、偵察隊の先頭にいる男は笑顔でそう言った。攻略した者の手柄、というのはハンターにとっての常識でたとえ依頼を受けてやってきたとして、先に攻略している人間がいれば潔く引くのがマナーだ。


 大和はゲートの処理を引き受け、全員でゲートを出る。


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