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つまりそれは溺愛希望ってことで合ってる?  作者: 佐伯帆由


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24.夢をみる

こんばんは。

今晩もよろしくお願いします。




「えっ!!!バーバラ様がですか?私に?なっ、なんで!?」


 ある日、私は第三王子殿下の婚約者、バーバラ・ノーストップ様からの呼び出しを受けた。

 面識もないしできることなら近寄りたくない。大体、なんの話だろう?

 家格の差もあるから、おそらく断ることはできない。だが、きちんと書面で伝えてくるあたり、少なくとも突然、食堂で詰問してきた妹よりは、常識がありそうだ……。いやそれ、巨大なブーメランだな。突撃の常習犯だったっけ、私。

 寮の受付まで書面を運んできた女性は、いかにも気難しそうな厳しそうな方だった。呼び出された私が部屋着のままで、大きな声をあげたことや言葉遣いも気に入らなかったんだろう。横目でギロリと睨んできた。


「し、失礼いたしました。承知いたしましたとお伝えください」


 女性はノーストップ家の使用人だとしても、確実に私より身分が上だ。私はこの格好で精一杯の淑女の礼をした。女性の眉間の皺が少しゆるんだ。ほっ。


 私は新しい方の制服を身につけて(やっとピッタリサイズのがきたんだよね)、ビクビクしながらもマリさんと二人で指定の学習室に行ってみると、そこにいたのはバーバラ様ではなかった。


「すまない、君を呼び出したのは私だ」


 従者らしき人を背後に二人置いてこちらを見上げてきたのは、エルドレッド第三王子殿下その人だった。

 再び卒倒しなかった私をほめてもらいたい。





 どうぞと言われて口をつけた飲み物も、味なんかわかりゃしない。て、手が震える。だが、向かいに座る殿下を見ると、なんだか顔色が良くない。そういえば、この方、人見知りだっけ?じゃなくて、なんだか怯えられているんだった。

 殿下は先ほどから、何かを言いかけては口を閉じるを繰り返している。まだ幼さの残る顔だ。うん、えっと、年長者が歩み寄るべきだよね。私はカップをそっと置くと、にっこりと殿下に笑いかけた、つもりだ。笑顔が引きつって、かえって怖かったかも。

 殿下は、ギョッとした様子だったが、深呼吸を繰り返すと、ようやく話し出した。


「バーバラの名前を使ったりして、すまなかった。私が直接、呼び出すとなると、色々面倒な手続きがあるんだ。き、君に、少し確認したいことがあるだけなので、おおごとにしたくなかった」

「いえ、そんな……」


 こういう時になんて返せばいいんだ。淑女教育が足りてないぜ!

 それにしても何度も思うけど、こっちの子供って早熟だな。それとも王家の教育の賜物なんだろうか?

 で、確認したいことって?私は黙って、殿下の次の言葉を待った。


「……先日、久しぶりにジョシュア様と話す機会があったんだ。君の絵を描いているそうだね」


 私は頷いた。ジョシュア・モルズベリー様は殿下の従兄にあたる。仲は良好だと聞いたことがあった。


「はい、でもその……。品評会に匿名で出したいから、そのことは内密にと言われております」

「聞いている。ずいぶんと君の絵に没頭していた」


 モルズベリー様の話になったら、殿下の緊張もほぐれたようだった。


「その時……、君を無理矢理、研究会の一員にしたのはなぜかと聞かれた。私は驚いた。私は君を引き込んだつもりなどない。むしろ、君の方から希望していると聞かされたんだ」


 ……え?

 ……どういうこと!?

 

「あの……。私どもは辞退を申し込んだのですが」

「ジョシュア兄さまもそう言っていた。そんなわけはない、どうなっているんだと聞いたら、まずは本人に確認してみたらいいと言われたんだ。君は辞退したがっているからって」


 「ジョシュア兄さま」。モルズベリー様のこと、そんな風に呼んでいるんだ。なんだか微笑ましいなと思ったら、私も少し緊張がほぐれた。


「は、はい。モルズベリー様のお話では、私の研究会入りは殿下のご希望だと……」

「私は希望などしていない。そもそもこの研究会自体が乗り気でなかった。この会を発足させたのはバーバラだ」


 私は口を閉じるのも忘れて殿下を見返した。


「ジョシュア兄さまは、君を学園に保護しようと動いていたら私から研究会への申し入れをもらったと言っていた。それなら丁度いいと、兄さまが中心に君の受け入れを整えたそうだ。だが、私はそんな希望を出していないし、私とバーバラは君のことを、その……」


 殿下は言葉を切って私をちらっと見た。さすがに本人に面と向かって避けていたとは言いにくいんだろう。心の優しい方なんなだなと思って、私は助け舟を出すことにした。


「先日、バーバラ様の妹様、ローレリー・ノーストップ様に、殿下やバーバラ様に近づくなと忠告をいただきました。身に覚えのないことで、どういうことだろうと疑問に思っていたのです。ローレリー様は、殿下にもバーバラ様にも、私は揉め事の種で問題児だから決して関わらないように言い含めていると仰っておいででした」


 殿下は明らかにほっとした様子で息をついた。


「そうなんだ。君には悪いが。だからバーバラや私が、君の入会を希望することはないはずなのに、なぜかこうなっている」

「失礼ですが、バーバラ様は、なんと?」

「公式の場以外では、ここ数ヶ月は会っていない。書面を送ったが返事はない。君が入ってきたことで拗ねているんだと思っていた」

「まさかそんな……!で、では、今からでも辞退は可能でしょうか」


 私が身を乗り出すと、後ろに控えていた従者の方が咳払いした。それ以上近づくなということだろうか。私はおとなしく身を縮めた。


「そうだな、君が希望するならそうした方がいいかもしれない。だが、少しだけ待って欲しい。なぜこんなことになったか、詳しく調査するから」


 調査。何をだろう。


「どこの誰が、どう仕組んで、こんなことになったのか。なにが目的なのか」


 なるほど……。私に異議を唱える権利はない。謹んで承るだけだ。


「わ、わかりました。ご指示に従います」

「ありがとう」


 殿下はわずかに微笑んだ。やっぱりこっちの子供は早熟だ。私は一切無駄話をせず、一目散に退出した。





 絵が完成したと連絡をもらったのはそれからしばらくしてだった。品評会に提出する前に私に見せてもらえることになり、私はお義姉様とブルックスリスト様と一緒にモルズベリー様のお屋敷にお邪魔した。



「まあ……!」


 お義姉様が声をあげる。それは、ちょっと眠そうな顔をした私が、光の中で微笑んでいる絵だった。だいぶ美化されているのが恥ずかしい。絵の良し悪しはよくわからないけれど、立派な額縁に入っている。こんな感想しか出てこないから芸術オンチとかって言われるんだな。


「どうかな……?」

「とっても素敵。ねえ、ハル。……ハル?」


 お義姉様の呼びかけにハッと我に帰って慌てて返事をした。


「は、はい。私じゃないみたい。夢を見ているみたいです」


 モルズベリー様が嬉しそうに笑った。


「気に入ってもらえたならよかった。絵の題を決めかねていたんだが、それはいいな。よし、それにしよう」


 そ、それとは?


「この絵を『夢をみる』という題で出そうと思う。申し訳ないが、品評会が終わるまでは、この絵については発言しないでいてくれると助かる。期限ギリギリに提出する予定だから、そんなに長いことではないだろう。評価が決まった後なら、公表してもらって構わないよ」


 公表するような場もないと思いますが。

 お義姉様とブルックスリスト様は顔を見合わせると、モルズベリー様に向かって深く礼をした。


「承知いたしました。モルズベリー様」


 ブルックスリスト様の言葉に合わせて、私も慌てて礼をした。


「しかしなあ、ジョシュ」


 言葉を崩してブルックスリスト様が呼びかける。


「この絵はルルーシュ嬢だと気付く人も多いだろう。彼女が君の「想い人」なのは社交界では有名なんだし、作者が君なのは推測されてしまうんじゃないか」

「そうかもしれないが、僕はこれまで風景ばかり描いてきたし、審査員たちは世情にうとい芸術家肌が多いし、真偽を確かめる時間もなく審査に入れば、絵のみで評価してくれる人が大半だろうと踏んでいる」

「そんなものなのか。それにしても、君にはこんな風に見えるんだな」


 ブルックスリスト様がモルズベリー様に何かをささやき小突くと、モルズベリー様も小突き返してささやく。お義姉様がなぜか慌てて私を振り返った。だが私が要領を得ない顔をしていると、安心したように苦笑した。




 結果、モルズベリー様の『夢をみる』は入賞を果たした。「希望と不安の入り混じった少女時代独特の雰囲気が豊かに表現されている」らしい。私には眠そうにしか見えないけど。

 その賞は若手の作家としては大変な名誉らしいのだが、作者がモルズベリー様とわかってからは、モルズベリー様を最優秀作品に選ばないとは何事だ、と騒ぐ人が一部にいたり、最優秀作品に選ばれた作家が辞退を申し入れたりだとか、すったもんだがあった。モルズベリー様は最優秀者の辞退を許さず、ただの作家として評価してもらったことを感謝しているとの表明を出された。

 モルズベリー様にはすでに、肖像画の依頼が舞い込んできているらしい。だが、モルズベリー様は、「人物は描かないから」とお断りされているのだとか。

 それって、さ。

 そう、とばっちりはこっちにくる。私の肖像画で入賞したからだ。学園の寮にいてよかった。校長先生が騒音をシャットアウトしてくれている。それでも、やっかみ半分、ご婚約はいつですかだのお式には呼んでくださいだのと言ってくる生徒はいた。まだそれでもマシな方で、どうやって取り入ったんだとか弁えろだとか、まあ騒がしい。確かに縁談をいただきましたが恐れ多いので辞退いたしました、を何回繰り返したことか。


 この大騒ぎの中、私は十五歳になった。こんな中で誕生パーティなんかしたら、招待客を絞るだけでも大変だ。事態が落ち着くまで延期を願い出たら、お義父様は二つ返事で了承した。うっ、なんだか面白くない。


 進級試験も近い。遅れて入った私は人一倍頑張らなくてはならない。奨学生なんだし。

 それが終われば、ブルックスリスト様やモルズベリー様たちの卒業式となり、次の学年にはオリバーくんが入学してくる。

 季節がめぐるのは早いな。私の小さな弟も、ちょっと見ない間に大きくなっているに違いない。




ありがとうございました。

皆様のお住まいの地域では台風の被害などなかったでしょうか。ご無事で過ごされたことを願っております。

次回は来週末を予定しています。本編も、あと五、六話を予定していますがどうなることやら。

どうぞ最後まで、よろしくお願いいたします。

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