6. 始まる前だけどもう帰りたいです
よろしくお願いします。
短いです。明日も投稿します。
「オリバー兄さん……」
サディくんが振り仰ぎ、その視線を追って私も見上げると、いかにも貴公子然とした男の子が階段から降りてくるところだった。
この子がオリバーくんか。サディくんをちょっと大きくした感じ。そりゃそうか、こっちも兄弟だもの。それにしても、ずいぶんと二人は仲がいいんだな。予想外だ。兄さん呼びするほど交流があるとは思わなかった。
オリバーくんは私たちの前まで来ると、気安い様子で話しかけてきた。
「君がハルちゃんだろう?サディからしょっ中聞いてたから、なんだかはじめましてって感じがしないな。よろしくね?」
私は作法通り、慎ましく笑顔で黙っていた。紹介もされてない初対面の人に、こっちから話しかけちゃいけないんだ。
「兄さん。コレ、ルルーシュ」
サディくんがため息混じりに私を紹介した。コレってなんだ、コレって。
「ただいまコレと紹介いただきました、ルルーシュでございます。本日はお招きありがとうございます」
オリバーくんは爆笑した。
「いや、そんなに畏まんないでよ、俺ら一応、家族でしょ。血は繋がってなくても」
「え?」
「兄さん!」
とがめるサディくんと私を、オリバーくんは順番に見比べている。
ああそうか、オリバーくんは私を、料理人の父さんの子だと思ってるのか。母さんの連れ子で、親族の集まりに紛れ込んだ異分子ってとこか?
「とにかくルルーシュちゃんは俺がエスコートする。悪いな、サディ」
「悪いと思うなら……、いや、なんでもない」
サディくんはそれ以上なにも言わず、少し離れて後ろからついてきた。
「ハルって呼び名なんだろ?俺もハルちゃんって呼んでいい?」
私をエスコートしながら、オリバーくんはまた気軽に話しかけてきた。
「いえその。本家の方にそのような。私、叱られてしまいますから」
やめろやコラ。立場がなくなるんじゃい。
私の心の声が聞こえたのか、オリバーくんは苦笑した。
「そんなに警戒しないでよ。それにしても、さ。ハルなんて、すごく珍しい呼び名だね、聞いたことがないよ?君が自分で考えたの?」
「あ、いえ。下町に住んでいた時、近所の子供が「ルル」とうまく言えずにですね」
これはお義姉様とサディくんにも使った言い訳だ。それっぽいでしょ?でもオリバーくんは目を細めて私を観察した。な、なに?怖。
「ルルが言えないなら、ルーとかウーとか言いそうなのに、ハル?なんで?」
前世の名前だからです!……とは言えない。詳しく聞かんといてくれ。
「さあ、小さな子の言うことですから、私には……」
そうしてほんの少し口角を上げる。よっし、貴族スマイル決まった!
オリバーくんは考え込んでいたが、顔を上げると破顔した。いいな、男の子は好きなだけ笑顔になれて。
「ハルちゃん、サディの言う通りだね!落ち着き方が大人びてるね」
ん?サディくん?
キミは一体、私のことをどんな風に言っていたのかな?
思わず後ろのサディくんを振り返ると、彼はフッと目を逸らした。
「言動が年寄りじみてるってさ!騎士団の食堂のばあさんそっくりだって」
私はもう一度、サディくんを振り返った。彼は目を合わせようとしない。
サディくんは鋭いな、中身は婆だし、調理師だからな。さもあらん。
「えっと、光栄です?」
私が言うと、オリバーくんは大受けだ。
「そこは普通、怒るとこじゃない?本当、変わってるね!」
「貴族の皆様とは異なっている自覚はございます、精進します」
そうそう、市井で育ったからだからね!
オリバーくんは大きな扉の前で足を止めた。
「面白いね、ハルちゃん。後で一緒に庭を散歩しようね」
……は?え?えええっ!
イヤ無理。それにハルちゃん呼びも無理!
「わ、私、あまり花などには詳しくなくて!」
「俺もだ。丁度いいね」
さらに断ろうとする私を手で制すると、低い声で囁いた。
「君に話しておきたいこともあるし、頼むよ」
「え?」
「さあ着いた。じゃ、後でね」
口を出す暇もなく、オリバーくんは片手を上げると離れて行った。呆気に取られる私の隣にサディくんが立ったのもしばらく気付かなかった。
もう帰っていいですか?
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ありがとうございました!
また明日もよろしくお願いします。