21. ちげーよ、ばーーーか
こんばんは。今週もどうぞよろしくお願いします。
条件。
そりゃそうだよね、おかしいと思った!で、なにをさせられるんだろう?
「大したことじゃないんだけどね。先日、噴水の前で、君の絵を描かせてもらったのを覚えている?」
「あ、……はい」
私が寝コケた時の、寝顔をスケッチされてしまったあの時なら、忘れたいけど忘れられないよ!
「あの下絵を僕の師匠に見せたら、ずいぶんと褒めてもらってね。品評会に出したいと推してもらったんだ」
「でもそれじゃ……」
オリバーくんが言いかけてすぐ口を閉じた。言葉を遮られたモルズベリー様だが、オリバーくんをとがめることはなかった。オリバーくんは何を言いかけたんだろう?
「僕は、その絵を匿名で出品したい。多くの人に、僕の名前ではなくて、作品を見てもらいたいと思っているんだ。だから絵を描く許可をルルーシュ嬢に貰いたいんだ。それに、できれば、また少し画材になってもらえるといいな。まだ下絵が完成していなくてね」
……画材。絵のモデルになるってことかな?前みたいに。で、その絵を品評会に出す、と。
ん?品評会?
……品評会!?
ってことは。
私の絵を、いろんな人がいっぱい見る?
いやいやいやいや、ええぇ?
「ハル。気が進まないならお断りしても、モルズベリー様なら許容してくださると思うよ」
オリバーくんが、横目でモルズベリー様を見ながら相変わらず甘い声で笑いかけてくる。
気が進まない……、のかなあ。とっても恥ずかしいのは確かだけど。でも、断って大丈夫なんだろうか?とりあえずなんとかして、一旦持ち帰りたいところだ。
私が答を渋っていると、モルズベリー様は柔らかく笑った。
「まあ、絵の件は保留として、僕はヨーエンギー家に婚約の打診をする。君たちは辞退をする。頃合いを見て、僕は再び打診をし、君たちは辞退する。とりあえずはこれを何度か繰り返したあと、様子見をしようかな」
「俺、いやその、私が気になったのはそこなんですが、ヨーエンギーやケンドルクロールが断らなかったら、どうなさるおつもりなんです?現当主は願ってもない縁と、喜んで受け入れてしまうかもしれませんよ」
オリバーくんが鋭く尋ねると、モルズベリー様は肩をすくめた。
「それはなさそうとは思うが、あくまでもルルーシュ嬢の意思を尊重するように申し入れるつもりだよ。ルルーシュ嬢が自分の意思で受け入れてもいいと思うんだったら……」
「彼女は受け入れたりしませんよ」
「……卒業までに気持ちが変わって、受け入れてもいいと思うんだったら、僕としても悪い話ではないんでね、このまま進めさせてもらうよ。どちらにしても、全ては彼女の気持ち次第。
オリバーくん。彼女に対して、僕にも君にも時間が必要だ。それでも、強引に押し進めてもいいところを、こうして公平な機会を作っているのだから、その点は評価してもらっていいような気がするんだけどな」
「感謝申し上げればいい場面でしょうか?彼女を相手に強引にいくのは悪手であることはご存知でしょうに。私の弟を軍師になさっているのでしょう?」
モルズベリー様は笑い声をあげた。
「まあその通り。君、本当に十四歳?エルドレッド殿下と一つしか違わないとはとても思えないな。威嚇や牽制の方法はまだまだだけどね」
オリバーくんが黙り込んだ。
そうだよね、いくらこっちの子供たちが早熟と言っても、サトーさんは三十代入ってたと思うし。
でも、威嚇ってなんだろう?貴族同士のマウント取り合いってことかな?
「……あの」
それまで黙っていたサディくんが遠慮がちに口を開いた。
「よろしければ。このままお話になるのは、よくないと……」
言いながらサディくんが横目で私を見ている。え?
「どうせ問題ない気もするけどね」
オリバーくんの言葉も謎すぎる。
「そうかもしれないけど。ハル、行こう。なんか食わしてくれ、厨房を使ってもいいってさ」
サディくんが有無を言わさず私の手を引き、頭に疑問詞がぎっしり詰まった私を連れ出した。
「意味がわからない。私の話をしてたんだよね?」
廊下を歩きながら、私はサディくんに聞いてみた。するとサディくんは立ち止まり、呆れたようにまじまじと私を上から下まで見た。え?なに!?
「ハル。お前、馬鹿だな」
「はあ!?」
「ちょっと察しが悪すぎる。だからこそ、兄さんたちもハルの前で堂々と話していたんだろうけどな」
私は完全に混乱した。
「ど、どういうこと!?なんか貴族ならではの言い回しとか暗号とか、そういうこと!?」
「ちげーよ、ばーーーか」
私は途方にくれた。淑女教育、全然足りていなかったんだな。及第点を貰ってたからって、油断してたんだ。あの二人の意味深なやりとりも理解できなかったし、学園に入った途端、こんなに訳わからないことが立て続けに起こるなんて。
私がしおれていると、サディくんは片頬を上げて苦笑した。
「ハルはもう、それでいいから、とにかくなんか食わせろよ、『体の弱い小さい義弟』が、腹減らしてんだからさ」
「え?」
「オレのこと、そう言ったんだろ、学園の校長に。幼子扱いされてるねって言われたぞ。いいから、腹減った。早く」
「え、あ、う、うん……」
目つきの鋭い従者さんが私たちを案内してたんだけど、ふと振り返ると鋭い目元をわずかにほころばせたのが印象的だった。
オリバーくんとモルズベリー様の間でどのような取り決めがあったのかは教えてもらえなかったけど、結局私は、モルズベリー様の「想い人・兼、絵のモデル」を引き受けることになった。それは、品評会で晒し者?になり、かつエルドレット第三王子殿下のご学友にもなるということだ。私に拒否権はなかった。オリバーくんがそのほうがいいというなら、仕方ないんだろうけど。
目立たず静かにひっそりと過ごすはずの、私の学園生活はどこへ行った!?
婚約に関しては私の気持ち次第と言われたので、「丁重にお断りする」一択だ。けど、あっという間に噂は広がっているらしい。なぜか私は「時の人」だ。
こうならないように私なりに頑張ってみた。だから結局こうなって、悔しい気持ちはある。でも、なってしまったからには腹をくくるしかない。
頑張ればなんでも上手く行く、わけではない。そりゃそうだわな。
だから、ま、何も頑張らなかった場合よりは、今の方がまだマシな状況なんだと、信じよう。
さて、第三王子殿下の「ご学友」といっても、スタッフルームがある学園の棟に研究のための私専用の資料室が与えられ、さらに週に一度、教師を含む研究チームで研究会をするだけらしい。基本、殿下たちと顔を合わせるのはこの時だけになるだろう。そう願いたい。そうなはずだ!
ああ、気が重い。サディくんにも「ばーか」って言われちゃったし。
こういう時は、料理だ。なにか甘いものとかおいしいものを食べるに限る。寮の厨房でクッキーでも作ろう。それで、お義姉様とかマリさんとかに、食べてもらおう。それでやけ食いだ。いいね!そうと決まれば、行動開始!
ありがとうございました!
世間は夏休みですね。
少し先になりますが、お盆の週はおやすみをいただこうかと思っています。
次回は来週です。よろしくお付き合いくださいますようお願いいたします!




