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攻略後

 寺門と佐藤がゲートを脱してから数十分ほどして、現場に攻略チームがやってきた。


「神剣ギルドです! オーガが出現したという通報を受けてきました!」


 メンバーは五人。前衛二人に後衛二人、ヒーラーが三人と万全な状態で、皆お揃いのエンブレムを胸につけている。

 関東に広く拠点を構えている、日本屈指のギルドの一つだ。


「中に二人残ってしまって……」

「分かりました」


 リーダーの寺門が事情を簡単に説明すると、神剣ギルドの面々はすぐにゲートへ入ろうとする。しかし、


「なっ!?」


 ほぼ同時に、ゲートの中から大和が姿を現しばったり鉢合わせた。


「倉石君! 生きてたのかい!? 酷い血じゃないか!」


 寺門は大和の元へ駆け寄りその両肩を掴んだ。帰り血塗れの体で出口までやってきたのかと心配するが、倒れ込むようなこともなく自分の足でしっかり立っていることを確認し、さらに驚いた。


「オーガは!?」

「僕が殺しました」


 寺門の問いに、大和は淡々と答えた。先ほどまでの興奮は冷め今はすごく冷静で、思い出したように体が恐怖で震える。


「ダンジョンコアも破壊しました」

「ほ、本当か!?」

「はい」

「すごく体が冷たいぞ。本当に大丈夫か?」


 大和は顔を青くしながらも気丈に頷いた。

 その後、全員でゲートの消滅を確認し解散となる。大和は神剣ギルドの人間に訝しげに見つめられたが、逃げるようにその場を後にした。


 どのみち、何か調べられるのならハンター協会が動くことになる。覚醒した段階で協会へスキル内容と個人情報の登録が求められる。登録しないと犯罪になるため、当然大和の情報も協会に存在している。四級のハンターが単独でオーガを倒すなど考えられないため、神剣ギルドの面々が疑う気持ちも大和には理解できたが、それでもあの場で追求されるのは面倒だと感じ逃げ出した。


 深度2のゲートでのオーガ出現と四級ハンターがそれを撃破したという事実は、翌日のニュースで報じられた。

 そのニュースを大和はまるで他人事のように見ていた。


 ゲートから真っ直ぐ帰宅した大和は、祖父にバレないよう窓から二階の自室に忍び込み、バレないように着替えを済ませ何食わぬ顔で玄関から帰宅した。


「スキルウィンドウ」


 帰宅した大和はすぐに自身のスキルを確認した。


「スキルに適した肉体……」


 死に際をゆっくりと思い出す。あの時に聞こえたスキルの言葉通り、肉体がスキルに合わせて蘇生された。そのためにスキルが強くなっている──いや、本領を発揮したということ。


 自身の身に起こった変化を、まじまじと体を見下ろし体感する。今までどれだけ鍛えてもヒョロヒョロで、どれだけ食べても筋肉がつかなかった体が、心なしかがっしりとしているような気がしないでもない。と大和は思った。


「死体使い。魂と質量の保管・吸収、召喚……」


 この世界のスキルには概ね三段階あるとされている。スキル死体使いの力は現時点で二つ。そして、スキルウィンドウには表示されない熟練度というものがある。と研究で明らかになっており、熟練度を上げていけば死体使いにも第三の力が宿る可能性がある。


 もちろん応用などで様々な技を繰り出すハンターもいるが、スキルという大枠では最大三種類だ。しかし、


「オーガのスキル、咆哮……」


 大和のその文字を見て身震いした。スキルの声に身を任せオーガを回収した。その際にオーガの持つスキルを自身が会得したのだ。本来スキルは一人一つ。モンスターはその限りではないが、スキルを複数所持している人間は、一人しか確認されていない。それも、スキルコピーの能力であり、一時的なものだ。大和のように恒久的にスキルを複数所持する人間は未だ存在しない。


「やばい、力かも……」


 今更自体の深刻さに気がついた大和は体を震わせた。恐怖半分、興奮の武者震い半分といったところだ。


「この力があれば一級も夢じゃない! オオオオオッ!」

「うるさいぞぉ大和ぉ!!」

「ごめん爺ちゃん!」


 喜びのあまり無意識に咆哮を発動してしまった大和に、階下から祖父が負けじと声を張り上げた。


「オーガの召喚もできるんだよな」


 死体回収時、オーガの肉体は綺麗さっぱり欠損なく残っていた。深度4相当のオーガを従えているとなれば、二級ハンターへの昇格は固いであろう戦力だ。


「それに、なんでか体が軽いんだよなぁ」


 スキルに覚醒した人間は総じて身体能力も向上する。しかし、大和はその恩恵をあまり受けられておらず、身体能力は一般人並みだった。それでもスキルさえ有ればハンターには登録できたため、ほぼ生身人間の状態で今まではゲートに潜っていた。


 大和の身体能力が平凡だったのはスキルの適応に制限がかかっていたことが要因だ。肉体を破壊しスキルに適した体に再生成した今では、スキルなしでも二級相当の力を宿しているが、大和はその事実に気づいていない。


 死体使いのスキルが覚醒した翌日の月曜日。高校生の大和は、日中は学生で、放課後や休日にバイトでハンターをやっている。


 朝の時点で昨日のニュースがやっていたため、学校でもちらほらとその話題を耳にする。


「大和! 生きてたか!?」

「生きてるよ!」


 教室へ行くと、クラスメイトの男子、川口が心配そうな顔で大和の元へかけよってきた。少しチャラついた茶髪にそばかす顔で、今日はいつもの黒縁メガネをしていない。


「メガネは?」

「今日はデートだからコンタクト。それより、俺はお前が死んでるんじゃないかって心配だったんだぞ?」

「ありがとなー」


 川口から追求されないよう適当に受け流す大和。


「だって深度2のゲートでオーガだぞ? お前が普段行ってるようなゲートでそのクラスって、心配じゃないのか? 死活問題だろ」

「すっげえ心配! (無関心は逆に怪しすぎたか)」


 と大和はどきりとしながら焦りを感じた。


「でも、滅多なことじゃないだろ。たぶん」

「お前は本当に楽観的だな〜。ほんと心配になるわ」


 川口は口酸っぱく気をつけろと連呼して、それに呆れる大和は愛想笑いを浮かべながら「わかったわかった」と適当に相槌を返した。


 幸いなことに、実名での報道はされていないため大和がオーガを倒したハンターであることはバレていない。

 なぜ大和がここまでバレることを恐れているのか。それは、


「大和!」

「げっ、かぐや!?」

「げってなによ!」


 放課後、帰り支度をしている大和のもとに一人の女子生徒が現れた。


「昨日のゲート! あなたの方はどうだったの?」

「いやぁ。ぼちぼちかな」


 早乙女かぐや。大和と同じく一級ハンターを志す彼女は、現在二級の地位にいる。一級ハンターを志す者同士として意気投合したはいいものの、ゲート攻略の予定があるとこうして絡みにやってくる。

 大和のスキルが覚醒して二級相当になったと知れば、今まで以上に対抗心を燃やしてくるに違いない。


「私は一昨日、深度3のゲートをほぼ一人で攻略してやったわ!」

「わーすごいすごい」

「適当な返事するんじゃないわよ!」


 怒るかぐやに合わせて、ツインテールにした黒髪が跳ねている。


「このままスキルの熟練度を上げていけば一級も目じゃないわ! あなたが憧れている希生愛も、すぐに追い越してやるんだから!」


 かぐやは言いたいだけ言って去っていった。こうしてどちらかがゲートへ行くたびに絡んでくるため、大和はそろそろ辟易としていた。


 入学から三ヶ月。もうそろそろ夏休みという時期だが、これまでかぐやは毎週絡みにきている。多い時は週三だ。


「ハンターさんはモテますね」

「うるせ」


 川口に揶揄われながら、大和はリュックを背負う。今日はゲートの攻略がないため真っ直ぐ直帰だ。大和が出られるレベルのゲートはすぐに埋まってしまうため、バイトの頻度はそう多くない。


 川口に別れを告げて立ち上がると、校内放送が大和の足を止めた。


『一年三組倉石君。至急応接室まで』

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