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つまりそれは溺愛希望ってことで合ってる?  作者: 佐伯帆由


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29.軍師

こんばんは!どうぞよろしくお願いします。

「オレは、ジョシュア様について行こうと思う」


 サディくんが、とんでもないことを言い出した。


「大して役には立てないと思うけど、これでも騎士団で生き残るために色々学んできた。あの方を支えたいんだ。オレはあの方の「軍師」だし」


 「二人に話がある」と、オリバーくんと一緒にヨーエンギーにやってきたサディくんは、真剣な顔で話し出した。


「なにを言ってるんだ、ダメだ!軍師って、そういう意味じゃないだろう!危険だし、お前まだ成人もしてないんだぞ!」


 オリバーくんが叫んだ。


「わかってるよ、兄さん。なにも、ずっと行くとは言っていない。あの方があっちに落ち着いたら帰ってくるよ。少なくともオレが、学園に入学するまでには」

「そんなに長く!?ダメだダメだ、絶対ダメだ!」


 サディくんは助けを求めるように私を見た。だけど……、うん。私もやめたほうがいいと思う。そもそも、危険を冒してまでついて行っても、どのくらいモルズベリー様の役に立てるか。


「あのねサディくん。私だって、できることなら、なにかの形でモルズベリー様の力になりたいって思う。でも、あの方がご自分の絵を焼いているのを見た時、今の私たちにできることは、もうなにもないんだって悟ったの。それでもサディくんがあの方を支えたいっていうんなら、ちゃんと力をつけてからじゃないと、ただの足手まといになっちゃうかもしれないよ?」

「そんなことはわかってる。これでも長年、騎士団にいたんだ。いくらオレがひ弱でも少しは使えるし、なによりあの方を一人にしたくないんだ。あの方が無茶したり、自暴自棄になったりしなさそうだとわかったら、戻ってくるよ」


 私とオリバーくんは顔を見合わせた。つまり、モルズベリー様はそんなことをしそうな状況だということか。


「けどお前……、騎士団はどうするんだ?軍関係者や公職にいる人物は行けないだろう?国として」


 我が国は今回、おおっぴらに派兵するわけにはいかない。国際情勢は微妙な均衡の上にあって、どの国も「あわよくば」をお互いに狙いあっている。過去に東の帝国の侵略を受けず、比較的国力を保っている我が国が隣国に公式に派兵したとなれば周りは黙っていない。本気で隣国を併合しようというつもりでもない限り、余計な波風は立たないほうがいい。そして現在の隣国は、併合するには利益よりも負担が大きい。


「騎士団は退団する予定だ。こればっかりは仕方がない」


 騎士団はサディくんの願いだったはずだ。モルズベリー様に続いて、サディ間まで自分の夢を捨てることになるなんて。


「サディくん、騎士団にずっといたかったんじゃなかったの?」

「確かにものすごく残念に思ってるよ。騎士団に残るためにいろんな人に迷惑かけたんだしな。でも、オレ、ジョシュア様をお支えしたいんだ。ここで行かないと一生後悔する気がするんだ。騎士団に残るよりもな」

「………行っても後悔することになるぞ、きっと」

「わかってる。多分、ハルの結婚式あたりで、騎士服で出席できないのを死ぬほど後悔するんだろうな。でも、どうせ後悔するならやりたいことの方をするさ。心配かけるのはわかってるけど、もう決めたんだ」


 サディくんの決意は固いみたいだ。サディくんの瞳には、モルズベリー様と同じような強い眼差しが宿っていた。


「ヨーエンギーのお義父様やケンドルクロールのご両親には……」

「猛反対されたし、マリーフォリア義母上には泣かれてしまった。けど、最後には許可してくれたよ。しばらくハルやハルの親父さんの料理が食べられないのは残念だけどね」


 私とオリバーくんは再度顔を見合わせた。もうこれ以上、説得の材料がない。どうしよう、このままでは本当に行ってしまう。


「兄さん、ハルのこと頼んだよ、まだどんなことに巻き込まれるかわからないからな」

「……お前は、それでいいのか?ハルのこと……」


 サディくんは歳に似合わず、大人びた微笑みを浮かべた。


「ずっと前からオレ、オリバー兄さんとハルの間には、二人だけがわかる言葉とか、知識とか、世界とか、そんなのがあるって思ってた。聞いたこともないことなのに、二人にはなぜか通じているってことがよくあったよ。オレ、ずっと昔から不思議だったし羨ましかった。けど、今では、通じ合う二人じゃないと分かり合えないんじゃないか、とも思ってる。だから、もういいんだ。兄さん、ハルを頼んだよ」

「嫌だ」


 オリバーくんは頑なだった。


「そんなことは頼まれないぞ。そんなフラグみたいなこと言うな。お前がここにいればそんな願いもせずに済むんだ」

「ふら……?また訳のわからないこと言って。ハル、オリバー兄さんのこと、よく見ていてほしいんだ。兄さんは、平気な顔して色々策を練ったり手を回したりするけど、アレで割と打たれ弱いところがあるからさ。気にかけてやってくれないか」

「お前、本人を目の前にしてだな、」

「ちょっとハルと二人で話したいんだけど、外してくれないか、兄さん」

「お前な!」

「すぐ済むよ、『五十を数えたら』もどってきていいから」


 それはオリバーくんと初めて会った時、私がマリさんに行った言葉だった。

 オリバーくんはしばらくサディくんを見ていたけど、なにか言いかけ、なにも言わずに、背を向けて部屋を出ていった。


「兄さんのことだからすぐ戻ってくるだろう。急いで確認するけど、ハル、襲撃されて逃げている間、心の中で誰かに助けを求めなかったか?」

「え?」

「もしかして、兄さんだったんじゃないか?兄さんの顔を見たとたんに泣き出したりしてさ」

「え?」


 そう言われてみれば、刃物を向けられた時、オリバーくんに助けてと呼びかけた。


「確かに私……、そうだったけど、でもそれは……」


 刃物を見て、サトーさんを連想したからであって……。


「危険が迫った時に一番に思い出す相手が誰なのかってことが、どんな意味を持つか、よく考えて。ハルには、このくらい言わないとわかんないだろうし、まずは自分の気持ちに向き合ってほしいんだ」


 私が黙っていると、サディくんは苦笑した。そして一瞬、悲しげな目で私を見たが、瞬きをするとニヤリと笑った。


()()()、オレが戻ってくるまでに料理の腕を鈍らせるなよ。帰ってきたらまた()()()の朝メシ、食わしてもらうからな」

 

 そう言って私に歩み寄ると、私をギュッと抱きしめた。サディくん、やっと私のこと、姉さんって呼んでくれたのに、それがこんな時だなんて。


 そうして彼は、行ってしまった。



 さすがに私でも、サディくんの言わんとしていることはわかった。でも、今まで私は、オリバーくんのことをそんな風に意識したことはなかった。と思う。でも、サディくんがそんなことを言い出すくらいに、私はオリバーくんのことを想っていたのだろうか。

 いや、そんなことはない、はずだ。だって、オリバーくんは、ハル婆だった私を知っているんだし、それにそれに、多分彼は攻略対象で私は主人公だ。そんなのってダメだ。自分に素直に向き合うことなんて……、できそうにない。


 バーバラ様にはあんな風に偉そうに言っていたのに、前世に囚われていて、ゲームに一番こだわっているのは、私だ。サディくんには、その事実を突きつけられたような気がした。





 あれから一年が経った。

 あの後入学したオリバーくんも、相変わらず研究会に顔を出す私も、なにかに取り憑かれたかのように学問にも学園生活にも取り組んだ。文字通り生死の狭間で宿願を果たそうと頑張っている人たちのことを思うと、じっとしてはいられなかった。


 そんな中、もうすぐお義姉様が卒業してしまう。私は遅れて入学したので、その分遅れて卒業する。お義姉様は卒業後、「花嫁修行」をするんだって。ブルックスリスト様のお屋敷に通いながら、あちらのお宅のしきたりなんかを学ぶとか……。(こっわ)。コワない?「クリス様のご家族は皆、ステキな方たちだし、全く怖くなんかないわよ」とお義姉様は楽しそうだけど。はいはい。ヨカッタデスネー。二人のラブラブっぷりはもはや、ウザいレベルです。


 私は遅れて卒業するが、その後は上の学校へ誘われている。そのまま研究機関で働くこともできるし、いい選択だと思っている。母さんはシブい顔だけど。


 サディくんからは時折、差出人のない手紙が来る。いつも元気にやっているということと、私の朝ごはんが食べたいと書いてある。置かれている状況などは一切なく、ただ元気だから心配しないように書いてある。これで心配しない人はいないと思う。サディくんの馬鹿。

 オリバーくんから知らされたけど、実はこっそり国境付近でオリバーくんに会っているそうだ。そうやってオリバーくんは支援物資や情報を(サディくん)に、ひいてはモルズベリー様に提供している。そういえば、現在ではモルズベリー様は旧王家の名前を名乗っておられるそうだが、長すぎるし呼びにくいし、私は今でもモルズベリー様と呼んでいる。最初の数ヶ月は全く情報が入ってこなかったが、最近ではようやく、ぽつりぽつりと聞くようになってきた。お元気で邁進されていると聞き及んでいる。


 一方オリバーくんは積極的に社交界に顔を出して情報を収集したり、諸外国への使節団にしれっと混ざって状況を把握したりしているらしい。ずいぶん前から事業をしているみたいだし、いくら中身がサトーさんだからって、やることが段違いすぎやしませんか。

 彼はメキメキと背が伸びて、すっかり見上げるようになってしまった。オリバーくんによると、サディくんも心身ともに成長著しいようだ。

 オリバーくんは、私のことを「ハルちゃん」と呼ばなくなった。「いくらなんでも年頃のレディに失礼だからな」と言われたけど、距離を取られてるんだとすぐにわかった。そうして彼は前を見てどんどんと突き進んでいく。


 あの日から、立ち止まって動けずにいるのは、どうやら私一人だけのようだった。

 


 

 

 



ありがとうございました。


さて、予定外なのですが、次回からオリバーくん視点での話を数回、入れたいと思います。元々は本編終了後の番外編として考えていたのですが、話の流れからここにはさむことにします。どうぞよろしくお願いします。

それでは、また来週。

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