愛、登場
(応接室?)
行ったことのない場所に、大和の頭にはてなが浮かぶがすぐに思い出す。学校案内の時に、校長室の横にあった部屋だと。
帰り支度を済ませ、用件に思い当たる節がない大和は、その足で一階へと降りる。すると、職員室などが並ぶ廊下に何故か人だかりができていた。ざっと見ただけで三十人以上はいるだろう。それどころかどんどん増えていく。
応接室に一体どんな国民的スターが来ているのかと気になる大和は、人混みをかき分けなんとか応接室にたどり着いた。扉に手をかけると「誰だこいつ」といった冷たい目で見られるが、気にせず扉を開ける。
「あ、倉石君。待ってたよ」
中に入ると、校長と教頭が大和を迎え入れるが、大和の目には一人の人物しか映っていない。
「希生、愛!?」
一人の美少女が応接室の革張りのソファに腰をかけ、大和を無表情で真っ直ぐ見つめている。着ている学生服は、二駅先にある女子高の物。メディアに出る際の服装とは違うが、これもよく似合っている。
いつもは雑誌や動画で見ているその美貌は、生で見ると迫力が違う。サラサラの金髪に、毛穴など存在しないんじゃないかというほどきめの細かい綺麗な肌。小さい鼻に唇。パッチリとした可愛い目。柔らかな印象を受けるが、なにも考えていなそうな無表情が少しだけとっつきにくさを醸し出している。
その美貌は衰えることを知らず、むしろ一年前よりも磨きがかかりその魅力は増すばかり。
「ななななななななななななっ!?」
「お、落ち着いて」
バイブレーションモードで「な」しか言えない大和を教頭が落ち着かせる。大和は冷静になろうと一度後ろを向いて深呼吸。
(ガワイィいいいいいッ!)
そして再度愛の方を振り返るが、咆哮しそうになるのをなんとか堪え胸の内で絶叫した。
憧れの美少女が手の届く至近距離にいるのだ。それに相手は一級ハンターでもあり、その可愛さでまさにアイドル的人気を誇る人物。興奮しないなど無理がある。
「あの、私もいるんですけど」
「す、すみません。うちの生徒が」
よく見ると、愛の他にもう一人、スーツを着た男性が応接室にいた。愛と並んでソファーに腰かけている。
「どちらからお話をされますか?」
大和が対面に座ったのを確認して校長が口を開いた。
「じゃあ、私から」
愛が鈴のような綺麗な声を出し手を上げた。
「団長からあなたを勧誘するように言われたので、それを伝えに来た」
「神剣ギルドの筆頭ハンターが直接!?」
愛は神剣ギルドに所属しており、その中でも高い地位にある。そんな愛がわざわざ勧誘しにくるなんて、と大和は胸を躍らせる。
「学校が近かったのと、正式なオファーは情報が出る前だったから避けるようにって、団長が」
(そういえばこの人、同じ高校生だった)
その活躍をメディアで目にすることが多く忘れていたが、愛は大和と同じ高校生。学年は大和の一つ上だが、それでも十分すごい。
「これ、私の名刺」
「ありがとうございます」
愛から差し出された名刺を恐る恐る受け取る。神剣ギルドが持つ剣のエンブレムが白地にプリントされたシンプルなもの。中央に書かれた名前は当然愛のものだ。
「私の用事は以上」
「それじゃあ。私はこういう者です」
愛と同じように、スーツの男は名刺を差し出した。黒髪をオールバックでキッチリ固めた風貌で、目は細長く鋭い。見えている手だけでもなかなかの強者だと分かる。
「ハンター協会の銀次さん……」
「お察しの通り、あの日の出来事についてです。詳しいことは協会本部で伺いますので、一緒に来ていただけますか?」
「……はい」
愛の登場に興奮していた大和だが、協会からの呼び出しに緊張して強張る。
「悪いようにはしませんから、安心してください」
いかつい印象を受ける剣のある顔が微笑むとそれはそれで不気味に感じ、大和は顔を引き攣らせる。
「それじゃあ行きましょう」
協会の人間に連れられて部屋を出ると、愛も一緒のこともあり生徒たちがカメラを構えて待っていた。
「こらお前たち! 撮影はやめんか!」
と、教頭が先頭で出ていき生徒たちの壁となった。