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3. 肝心なことを忘れてました

本日三話目です。よろしくお願いします!



 私が姿を見せると、料理人の父さんは驚いて私を叱った。貴族のお嬢様が、下町を一人で歩き回ったりしてはいけないって。私は、父さんに会いたかったこととか、父さんみたいな料理人になりたいこととか、母さんが変わってしまったこととかを話した。


 父さんは、私の頭を撫でてくれたけど、戻っていいとは言われなかった。特に、母さんは絶対に戻らないだろうと言われた。

 じゃあ私だけでも戻りたい、変わってしまった母さんの側にはいたくないと言ったんだけど。


 それはダメだと言われてちゃった。

 貴族の家にいた方がずっと幸せだし、それにお前のことは可愛いけれど、俺もそろそろ()()()()()()()()()()()から、だって。



 そうか、そうだったんだな、気付けよ、私。


 ごめんなさいと言って歩いて帰った。お義姉様のお金はまだ十分あったけど、頭の中がぐるぐるして、知らない大勢の人と一緒に馬車に乗る気にはなれなかったんだ。


 小さい頃から、見ないように、考えないようにしてた。私、母さんとはそっくりだけど、大柄で、暗い髪色で、浅黒い父さんとは、全然似てないこととか。母さんがよく、一人で夜中に出かけていく意味とか。私の名前の意味とか。


 母さんはルネって名前で、私はルルだ。

 母さんは、「あなたの名前は、あたしから一文字取ったのよ!」と言っていた。


 じゃあ、もう一文字は、誰から取ったの?

 父さんの名前は、アートっていうんだけど。


 ちなみに、お義父様のお名前は、ルカイヤという。


 ……最悪だぁな。




 トボトボと歩いて帰って来た私を見ると、サラお義姉様は「やっぱり」という顔をして、そっと部屋に呼んでくれた。お義父様と母さんは二人で出掛けていた。心からよかった。私はサラお義姉様とサディくんの顔を見ると、いろんな気持ちが一気に吹き出してボロボロと泣き出した。こんな風に泣いたのは、いつぶりだっけ?半世紀以上は前だ。


「と、父さんが……。私の本当のお父さんじゃないって。もう帰ってきちゃダメだって……」


 お義姉様たちは、驚いていなかった。多分、予想していたか、知っていたんだろう。


 でもさ、私が生まれたのって、父さんと母さんが結婚して、もうずいぶん経ってからだったんだよ?そんな頃に、私の血縁上の父親は……。最悪。お義姉様だって、私の二歳年上なのに。ダメだ、気持ち悪い。考えたくないぞ。古くて固い頭には受け入れ難い。無理。やだ。


「やだ、やだ。私は父さんみたいな料理人になりたいんだぁ〜〜!大きくなったら、このお家を出て料理人になるんだぁ〜〜!」


 そう言っておいおいと泣いた。お義姉様は困り果てたのか、無言で私の頭を撫でてくれた。そして泣き疲れた私はそのままお義姉様の部屋で眠り込むという失態をさらしてしまった。

 誰か使用人が運んでくれたんだろう、朝には着替えて自室で寝ていた。あれだけ泣いたのに目もそんなに腫れていない。どうやったんだ、使用人の皆さん。優秀すぎる。


 母さんと顔を合わせたくなかったから、まだ早かったけど食堂に降りると、なんと義弟のサディくんがいた。


「そ、その、おはようございます。ずいぶん早いですね」

「今朝、始業までに戻らないといけない。何か朝食と思ったんだけど、使用人を起こしたくなくて」


 よっしゃ来た、婆のターン!


「私でよければ作ります、少し待ってくださいね!」


 私は返事も聞かず手早く朝食を準備して、サディくんに食べさせた。サディくんは、今世ですらも年下で、体も丈夫じゃないのに、朝ごはんも食べずに出かけるなんて前世調理師のこの私が許しません!

 それにだ。もし本当に私がお義父様の子なんだとしたら、この子は半分だけど血を分けた弟ってことになる。前世は五人きょうだいの四番目で、下には妹しかいなかった。

 弟かぁ……。新鮮だぁ。


「美味かった」


 全部食べ終わるとサディくんは言ってくれた。へへ、嬉しいもんだね。孫を思い出すよ。


「料理人の父さんから習ったんです」


 そう言うと、昨日のことを思い出して少し悲しくなってしまった。サディくんは居心地悪そうにしていたが、何も言わなかった。


「えっと、昨夜はその、ご迷惑かけてしまってごめんなさい。お詫びに、お好きなものを作ってお弁当にします」

「いらない」


 サディくんは取り付く島も無かったが、婆はめげないのだ。


「じゃあ、私の好きなものを弁当にしますね」


 にっこり笑って勝手に作り始めた。置いていっちゃうかなと思ったけど、サディくんは黙って持って行ってくれた。よっし!



 思うに、大泣きして気付いたけど、私、相当に前世の考え方とか価値観とかを持ったままだったんだろう。前世でさえ古くて固い頭だったんだからなー。父さんと母さんは夫婦で、私は娘なんだから、血縁も心情的にも親子だと疑ってもみなかった。

 でも、お義姉様もサディくんも、私の生物学上の父親が誰か、すぐに思い当たったんだろう。私がこの家に来た時には、もうわかっていたんだな。考えてみればそうだ。実の娘じゃなかったら、お義父様が私までここに連れてくるはずがない。もし私が父さんの子だったら、むしろ置いてくるよなー。気付けよ、私(二回目)。


 ここでは、結婚とか、子供に対する愛情とか、そういう考え方が前世とは全然違うんだろう。それがいいとか悪いとかじゃなく、ただ違うんだよね。そしてこの世界で生きていくんだから、慣れなきゃいけない。

 でも、この世界の考えに慣れて理解したとしても、自分まで同じ考えを持つのは、相当難しいよなあ。孫娘流に言えば「キモっ無理」だ。婆の年まで生きていて染みついた価値観ってのをひっくり返すのは、並大抵じゃない。少なくとも、すぐには無理だ。


 あーあ、私、将来、この世界の価値観を持った男の人と、結婚なんてできるかな?ちょっと無理な気がするなあ。やっぱり、手に職を持って一人で生きてく道を探した方が、自分の価値観ひっくり返すよりできそうな気がする。


 ……勉強しよっと!

 なんにせよ、この世界をよく知っていかなきゃね!

 がんばるぞー!




 私、忘れてました。ここがゲームの世界だってこと。


ーーーーーーー

ありがとうございました。次話は来週末に更新の予定です。

基本的に週末、ぼちぼち更新します、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。よろしくお願いします!

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