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ゲートの中

「きゃああッ!」


 誰かの悲鳴が上がる。それと同時にコースターが物凄い音と衝撃を上げながら停止した。大きな音と揺れが収まると、乗客たちは恐る恐る目を開けた。そこは鬱蒼と生い茂る森の中。コースターは拓けた場所に止まっている。


「ゲートの中だ」

「乗ってる途中にゲートが現れて吸い込まれる、なんてどんな確率よ」


 状況をすぐに把握して呟く大和に、同じく冷静なかぐやが不満げに呟いた。


「皆さん! 一旦カートから降りてください!」


 安全ベルトを外してたち上がった大和は乗客たちに声をかける。万が一次のカートがゲートから入ってきた場合大惨事だ。


 慌てる乗客たちは急いでベルトを外してカートから降りた。そして全員でカートを動かしゲートの入り口前を空ける。


「ゲートから出てカートに轢かれたら最悪ね」

「出るに出られないね」

「出られるわよ」

「え?」


 ゲートの入り口をじっと見つめていたかぐやの不穏な発言に乗客たちが青ざめる。ゲートの中から出られないという状況かと思われたが、かぐやはそれを否定した。


「コスモマウンテンの所要時間はおよそ三分。つまり、三分後に次のカートが来なければ、異常を察してカートの進行を止めてくれている可能性が高い。そうなったら安心して外に出られるわね」

「なるほどぉ! デイズニー詳しいんだな」

「当たり前じゃない。年パス持ちよ」


 かぐやのデイズニー知識により今後の方針が決まったわけだが、ゲートの中は決して安全とは言えない。


「私たちはハンターよ。あなたたちのことは私たちが守ってあげる」


 ドン! と胸を張り強気に言い放つかぐやに、乗客たちから感嘆と尊敬の声が上がる。


「でも、やばいやつが出たら三分を待たずにゲートから逃げなさい。分かったわね」


 かぐやは厳しく言い放つ。ゲートの深度によっては二人の手に負えない可能性もある。万が一そうなれば、ゲート内で殺されるよりも、次のカートに轢かれないことを祈ってゲーから出る方が生き残れる確率は高い。

 乗客たちをゲートの近くに待機させ、大和とかぐやは周囲を警戒する。


 木々の隙間から陽光が漏れ出ているため森の中はそれなりの明るさを保っている。さわさわと弱い風が葉を揺らし静かに音を鳴らす。


「モンスター、出てこないわね」

「かなり深いのかもな」


 ゲート攻略のつもりで来ていないため、今の二人は防具も武器もない状態だが、鋭く周囲を警戒している。

 モンスターが現れないということは、モンスターが発生したポイントが遠いか、または、


(前みたいに、めっちゃ強いのが一体だけみたいなパターンか?)


 オーガに殺されかけた記憶が新しい大和は、嫌な想像に冷や汗を流す。


「ネズミ召喚。周囲を調べてモンスターがいたら帰ってきて」


 大和は三匹のネズミを召喚すると、森の三方へとそれぞれを走らせた。


「便利ね、そのスキル」

「まあね」


 大和の動きを見ていたかぐやは感心する。何かを使役する系統のスキルは偵察に向いているため、ゲート攻略の初動ではかなり重宝される。


「でも、視覚の共有とかはできないからね」

「それでも十分よ。三級に上がったって言ってたけど、戦力になるようなものが使役でk体の?」

「まーねー」

「ふーん」


 教える気のなさそうな大和に、かぐやはチラリと周囲を見回して興味がなさそうに相槌を打った。大和の意図を察したようで深くは追及しない。


 ハンターではない一般人が大勢いる中でスケルトンやオーガを召喚したらパニックになるのは間違いない。何事もなく彼らがゲートを出るまで、何事もなければオーガたちに出番はない。


「もうそろそろかしら」


 かぐやはスマホの時計を見て呟く。体感では三分経っている気もするが、無情にも時計は亀の如く進みが遅い。


「やられた!」


 突如、大和が声を上げた。大和が放った三匹のうち、一匹がモンスターの群れと遭遇し破壊された。壊された死体の魂は大和の元へと帰り、それまで見ていた光景や聞いた音を共有するため、大和は敵の正体を把握する。ただし、肉体は戻らないためネズミ一匹分の質量は失われたままだ。


「巨大ヤスデの群れが、こっちに真っ直ぐ向かってる」

「ヤスデ!?」


 大和の報告に驚くかぐやは、すぐに一般人たちをゲートに向かわせる。


「深度3か。普段の私なら全然余裕よ? でも今日は武器がないし、ヤスデって弱いから群れるじゃない? それにほら、足もいっぱいあって気持ち悪いし」

「虫苦手なんだな」


 早口で言い訳を捲し立てるかぐやに、大和は冷静に声をかける。


「は、はぁ!? 全然苦手とかじゃないし! バカにしないでくれる!?」


 すると、怒ったかぐやは大和の前に出てヤスデが来るであろう方向で待ち構える。


「あんな虫ケラ、私が粉微塵にしてやるわ! 見てなさい!」


 二人が前線に出る間に、乗客たちは全員ゲートから外へと避難する。それと同時、森の奥から地鳴りのような足音が聞こえてくる。バキバキと木々を薙ぎ倒すようにしてヤスデの大群が森の中から現れた。


「キンモっ!」


 それを見たかぐやは思わずそう声を上げる。見える範囲(先頭)だけでも三体。その奥にも無数のヤスデが控えている。

 三メートルは裕に超える巨体を持ち上げたヤスデは、かぐやにのしかかろうと多足のついた体の裏側を見せる。


「キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいっ!」


 かぐやは涙目になりながら右手を前に突き出し、手のひらをヤスデの群れに向ける。


「雷槍!」


 かぐやの右手からバチバチと音を立てながら雷の槍が形成され、射出されたそれは一直線に視界を貫いた。雷鳴を轟かせる槍はヤスデごと森を一瞬で抉り取った。宣言通り塵一つ残らない攻撃に大和は唖然とする。


「素材が全く残らないじゃないか!」

「第一声がそれ!? もっと私を褒め称えなさいよ!」


 カッコつけて大技を披露したかぐやは、大和の反応が思っていたのと違い不満げに大和を注意する。


「あんな生き物のどこを素材にするっていうのよ! 気持ち悪い!」

「皮は防具とかになるし、俺のスキルで使役だってできるんだぞ!」

「あんなの使役するとかありえないんだけど!? そんなことしたら次に消すのはあんたよ!」

「ひどいっ!」


 ワーワーと喚き散らす二人は、言い争いながらも森の奥を目指す。ヤスデがやってきた方向は綺麗さっぱり開けており歩きやすくなっている。


「私のおかげね」


 と、かぐやは自慢げにしているが、大和はモンスターの死骸が一つもないことに不満を漏らしている。

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