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「ゴミみたいになったな。」級友達が智佳を指差して笑う。かつて裕樹の鞄で揺られていたマスコットの面影は、もうどこにもない。潰れて歪んだ体の隙間から、綿がはみ出している。顔にも胴にも脂染みが出来ていた。身体中に糸を通され、大きく下手くそな字で同級生の名が記された彼女の体は、無残としか言いようがない。同級生の手で、裕樹の宝物から、ただのゴミに落とされた智佳を皆が蔑む。主が負けて、お姫様から奴隷に堕ちたのだ。ボロボロになった彼女には、最早、自らを哀れむ気力すら残っていない。虚ろな目でクラスメート達を見つめるだけだ。温かかった教室が、まるで別の場所のように思えた。遠くに裕樹の姿が見える。こちらを見ようともしない。こんな自分を見られたくはなかった。彼はもう、智佳を取り返そうとは思わないだろう。すっかり汚され、恥ずかしい姿にされていた。
今の御主人様の自転車のカゴで揺られていると、昔のことを思い出す。裕樹と二人で帰るのは楽しかった。同じ道を走っているのに、今は晒し者にされている。辱められた戦利品を誇らしげにぶら下げて、彼はペダルを漕ぐ。見知らぬ人が智佳に目を止め、ぎょっとしたり、笑ったりした。もう誰も彼女を必要としていない。もうどうなってもよかった。体が千切れてしまえばいい、と思った。不意に智佳の体が宙に浮く。紐が切れたのだ。彼女は地面に転がった。