表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もし厚生労働省がオナラをした数をWebサイトで公開するようになったら

作者: 卯月らいな

仕事の合間、スマホを触っていた俺はショックを受ける。


「あーっ!またフォロワー数減った!」


同僚の松野に愚痴を言った。


「何の話?SNS」


「うん、せっかく1000フォロワーを達成したのに三桁に逆戻りだよ」


「くだらない。銀行口座の金額ならともかく、Web上のどこかにある、データベースに記録されている空虚な数字じゃあないか。それを稼ぐことで、高級外車に乗りタワマンに住めるんだったらいいよ?そんなもの、逆に数字を稼ぐことで炎上リスクが高まるだけじゃないか」


「それはそうなんだけどねえ。自分の人気を示すような数字があったら、ほら、人間追いかけたくなるじゃない?」


我々、現代日本人の多くは衣食住を保ちつつ、最低限健康な生活を送れていた。


しかし、ステータス、収入、偏差値、未婚/既婚、持ち家、マイカー果てにはSNSのフォロー数やいいね数に至るまで、あらゆるステータス、数字を高めることに追われることで不幸になっていた。


「そうだ。そういえば、山田君。オナラ数って知ってるか?」


「はあ、オナラ数?」


インターネット記事を松野は見せてくれた。


オナラ数。


厚生労働省が新しくWebサイトで発表しはじめた統計資料らしい。


マイナンバーと紐づけられ、人間が1度オナラをすると、カウンターが回ると書いてあった。


「本当にカウンター回るの?」


自分のマイナンバーを入力したら、0の数字が表記してあった。


そういえば、少し出そうだな。


プリッ。


俺は屁をひった。


すると、数字が1になった。


「あーっ!本当だ!数字がカウントされた!」


「だろ?何のためかはわからないが、国が全国で統計を取り始めたらしいんだ」


「ふむむ。だから、何って感じだけどな。自慢できる数字でもお金儲けができる数字でもなんでもない」


「まったくだ。国の考えることはよくわからんぜ」


そのニュースのことは、それっきり俺は忘れていた。


日曜日。


土曜日は仕事の疲れで泥のように眠った俺にとっては、休日本番だ。


テレビの情報バラエティーを付ける。


「みなさん。知ってます。今話題のオナラ数。全国で競い合ってるんですよ?」


テレビ番組は、オナラをするコツを教えてくれているSNSや動画サイトのインフルエンサーを紹介した。


芸人がインタビューをし、皆が競いあうようにオナラ数を述べる。


「僕、20回もしました」


「えー、少ない。僕なんて87回ですよ」


俺が懸念した通り、金銭的なインセンティブなどない、ただの数字らしいが、公的な数字があると人間という生き物は、競いたくなる性らしい。


くだらん。


俺はテレビを消して街に出ることにした。


駅前に行くとかわいいお姉さんがビラを配っていた。


受け取ると『肛門外科医によるオナラセミナー5000円』と書いてあった。


汚いイラストから目を背けると、小学生がオナラをひろうと腰を振っていた。


「あー身が出た」


「汚いな」


なんていうことだ。


俺が仕事にかまけている間に、世はオナラブームになっていたようだ。


冗談じゃない。


こんなところに居られるか。


コンビニでカップ酒でも買うことにした。


コンビニにはいると、『オナラグッズ』と書かれたポップが張り出さていた。


パチンコに行ってもオナラ、ファストフードに行ってもオナラ。


街のどこに行こうとオナラオナラオナラ。


オナラの情報であふれていた。


「街はもういい!スマホで現実逃避する!」


SNSのタイムラインを見てもネットニュースを見ても動画サイトを見ても、オナラの話であふれていた。


世はオナラ時代になった。


職場にオナラをするためのオナラ部屋が設けられた。


もともとは、喫煙室として作られた部屋を再利用しているらしく、喫煙者は大いに不満を述べた。


オナラバラエティーというものが日曜の20時に放送され、オナラタレントが人気を博し、彼らの一部は情報バラエティーのコメンテーターにまで出世した。


うどんをすするときに音をたてるのが日本においては、マナーでOKになるのと同じく、人前でオナラをすることがビジネスマナーに組み込まれた。


人はオナラをすることに手段を選ばなくなり、食物繊維の多い食べ物は売れ、ガスボンベ持ち出すチャレンジャーまで現れた。


それはやがて、死人が出るほどになるがブームは止まらない。


冷ややかな目で見る俺を尻目に、オナラ数はやがて結婚相談所の自己紹介に年収と並んで記載されるようになったのだ。


オナラ数の低い男性は非モテとされ、女性から厳しい選別の視線が向けられた。


オナラもできない男は、人間として何かが欠けている。


そんなことを真顔で言われてしまった。


人間とは数字を追いかけるためならば、かくも無様になれるものなのか。


人間社会の適応力に俺は戦慄した。


そんなある日のことだった。


「404 not found。ページはありませんだってさ」


突如、オナラブームは終結を迎えた。


厚生労働省の発表によると、必要なデータが取れたから不要になったということらしい。


狂った日常は終わり、平穏な日常は帰ってきた。


「あーっ!またフォロワー数減った!」


「また、言ってるの?それよりこれ見て、文部科学省のページ」


「なになに、ゲップ数?」


新たな悪夢がはじまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ