25.プロムナード
こんばんは。誤字報告をいただきありがとうございます。修正いたしました。以後気をつけますが、またやらかしてしまったら何卒よろしくお願いします。
なんだか色々なことが中途半端なままだ。
第三王子殿下から「しばらく待て」と言われた件も、私にはずいぶん待った気がするが、動きのない状態だ。あれから研究会も数回あったが、前回と全く変わらない調子で終わり拍子抜けだった。殿下にこちらから話しかけることもできないし、そもそも研究会の席で私語もできないしな。
オリバーくんが「調べてみる」と言った件も、私は動くなと厳命されているので下手に動けない。だからできるだけ考えないようにしているけどモヤモヤする。モヤモヤするとご飯が美味しくない。この私がご飯が美味しくないだなんて一大事だ。「さっさと白黒つけろやゴルァ!」……と、言えるわけがなかった。すみません。でも進捗とか見通しだけでも知りたいっす。
モヤモヤしているうちに、上級生たちの卒業式がやってくる。その前に、卒業記念のパーティ、プロムナードがある。
プロムを卒業式より前に行うのは、なんでも以前はプロムで風紀が乱れに乱れて、酒を飲んで暴れたり色恋がらみの暴力沙汰があったり婚約破棄騒動があったりしたからだって。なんだそれ、怖。
手を焼いた学校側が「卒業資格を与えてしまった後の生徒たちだから処罰もやりにくい。まだ学生の身分のうちに、プロムナードを済ませてしまえ」と決断したそうだ。確かに学園主催のイベントで、騒動を起こしたのがもう卒業してしまっている人物なら学園側が処罰を与えるのは難しいだろう。身分の高い人なら特に。そして卒業生側もそれを見越して羽目を外していたらしい。でも卒業前にプロムを済ませてしまえば、「卒業資格を失効されたくないなら、プロムでおとなしくしてろ」という抑止力になるというわけだな。英断。
やるじゃん、フェルワース校長先生。先日、チラッとお見かけした時は、なんというか……。気疲れが多いのか、立派なお髭が痩せ、前髪が薄、いやその、額が少々、広くなっておいででした。はい。
プロムナードは自由参加だが、卒業生は大抵参加する。そして参加するならパートナーと行くのが主流なんだとか。一人で行くツワモノもいるらしいけど。
お義姉様はもちろん、婚約者のブルックスリスト様が卒業するのだから参加するだろうけど、私は今年は行かなくてもいいかな、と思っていた。いたんだけど。
「ルルーシュ嬢、僕とプロムナードに参加してくれないか」
モルズベリー様の申し込みに腰を抜かすことになった。
速攻で辞退しようとする私を手で制すると、モルズベリー様は苦笑しながら続けた。
「最後まで説明させてくれ。
僕は一応、君に求婚をしている立場上、他の令嬢を誘うわけにもいかないし、かと言って一人で行くのも気が乗らない。しかしプロムには参加してみたいんだ、記念だしね。だから、ぜひルルーシュ嬢と行きたい。それとね……」
図書館棟の前で待ち構えていたらしいモルズベリー様に声をかけられた私は、それでなくとも周囲の生徒の目が痛い。今日は女子の図書館使用日なので周りは女学生ばかりだ。皆、遠巻きにこちらをみてはヒソヒソと話している。
モルズベリー様は例の目つきの鋭い従者さんと一緒だ。内緒話をするようにこちらにかがみ込んで、なにかをささやく。聞こえない。
「……す、すみません、なんですか?」
仕方なく、私もモルズベリー様へと体を寄せ、耳を傾ける。顔が近いな。
「どうやら、エルドレット殿下が君に話があるようなんだが、君とだけ話すための、それらしい口実が作れない。でも、プロムでなら機会もあるだろう?殿下はまだ生徒じゃないけど、学園で研究会をしているから、参加資格があるんだ」
「な、なるほど……」
「それで僕が相談を受けた。で、どうかな?衣装なんかはこちらで準備するんで心配ないし、ヨーエンギー家には打診済みだよ。全ては君の承諾次第なんだけど。駄目かな」
いや、駄目でしょ!
「その、プロムナードは恋人とか婚約者の方とパートナーを組むと聞きました。ですから……」
「建前上はそうだけど、気の合う友人と参加する場合も多い。参加者全員が恋人同士なわけないだろう?」
「そ、そうだとしても」
モルズベリー様はニヤリと笑った。珍しいことだ。
「君には少々、強引にいくべきだと学んだんだよ。でも流されてくれるわけじゃないから君は一筋縄では行かない。だから本音を言うね。
僕は、君が好きだよ。友人以上にね。でも、僕の求婚に君が答えてくれたとしたら、僕は慌てるだろうなあ。あくまでも、君が断ることを前提に求婚しているからだ。
僕にとって一番大切なのはやっぱり絵で、恋愛や友人関係は二の次だ。絵よりも大切なものができるのはいやだし怖くもある。
僕は、君が断るのがわかっているから安心して君を好きでいられる。屈折しているのは自覚しているし、これから君への気持ちがどう育っていくかはわからないけど、これが僕の今の正直な気持ちだ。
プロムには友人同士として参加するし、僕が強引に参加させたことを公言する。君が簡単に承知しないのが嬉しいとは我ながら病んでるけど、承知してくれないとそれはそれで困る。だから、この場で跪いて懇願すべきかな?どう?」
「や、やめてください!ダメです!」
モルズベリー様が朗らかに笑った。ますます人が集まり、注目されていく。イヤ、無理ぃ!!
モルズベリー様が従者さんに手を出すと、従者さんが恭しく封書を渡し、モルズベリー様は優雅に私の前に歩み寄り、その封書を差し出した。みるとプロムナードへの招待状だった。
「ルルーシュ・ヨーエンギー嬢、私ジョシュア・モルズベリーはあなたに、プロムナードのパートナーとして参加してくださるよう申し込みます。どうか受けてくださいませんか?」
周囲に聞こえるような声で宣言すると、モルズベリー様は片膝をついて招待状を掲げたのだ。
「そんなことをなさってはいけません!お立ちください!お願いします」
私は慌てて駆け寄るが、立ち上がってくれない。触れたり引っ張り起こしたりしたらむしろダメか。どうすりゃいいんだ。助けを求めて従者さんを見るけど、表情を変えず微動だにしない。鋭い目つきで周囲の反応をうかがっている。周りからは、黄色い歓声まで上がった。詰んだ。
「じゃあ、受けてくれる?」
「わかりました、わかりましたから、お願いします!」
モルズベリー様はまたひとしきり笑うと、ようやく立ち上がってくれた。
「ありがとう、ルルーシュ嬢。ごめんね、でも嬉しいよ」
私の渋面をみると、また朗らかに笑った。
「僕のパートナーをこんなに嫌々引き受けるのは君くらいだよ。楽しみにしているよ、当日は迎えにくるからね」
私の手に招待状を握らせ、ついでに指先にキスすると、モルズベリー様は去っていった。
そのまま、呆然と立ち尽くす私に、令嬢方が近づいてきた。
「どうしましょう、どうしましょう、こんな
……」
私の狼狽ぶりに、令嬢方は顔を見合わせて吹き出した。ヒドくない?
「どうしようもなにも、参加されるしかございませんわ。当日はわたしくしも参加いたしますの。楽しみにしておりますわね」
令嬢の一人が声をかけてくれた。この人、お義姉様のお友達だ。
「モルズベリー様にお誘いいただくなんて、名誉なことですし、あんなに仲良さげに身を寄せ合っておいて、なにをそんなに戸惑われますの?」
身を寄せ合って!?違う、声が聞こえなかっただけだから!
「恐れ多すぎます!どうにか辞退はできないでしょうか。やはり、当日仮病でしょうか?」
「校医が派遣されますわね」
「大嵐でもやってきて中止になるとか……」
「後日に変更になるだけですわ。フフ、サラ様があなたのことを可愛がるのもよくわかりますわ。お諦めになって、ダンスの練習でもなさったほうがよろしくてよ」
「ダンス……!」
私が文字通り、頭を抱えて絶望の声をあげると、周りの女生徒たちから暖かい笑いが湧き上がった。私は、モルズベリー様のなんとも微妙な告白を思い出して、赤面した。でも、誰か特別な、大切な人ができることに躊躇する気持ちは……、わからなくもない。
淑女の礼をあれだけ頑張った私だ。ダンスももちろん頑張ってきたし、嫌いじゃない。だけど、楽しいのは家族や講師と踊る場合に限る。こんな風に最初に踊り出す人、つまりダンスの始まりを告げる役の一員として注目される中で踊るなんて、想定外だ。一曲目を踊るのは第三王子殿下や校長先生をはじめとした身分のある方ばかりだというのに。
モルズベリー様に送られたドレスを身にまとい、フロアの真ん中でモルズベリー様にホールドされて前奏を待つ間、ほぼ意識がなかった。
わー眩しい。ここどこだっけ。プロムナードでモルズベリー様と踊ってるんだっけ。
緊張のあまり現実味が薄れていく。世界が白い。視界もいつもより狭いみたいだ。
ほとんど無意識のまま、ほぼ本能で踊り、いつのまにか終わった。
プロムナードでよかった。参加者は学生がほとんどで、学外者は学生のパートナーとして参加している家族や婚約者がちらほらいるくらいだ。それでも私の緊張はMAXだったよ。
あとはなんとか機会を作って第三王子殿下とお話させてもらえば、私はお役御免だ。早く壁際でも柱の影でも行って、存在を消したい。
「疲れたかい?ルルーシュ嬢。僕は殿下を探してくるから、そこで休んでいて」
エスコートされて腰掛けたとたん、どっと現実が戻ってきた。視界も戻ってくる。思わず安堵のため息を深くついた。すると、手足が震え、額には汗をかいているではないか。はあ、もう二度とゴメンだ。
「美しいダンスでしたわ」
一息ついたとたん、また心臓が跳ね上がる。
振り返るとそこには、まだ幼い面影を残している少女が立っていた。見事な縦ロールと、赤と黒を基調とした派手なドレス。でもその装いとはそぐわない、おどおどと泳ぐ瞳と俯きがちな顔。
突然声をかけてきたのは、第三王子殿下の婚約者、バーバラ・ノーストップ様だった。
ありがとうございました。
次回は来週末を予定しています。
どうぞよろしくお願いします。




