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つまりそれは溺愛希望ってことで合ってる?  作者: 佐伯帆由


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22.磁石体質

こんばんは。今週もよろしくお願いします。



 十日の休みが明けた。

 私がお酒でひっくり返ったことは、誰も知らなかった。お義姉様でさえも。もちろんよかったんだけど、それはそれで怖くない?権力の存在を感じるよ。いや、ありがたいです。はい。


 学園での授業もその後、いくつか受けたけど、なんとかついていけている。よかった。せめて成績ぐらいはちゃんとしておかないとね。


 第三王子殿下との「共同研究」も始まった。顔合わせは、拍子抜けするくらい順調にいった。こちらからは決して話しかけず発言せず、必要以上の会話はしない。事務的な発表と連絡以外には言葉を交わすことはなかった。

 このまま卒業まで、こんな感じで過ぎないかな?そうだといいけどな。そうでありますように。

 ただ、一つ気になるのは、殿下がなぜか私のことを、なんだか怖がっているみたいに見ることだ。私が殿下に怯えることはあっても、逆ってあり得なくないか?でも、なんだかビクビクしてるように思えるんだよなぁ。なんでだよ。噛みつかないよ?多分。

 けどなあ。

 アナタが私を共同研究者に指名したりするから、こんな事態になってるんですが。しかも、「熱心に希望している」とモルズベリー様は言っていた。それなのに、その態度はなんですかね。意味不明です。助かるからいいけど。

 まあ、殿下は庶民と接することもなくて、どんなのがくるのか緊張してたのかも。人見知りする方なのかもしれない。ということにしておく。私もおとなしくしておくべきだね。詮索無用、無用!




 こんなことを心の奥で誓っているほどなんだ。私としては、自ら嵐を呼んでいるつもりは全くない。平穏無事で静かな暮らしを望む、人畜無害な十四歳だと自負している。

 だが、嵐の方がどうやら私を離してくれないようだ。

 この度の嵐は、少女の姿をしていた。



「あんたね、ここはゲーム版の世界じゃないよ!あのゲームを下敷きにした小説版の方の世界なの!そっちは、ヒロインは破滅するんだって、知らないんでしょ!残念でした、どう頑張っても逆ハーエンドは存在しないし、殿下を攻略なんかしたらホントに破滅するよ!」


 少女の歳の頃はせいぜい十歳ってところかな?小声の早口でまくしたてた。


「は?ええと……」



 場所は寮の食堂。一人お茶を飲みながら、課題の本を読んでいたところだった。お行儀悪いですよね。でも他に誰もいなかったし、少々やさぐれてたの。

 突然現れた少女はここの生徒じゃなさそうだった。胸元に「訪問者」のバッチを付けている。

 私が面食らっているのをよそに、少女は畳みかけた。


「確かに姉さまは悪役令嬢だけど、破滅する悪役令嬢じゃないよ!ざまぁされるのは、アンタ!とにかく、姉さまや姉さまの婚約者を悲しませたり怖がらせたりしたら、ただじゃおかないから!」


 ちょっ、ちょっ、ちょっ……、、、


 はあ?


「で、アンタはなに?ヒロインムーブしてるからには、成り上がり希望の前世持ちか無自覚系現地人か、どっちかなんだろうけど」


 両方意味のわからない二択!それに、ヒロインムーブ!?って、なんですか!?

 また目を回しそうです。


「あ、あの。おっしゃる意味が全く……。ど、どちら様でしょう……」


 私がようやく声を絞り出すと、少女はこちらを胡散くさげに見下ろす。


「ルルーシュ・ヨーエンギー?」

「はい……」

「特待生?」

「はい……」

「平民出の?」

「……そうです」

「ピンク髪の?」

「……そうですね」


 少女は私を思いっきり睨みつけると、声を大きくした。


「この間は、自分の義姉の婚約者に、寮まで送らせたそうじゃない!」


 え?

 ……義姉の婚約者。ブルックスリスト様のことか。確かに先日の騒動の後には、ここまで送ってきてもらった。

 私があっけに取られて黙っていると、少女はさらに続けた。


「ケンドルクロールの後継の子にも、ここまで足を運ばせてるって聞いたわ!」


 えーと、オリバーくんのことだな。私が足を運ばせたわけじゃないけど、来ていたのは事実だ。


「エルドレッド殿下の研究グループにも入り込んでるらしいじゃない!なんで!あれだけヒロインには近付くなって警告したのに!」


 第三王子殿下のことか。入り込んでるって、ヒドい言い方だな。逃げられなかったんですが。


「その上、ジョシュア様の『想い人』って、なんなのよ!厨房でクッキー作ってたらしいし!」


 よ、よく知ってるな。怖い。


「いい加減にしなさい!皆の気を引いて、何がしたいの!?」


 き、気を引く?皆の!?

 皆って、今言ってた人たちのこと!?

 気を引く、っていうからには、恋愛的な意味だよね!?

 

 この子からすると、そう見えるのか?


 ……。


 いや、そんなことなくない?私の今までの行動のどこを見たら、気を引いているように見えるっていうんだ!


「エルドレッド第三王子殿下を狙ったりしたら、破滅しかないから!姉さまにも殿下にも、小さい頃から口を酸っぱく言い聞かせてるんだからね!アンタは厄災の元だって!アンタが攻略しようとしても無駄よ、姉さまに冤罪着せてもアンタが断罪されるだけなんだから!そうしたら、殿下もアンタもざまぁ一直線よ!

 姉さまの婚約者が没落したら姉さまが悲しむし、わかっててアンタを見殺しにするのも寝覚めが悪いから、善意で言ってるんだからね!わかったら、これ以上攻略対象に粉かけるのはやめなさい!

 いい?前世では作り物の世界でも、今ではもう私たちにとって、ここは現実なんだから、物語の中のような出来事は起こらないの。わかった?忠告したからね!」



 私は何も言えず、口をあんぐりと開けたまま、食堂からのしのしと出ていく少女の背中をあっけに取られてただ眺めることしかできなかった。

 しばらくして我にかえると、私は迷わずオリバーくんに連絡した。






「ゲームの世界、ねぇ……」


 翌日の面会室でのオリバーくんは、またもや半分怒っているような、半分面白がっているような様子だった。


「ハルちゃんはそのゲーム、詳しいの?」

「いえ、主人公の女の子の名前や容姿に、私が当てはまるということくらいしか……。たしか、主人公がもう少し年齢が上で、男子生徒と恋愛するゲームだったと思います、ほとんど覚えていなくて、すみません」


 オリバーくんは頭を抱えた。


「なるほど、科学が未発達なのに住環境なんかは快適で、前世の常識にとらわれないようにしようと思っていたけど、ゲームの世界と言われれば納得できるな」

「食堂の女の子によればゲームを元にした小説の世界なのだそうですが……」


 オリバーくんは両手を挙げた。お手上げということらしい。


「その子に心当たりは?」

「初対面なのはたしかなのですが、第三王子殿下の婚約者様のバーバラ・ノーストップ様のことを『姉さま』と呼んでいらしたので、おそらくの妹のローラリー・ノーストップ様ではないかと。歳の頃も合いますし」


 オリバーくんは横目で私を見た。


「その子の言うことが本当で、物語の主人公ってことなら、ハルちゃんが次々騒動を引き起こすのもわかるな」

「騒動を引き起こすなんて、とんでもない!昨日だって、ただおとなしく食堂で食事していただけです!」

「で、厄介ごとが向こうからやってきて、結果、俺が呼び出された、と」


 私はすぐにしおれた。


「すみません……。でも、こんなこと、サトーさんにしか相談できなくて」


 オリバーくんは目を見開いて私を振り返ったが、すぐに眉間に皺を寄せるとそっぽをむいた。ごめん、巻き込んじゃって。申し訳ない。


「……やっぱり、他にもいたな、記憶を持ってる人が」


 オリバーくんは自分のアゴをつかみながらこぼした。眉間の皺が深くなる。


「で?他にはなんて言ってた?その子」


 私は思い出せる限りの会話をできるだけ正確に伝えた。オリバーくんはだんだんと呆れ顔になっていった。特に、私が次々に『攻略』していると思っているらしいとのくだりでは、本気で呆然としていた。


「へぇえー、知らなかったな、ハルちゃん。俺らを攻略してたんだ」

「……オリバー様」

「冗談のつもりだったけど、笑い話にもなんないな。

 あいにくサトーもそれほどゲームとかはしたことなかったから詳しくないけど、それっていわゆる恋愛シミュレーションゲームってやつだよね?ハルさんはそういうゲームをしてたの?」

「はあ、孫娘と一緒に……」


 私は自分の言葉に目をパチクリした。忘れがちだけど、前世は孫娘がいる婆だったっけ。


「お孫さんか……。あの時、一緒にいた?」

「いえ、あの子は孫息子のお嫁ちゃんです。ゲームをしてたのは別の、高校生の孫娘でした」


 私は「お婆ちゃん」と呼ぶ孫娘の顔を思い出した。だけど、あの子の声は思い出せないことに気付き、寂しいような懐かしいような、いつのまにか私の中で遠い昔の出来事になっている前世をしみじみと思い出し、時の流れを感じた。


「考えてみると不思議ですよね。あの頃のあの子より、今の私の方が幼いんですから。混乱します」


 私の言葉にオリバーくんは黙って立ち上がり、私のそばまでくると、頭をポンポンと撫でてくれた。


「とにかく、少し調べてみるよ。クリストファーさんに相談してみることになるけど、いい?」

「え!?」


 いくらクリストファー・ブルックスリスト様にはお義姉様の婚約者としてなにかにつけ世話を焼いてもらい、私を含め既に家族として扱ってもらってるとは思う。だからといって、いやだからこそ、前世だなんて話を信じてくれるだろうか?


「いや、前世のことは二人だけの秘密だ。誰にも言わない。ただ、よりにもよって学園の食堂で、ローレリー嬢から筋違いの忠告を受けたってことだけ。ケンドルクロールとして正式に抗議するかは、調査次第だな」


 え、抗議?


「それはちょっと。やめてほしいです」


 オリバーくんはまじまじと私を見ると深くため息をついた。


「頑固ハルさんモードなハルちゃんに言っても無駄かもしれないけど、それなら他にどうするんだよ?」

「それをご相談したいと思って来ていただきました。腹を割って話すのが一番いいように思ったんです。それでローレリー様に、婆の前世持ちなことを打ち明けてもいいかどうかを伺おうかと思いまして」

「ダメ」


 オリバーくんは即座に却下した。


「腹を割って話すのには賛成だけど、前世のことはダメだ。話を聞くにローレリー嬢は既にバーバラ嬢や第三王子殿下に前世の話をしているようだし、バラせば俺らのこともすぐに広がってしまうだろうからね。しかも第三王子殿下という中枢に近しいローレリー嬢に打ち明けるなんて、リスクが高すぎる。たとえ善意と言われても、なにを狙っているのかわからない以上、慎重に行くべきだ。打ち明けなくても率直に話せる方法を考えよう」


 オリバーくんが心配するのももっともだ。


「わかりました、では調査をお待ちすればいいですか?」

「そうだな、おとなしくしてて。部屋を出る時はできるだけ一人にならないように気をつけて」

「私はいつだって、おとなしくしてます」

「それなのにこんなにトラブル続きなんだから、ハルちゃんには厄介ごとを引きつける磁石でもついてるんじゃないか」


 私が頬をふくらませると、オリバーくんは笑ってもう一度頭をポンポンして帰って行った。



ありがとうございました。

申し訳ございませんが、前回お知らせいたしました通り、来週は夏休みをいただたいと思います。

次回は再来週の週末となります。

物語も終わりが見えてまいりました。お休みの間に妄想を補充して、最後まで頑張りたいと思います。よろしくお願いします。

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