協会本部
表には協会が用意した黒塗りの車が用意されており、そこに愛と共に乗り込む。
「あれ、一緒に来るんですか?」
「どうやってオーガを倒したのか、興味がある」
無表情ながら僅かに目を輝かせている愛は、さっさとシートベルトをして共に行く気満々だ。国内で五人しかいない一級ハンターのためか、協会の職員たちは何も言わない。
そのまま車に揺られること数十分。協会本部へとやってきた大和は、初めて関係者入り口から中へと入る。登録の時に来たのが最初で、次に来るのは更新の際だったが、思ったよりも早い再訪となった。
改修工事がされたばかりの綺麗な廊下を進んでいく。しんと静まり返った廊下を進んでいき、エレベーターで本部の地下一階に降りる。そして、長い机と椅子が並べられた会議室のような場所に通されると、渋顔の銀次は早速本題に入る。
「昨日のゲートは、登録されているあなたの力では攻略不可能なものでした。どうやったのですか?」
単刀直入な問い方に、大和は一呼吸置いてから事の顛末を答えた。死にそうになったこと。スキルの力によって復活したこと、オーガを倒したこと。鈴木の死体を贄にしたことと、オーガからスキルを抽出したことは黙っていた。時系列的には、鈴木がどうなったのかを知らなくても違和感はない。
大和の話を、協会の人間は疑うこともなく真剣に聞いていた。
「聞いたこともないような話ですが、スキルの存在自体がおかしなものです」
と言って、大和の話を信じた様子だ。
「そうなると、倉石さんのハンターライセンスを変更しないとですね」
銀次は言いながら立ち上がり、大和たちをまた別の部屋へと案内する。会議室を出て廊下を突き当たりまで進むと、これまでとは様相の違う一枚の扉が現れた。防火扉のように分厚く頑丈そうな見た目の扉だ。
大和はここに一度だけ来たことがある。ハンターの力量を見定めるためのゲートがこの扉の向こうにある。
ゲートの深度は1で、研修用に協会が意図して攻略せずに残している。大抵のハンターはここで失敗することはなく、さらに研修や試験には観察員も帯同するため、万が一のことは起こらないようになっている。
「ゲートの中であなたの新しい力をテストしましょう」
「……はい」
銀次が胸にかけたカードキーで頑丈な扉が音を立てながら開く。部屋の中には青色に光を放つゲートが一つ。
(どれだけ強くなったか、楽しみだ)
大和が初めての挑戦は今年の四月。誕生日を迎えたその日のうちにハンター登録をしに来た際に挑戦した。初めての攻略は命辛々といった内容だったが、今は余裕に満ち溢れていた。
オーガに勝った自分自身。そしてオーガを従えているということが自信と余裕に繋がっている。
大和を先頭に、銀次と愛も連なってゲートの中へと足を踏み入れる。
協会地下にあるゲートはダンジョン風で、粗雑な石壁に覆われている。内部で発生するモンスターはスケルトンで、喧嘩自慢の一般人でも頑張れば攻略できる程度だ。
「死体召喚。オーガ!」
スケルトンと出くわす前にスキルの確認をしようと大和はオーガを呼び出した。大和の正面、地面から生えるようにオーガが姿を現す。見た目はあの時のまま、黒い皮に二本の角を生やしている。
「包丁は持ってないのか! 拾っておけばよかった!」
オーガは生身の状態で現れた。初めて会った時の威圧感はそのままだが、一目で脅威だと分かるあの武器を持っていなかった。
「これが死体召喚!?」
「そうみたいです」
オーガの体は生前のまま。死体と言われても納得がいかない銀次は、堅物のような顔を歪めあんぐりと口を開けて驚いている。
呼び出されたオーガは大和の方を振り返り片膝をついた。
「ネクロマンサーに近い能力かと思っていましたが、これはほぼ召喚系ですね」
銀次はスマホでパシャパシャと写真を撮りながら大和の能力をメモしていく。
「それで、召喚できる死体はオーガだけですか?」
「あとネズミ三匹です」
「なるほど」
容量にはまだ余裕があるが、オーガ一体だけで80%を占めているため、これ以上大きなものは回収できないだろう。
三人が入り口で止まっていると、通路の先、曲がり角になっているところから一体のスケルトンが顔を見せた。160センチほどの身長で、ガシャガシャと骨のぶつかる音を立てながら三人の方へ向かってくる。武器も防具もつけていない生身の骸骨に向けて、大和が叫ぶ。
「オーガ、スケルトンを殺せ!」
「オオオオッ!」
命令されたオーガはスケルトンの方を振り返り、平手を見舞う。軽く薙いだだけだが、スケルトンの体ではひとたまりも無い。一撃でバラバラに吹き飛ばされてしまった。
「す、すっげぇ……」
自分で召喚したにも関わらず、オーガの強さに大和は目を見張る。三ヶ月ほど前は、このスケルトン一体倒すのにも苦労していたというのに、それが嘘のようだ。
「まあ、オーガならこうなりますよね」
銀次は納得の結果に頷きつつメモを取る。一番後ろで見ていた愛も無表情ながら「おー」と言いながら拍手している。
「次は僕ですね」
大和はそう言ってオーガを送還する。スケルトンを探してゲートの奥へ向かうとガシャガシャと音を立てる、やはり生身のスケルトンが二体。肉も皮もついていない体を大和の方へくるりと向ける。そのまま無手で大和へと殴りかかってくるが、
(見えるのはいつものことだけど、やっぱり体がちゃんと動く!)
大和はスケルトンの拳をいなしながら側頭部に上段蹴りを叩き込んだ。蹴られたスケルトンは吹っ飛びながら、隣のスケルトンを巻き込み通路の壁へ叩きつけられた。衝撃でスケルトンの体に罅が入り力無く地面に伏せた。
(スケルトンはもともと死体みたいなもんだけど、死体使いの範囲内か?)
動かなくなったスケルトンに近寄りスキルを発動すると、スケルトンの体が薄紫の光を放ち、その光が大和の体と繋がると一瞬で吸収された。
「い、今のは!?」
「死体使いのスキルでスケルトンを回収しました。素材は取れなくなっちゃいますけど」
「なるほど。そうやって吸収したモンスターを使役しているわけですね」
銀次はふむふむと納得したように言いながらメモにまたまた書き込んでいく。
「大体わかりました。ありがとうございます」
銀次がスマホをしまい実力の判断は終了となる。結果は後日電話かメールで知らせられることになっているためそのまま解散という流れだが。
「ねえ」
「は、はい!」
それまで黙っていた愛が口を開いた。真剣な眼差しで大和を見つめて、手首足首をこねながら準備体操をしている。
「実力の上限、知りたくない?」
「え……」
愛はそう言って構えを取った。
それを見た大和は武者震いする。国内でも屈指の強さを誇るハンターが自分を測ってくれるという状況に。
「ぜひお願いします!」
大和は返事をしながらすぐに構えを取る。一級ハンターに今の自分がどれだけ通用するのか、純粋な好奇心が大和を突き動かす。
両手を握りしめ愛目掛けて突撃する。相手は一級ハンター。憧れの人とはいえ遠慮や加減は不要。むしろ、気を抜けば一瞬でやられるのは大和の方。
「らああああっ!」
渾身の右ストレート。愛は半歩右足を引き半身の姿勢で躱す。大和はこの距離を開けてはならないと、流れのまま左ストレートを繰り出すがそれもひらりと躱されてしまう。そこから怒涛の連撃を放つが、全て愛にいなされ一撃も当てられない。まるで水でも相手にしているかのような錯覚に陥る。
(全然当たらない!)
動きが特別早すぎて追えないなんてことはない。愛は大和の力量に合わせて動いてくれている。その上で攻撃が掠りもしない。時折放たれる愛からの反撃は首は腹など的確に急所を狙い、全て寸止めで赤子のような扱いだ。
だが、愛の一挙手一投足には無駄がなく洗練されている。一つしか年齢が違わないというのに、圧倒的に敵わないと高い壁を感じる。
たった数分の組み手だが、愛が最後の一撃を受け止めたところで動きを止めた。
「技術は拙いけど、ポテンシャルはありそう。頑張って」
「あ、ありがとうございます!」
大和をじっと見つめた愛はポツリとそう呟いた。敬愛する愛からの評価に感無量の大和は嬉し涙を流し感激した。
「今は私の三割くらい」
「そんなに!?」
手加減されていることは分かっていた大和だが、そこまで実力の差に開きがあるとは思っておらずショックを受けた。ガックリと肩を落とす大和に、愛が「頑張れ」と一言呟くとすぐに気を取り直し「やるぞおお!」と燃えている。
愛は大和の実力が把握できたことに満足した様子のため、今度こそ三人はゲートを後にする。
(愛さんと、手を繋いでしまったぁ……)
最後に、愛に掴まれた右の拳をまじまじと見つめ、大和はだらしない笑みを浮かべた。