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つまりそれは溺愛希望ってことで合ってる?  作者: 佐伯帆由


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23. バチがあたります

こんばんは。

先週はお休みをいただきありがとうございました。

今週から物語の終結に向けがんばります。

どうぞよろしくお願いします。


「また面倒ごとに巻き込まれているらしいね、ルルーシュ嬢」


 私は、約束のモデルの役をつとめるため、モルズベリー様と例の噴水の前にいた。


「エルドレッド殿下の婚約者は、バーバラ嬢だろう?彼女が婚約者に近づくなと忠告するならまだわからなくもないが、なぜ妹のローレリー嬢が君に?」


 ……よく知ってるな。オリバーくんからブルックスリスト様経由で聞いたんだろうか。


「私にもさっぱりわからなくて困惑しています」

「そもそも、僕の求婚を『恐れ多いから』と断っている君が、殿下に近付こうなんておかしな話じゃないか」


 私は顔をしかめた。「求婚」だのなんだのは、そもそもモルズベリー様が作り出した設定だ。私のしかめ面にモルズベリー様は苦笑した。


「ほらほら、そんな顔しないで。もう少し笑ってみて」


 私は無理矢理、両頬を持ち上げたが、モルズベリー様は呆れた顔をしただけだった。


「そんなに固くならないで。楽にしててくれればいいんだけど、少し話でもしようか。

 そうだなあ。……君には、憧れているものとかはある?」


 私は少し考えた。


「憧れですか?そうですね、平穏無事な毎日とかですかね」


 モルズベリー様は穏やかに微笑まれた。


「確かにそれは貴重だね。得難いものでもあるな。そう、君にも僕にもね……。では、君は将来、なりたいものはある?」


 なりたいもの……。下町の料理人。今ではもう、難しいことはわかっている。


「あ、その表情はいいね。少し憂いがあって。少し上を向いて……。そう。そのままね」


 モルズベリー様、本当にこの絵に情熱を傾けておいでみたいだ。すでに何度も描き直していると聞いている。そういえば、少し疲れた顔をしていないか?


「あの、差し出がましいようですが、きちんと食事はされておいででしょうか?少々お疲れのようですが……」

「たしかに、睡眠や食事の時間も惜しくてね。おろそかにしているかもしれない」

「そういったものが足りていないと、自分の力も出しきれないと聞いたことがあるんです。だから、良い作品を描きたいとお思いなら、睡眠や食事を大切になさらなければいけません。次回までにお顔の色がよくなっていなかったら、もう絵の題材になるのはやめますよ?」


 モルズベリー様はキョトンとした顔でこちらをみていたが、すぐに朗らかに笑い声をあげた。


「それは困るな。僕はこの絵に全てをかけているんでね。では、お言葉通り、少し休憩してお茶にしよう」




 私たちは室内に用意されたテーブルを囲んだ。


「進言をありがとう、ルルーシュ嬢。君は相変わらずだな」


 モルズベリー様はカップを手に穏やかに微笑んでいる。


「相変わらず、でしょうか?」


 私の問いには答えず、モルズベリー様はふと真顔になり遠い目をした。


「君には、機会があったらぜひ礼を言いたいと思っていた」

「絵の題材の件なら……」

「いや、そうじゃないんだ。実はルルーシュ嬢、僕は昔、君に会ったことがあるんだよ」


 ん?まさかこの人まで前世の記憶があるとか言い出すんじゃないよな。


「君はまだ、本当に小さかったから覚えていないかもしれないけど、君が下町にいた頃、僕は一時期近所に住んでいたんだ」


 ええっ!?

 この方が?近所って、料理人の父さんの家の近く、ってこと?

 私が混乱していると、モルズベリー様は堪えきれないというように肩を震わせて笑った。


「びっくりさせたいと思っていたけど、ここまでびっくりしてくれるとは思わなかったよ。

 いやごめん。ちゃんと説明するね」


 モルズベリー様は目の端をハンカチで拭いながら言った。そこまで楽しんでもらえたんだったら、私も文句は言わないでおこう。



「知ってるかもしれないけど、僕は隣国の王家の生まれで、国は東の帝国に侵略されて滅んでしまい、家族は死んでしまった。帝国の連中は、王家の生き残りをことさら虐待したり冷遇したりすることはなかったが、平民として追放された幼い子供たちがどうなるか、わかっていたんだろう。

 僕には異母弟がいてね。ロイっていって、母親は平民だった。庶子とも認められていなかったから、ずっと市井で暮らしていた。辛い思いをしていたかと思っていたけど、そうではなく、むしろ僕の母は彼女を王宮から逃したらしい。

 僕が王宮から出されることになった時、ロイの母は恩返しをしたいからと言って、僕を引き取ってロイと一緒にこの国にやってきた。そして三人で下町で暮らしていくことになったんだ。事態を受けいれられずに荒れる僕を、二人は支えてくれた。

 しばらくは平穏に暮らしていたよ。覚えているかな……、イタズラ好きだった弟のことの方が、君は覚えているかもしれないね。君は下町に来たばかりで好き嫌いする僕に、カタコトで野菜を残すなとか食べ残しをするなんてバチが当たるとか言ってたっけ。」


 そういや、そんなことを誰かに言ったような……。


「バチが当たるとはどういうことか聞いたら、まだ言葉もはっきり発音できないような子が、悪行の報いに、天から苦難を与えられるということですと言ったんだ」

「そ、そんなことを申しましたか?」


「それで僕は、今までいっぱい残したからバチが当たるかもしれない、そうなったらどうすればいいかと聞いたんだ」


 そうだっけ……。ヤバい、その辺りは覚えてない。


「そうしたら、わかりませんが、良いことを重ねれば報われると言われています、だって」


 モルズベリー様は思い出したように朗らかに笑った。


「そんなことを幼い子に言われたら衝撃だしずっと忘れられなかった。それからしばらくして、隣国に新王朝が開かれると、僕は一人、隣国に連れ戻された。そこで僕は……、新王朝に従順になるよう、()()された。心理的にも肉体的にも痛めつけられて、ぼくは思った。きっと、バチが当たっているんだ、だからこんな目にあっているんだと」

「そんな……」

「僕は真摯に毎日祈ったよ。これから良い子でいます、だから助けてくださいってね。あの状況でできる限りの「良い事」をしたよ。虫を助けたりね。そして、良いことを重ねていれば、きっといつか助かると、希望を失わずにいられた。

 隣国では政情が度々不安定になり、そのうち僕は混乱に乗じてこの国に逃げてくることができた。


 こちらの王宮では、僕が一時期、この国の下町で暮らしていたことも、隣国に連れ戻されて「教育」されていたことも知らなかったと言われた。そもそも、僕が生きていたことすら知らなかったんだ。「王子は行方不明」と言われれば、生存は絶望的だと誰もが思うだろう。ロイの存在については、知らないか知っていても問題にすらしていないようだった。異母弟の存在が大きく取り上げられると、あの親子に迷惑や危害が加えられるかもしれない。僕はこれ幸いと、僕がこの国の下町で暮らしていた事実ごと、ロイの存在を隠した。


 ただ、この国に戻ってから、親子の行方は調べた。しかし彼らは僕が隣国に連れ戻された後に姿をくらましてしまった。あの母親のことだ、もうこの辺りにはいないはずだ。僕とロイをおおらかに育ててくれた、たくましい女性だった。なんとか礼がしたいと思ってはいるが、そのせいで隣国に目をつけられかねないからね、どこか遠い空の下で幸せに暮らしているはずだ、もうそっとしておくべきなのはわかっている。


 君のことも、希望をくれたあの時の子は、どうしているかなと、一度だけ調べてもらったことがある。該当の場所に該当の少女はいませんでしたと報告を受けた。今思えば、君はすでにヨーエンギー家に行った後だったんだろう。その時は、もちろん残念だったけど、会えなかったなら仕方ない。それきりその少女のことは忘れていた。


 君があの時の子だと気が付いたのは最近だ。君が気付酒に酔った時、昔と同じように「バチが当たる」と言っていたので僕は驚いた。あの時の子が君だったとようやく悟った。そういわれてみれば幼い頃の面影がある。

 それまで君は、僕にとって少し風変わりな、興味をひかれる女の子だったけど、それがあの時の少女だなんて不思議な巡り合わせだと思った。それで、君のことを改めて詳しく調べさせてもらったんだ」


 私はモルズベリー様をあらためてまじまじと見た。そうか、この人……。私のカブトムシの絵を熊って言った、あのお兄さんだ。異母弟っていうのが、私の絵をヘッタクソと言った悪ガキなんだろう。

 私がそれを告げると、モルズベリー様も私のことをまじまじと見ると、また声を上げて笑い始めた。

 よかった……。つらい話を聞いた後だったから、場が和んだことと、モルズベリー様が今はこうやって、心から楽しそうに笑うことができることにホッとした。


「それは失礼したね。でも覚えていてくれて嬉しい」


 モルズベリー様は私を慈しむような目で眺めた。



ありがとうございました。

下町のお兄さんの存在を忘れているそこのアナタ(ほぼ全員)、一話目とか九話目とかを読み直すと発見があるでしょう!


次回は来週を予定しています。(間に合わなかったらごめんなさい)

それでは次回もどうぞ、よろしくお願いします。

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