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つまりそれは溺愛希望ってことで合ってる?  作者: 佐伯帆由


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16. ピンク髪の特待生

こんばんは、後半が始まってしまいました。どきどき。

どうぞよろしくお願いします!


 サディくんの処遇は、すぐには決まらなかった。さすがに二人も本家に養子に出せば、「痛い」腹を探られることになる(実際ギルティなのだから、お義父様と本家のご当主様の腹は十分傷んでいる)。ことに、ヨーエンギーには私ことルルーシュと、小さな弟ルーカスくんという、後妻(母さんだ)との間の子もいるのだ。さてはやっぱり前妻の子供達、サラお義姉様、オリバーくん、サディくんの三人の父親は、お義父様ではなくてその兄の本家の当主に違いない、と憶測が飛び交うだろう。スキャンダルとしては美味しいことこの上ない。それじゃなくてもウチでは、後妻(母さんだ)が定期的にやらかして、醜聞を提供しているのだ。

 とりあえずサディくんが医師の元にいる間に、もう一度話し合うと決まっただけだった。もどかしい。


 それにしてもオリバーくんは、いつから前世の記憶があったんだろう。産まれた直後に本家に引き取られて、貴族の後継として育てられた彼。きっと誰にもいえない苦労がいっぱいあったんだろうな。

 彼には深く同情する。前世の記憶なんていうとんでもないものを抱えていると、分かち合えない孤独がどうしてもある。彼がちょっぴり世の中を斜めに見ているのも頷ける。

 私としては、償いをしてほしいわけではないが、彼が気が楽になるのなら、そのうちなにかをお願いしようかな。私も刃物がトラウマになるくらいの思いはしたわけだし、サトーさんの悔しくて痛くて怖い気持ちは推察する。

 こういうことは、頑張ったらどうにかなることじゃないんだよね。自分でも自分をそっとしておいて、気持ちが納得できるようにするしかないって私は思ってる。

 できることをしよう。がんばるぞ、おー!




 オリバーくんは、サディくんのために犠牲になるなと何度も言っていた。確かに婆が前世でしたことを考えると、心配になるのはわかるし大変ありがたい。けど、ホント大したことはしてない。ブルックスリスト様に散々恩を着せてからフェルワース様にお会いして言ったのだ。


「中途入学し入寮するように、とのことですが、そうなると騎士団から戻されそうな体の弱い義弟を家に残すことになり心配なんです。義弟の問題が解決するまでは入学できません」


 フェルワース様は立派なお髭を揺らして笑うと、あっという間にサディくんが騎士団を退団した後に本家であるケンドルクロール家に養子になるよう手筈を整えてくれた。そして、自身がじつは王宮の文官であり学園の校長でもあることを明かしてくれた。私が思うに、それだけのわけはない。サディくんの件といい、私を強引に入学させたことといい、一体この方がどんな権力を持っているかは考えないようにした。


「フェルワース校長先生。入学前にひとつだけ教えていただきたいことがあります。私の入学の意図は?単に語学習得させるわけではなさそうなのが怖いのです」


 学園には特に固有の名前はなく、「女子学園」「男子学園」と呼ばれているらしい。そしてフェルワース校長先生は女子学園、男子学園両方の長を勤めているのだそう。学園なんだから校長先生じゃなくて学園長先生か。学園長先生……。ダメだ、却下。某タマゴたちの長寿アニメ番組のイメージが強すぎて、呼びかける度に周りに忍者犬を探しそうだ。


「それはルルーシュ嬢が入学した後で答えよう。だが、気にせず学園生活を楽しんでくれればいい。ずいぶんと遅れての入学な上、特待生としての待遇になるので、大変だろうが同学年になる生徒たちと上手くやってもらいたい」


 そうだった。私はお義姉様と同じ学年に編入される。もうとっくに学園内のグループなんか固まりきってコチコチだろう。いっ、いいもん、お義姉様がいるもんねッ!


「入学前に教えていただくことはできないのですか?」

「全く君は、自分の入学という手札一枚でどれだけを引き出すつもりなんだか。あまり欲を出すとロクなことにならないよ」

「……欲ですか?」

「そうさ、まあ、ゆっくりいきなさい、入学後の楽しみに取っておくんだな」


 さすがフェルワース先生は、お義父様やブルックスリスト様のようにはいかないな(二人がチョロいと言ってるわけではない、念の為)。

 やれやれ仕方ない、危なさそうな橋でも渡るしかなさそうだ。婆のスタイルじゃないんだけどなー。




「ねーぇ?母さん」

() () () !」

「お母様。私ね、学校の寮に入ることになりそう」

「りょう……?」

「学校の中に大きな家があって、勉強する子どもたちが部屋をもらってそこに住むの」

「……住む!?」


 母さんの声が途端に大きくなった。


「うん、そこに住めば特待生っていってタダで学校に行けるけど、家から通うとお金がいるんだ。どうせ貴族は全員、学校に行かなきゃなんないし、それならタダがいいでしょ?急に決まったの」

「……そう」

「でも、ちょくちょく帰ってくるし、長い休みにはこっちに戻るから」

「……旦那様はなんて言っているの?」

「これはお義父様が決めたことなんだ。十日後にはいかないといけないの」


 母さんは黙り込んだ。下を向いてなにかを考え込んでいる。


「……わかった。でもあんた、行く前に()()()に髪をさせなさいよ」


 え?髪?


 母さんはちょっとそっぽを向いたままだ。正直何年も髪結をしてない母さんに任せるのは心配だけど、気が済むなら整えてもらおうかな。


「えー?母さんが?大丈夫なの?」

「失礼な子ね、母さんの髪結は大人気だったんだよ」

「仕方ないなあ、可愛いくしてよ!」

「当たり前じゃない」


 久しぶりに「母さん」と話した気がした。これからはこんな話もできなくなるんだろう。子供が離れていく寂しさは婆にもわかる。子供も孫も、みんな離れていったな。戻ってきた子もいたし、もう戻らない子もいた。

 私も家を離れるけど、時々戻るつもりだ。このくらいの距離感が、私たち親子には丁度いい気がした。



 さて、不本意ながら、晴れて(?)ピンク髪の特待生となってしまったわけだが、学園に通うなら肝に銘じておかないといけないことがある。この先、婆が心穏やかに暮らしていくためだ。


 ひとつ。顔とか家柄とかガタイとか頭とかがいい人には関わらない。

 ふたつ。イジメられても男子生徒には助けを求めない。そもそも男子生徒に近付かない。学校でも、町でも。

 みっつ。友人知人を増やして、おとなしい無害な婆であることを知ってもらう。

 そうして、目立たず静かに過ごしつつ、自活の道を探る。


 できるかな……。

 オリバーくんも全く成功していないと言ってたしな……。

 いや、やらねばならぬッ!

 心折れてる場合じゃないっ!


 がんばるぞぉっ!!




 寮にはお義姉様の侍女のマリさんがついてきてくれることになった。


「お義姉様、よろしいのですか?」


 お義姉様の侍女さんを連れて行っちゃったら、お義姉様が困らないだろうか。だがお義姉様は私の疑問に真剣な顔で答えた。


「逆よ。ハルのことを見張る人がいないと、もう心配で心配で。お願いだからマリを連れて行ってちょうだい」


 がーん。マリさんは私の見張りでしたか。そんなにやらかすと思われてるのか。心外にも程がある。


「マリ。大変な仕事だけど、ハルのことお願いね。あなただけが頼りよ」


 がーん。私を見張るのは、そんなに大変な仕事なのか。こんなにおとなしくて地味な婆なのに。


「はい、サラお嬢様。誠心誠意お仕えいたしますが、力不足は自覚しております。皆様にお力添えをいただがなければなりません」


 がーん。マリさん一人でも私を見張りきれないってか?がっくし。


 そんな非喜劇?を味わう暇もなく、私は慌ただしく学校の寮へと引っ越した。バタバタと忙しく、結局サディくんには会わずじまいだった。





「皆様はじめまして、ヨーエンギー家が次女、ルルーシュでございます、どうぞ仲良くしてやってくださいませ」


 ついにやってきた。忘れちゃならない、ここはゲームの舞台で、私は主人公と同じ立場と名前を持つピンク髪の特待生。用心に用心を重ねて過ごさねば。私は急いで用意したちょっとサイズの大きな制服を着て、精一杯の淑女の礼をした。まさか本当にこのセリフを使う日が来るとは思わなかったよ。


 ゲームの主人公の役?興味ありません。恋愛?なんでこの状況でそんなアブナイこと。自活できるようになってから考えるよ。

 とにかく今は、平穏無事!無病息災!家内安全!!毎日、平和に心安らかに、つつがなく過ごしたいんだ。




 学園の教室は婆がイメージする「教室」と全然違った。円形の階段状で、さほど大きくはない。婆が前世で下の息子の大学に見学に行った時に見た教室みたいだ。しかもここに集まっている五十人ほどが一学年の全員で、毎朝この講堂に集まったあとは、せいぜい十人ほどの会議室みたい小部屋に分かれて勉強するんだってさ。

 しかも、授業はお昼までだって。残りの時間は「交流したりして過ごす」。きっつ。婆にですらコレはキツいと感じる。この学園の目的が、学習というより人脈作りにあるとしてもさぁ。


 いやがんばる。アンタにゃできる!人生経験もある、お義姉様もいる、妖精おばさまたちをもオトした(?)主人公予備軍パワーも多分ある!だろう!あると信じるんだ!いけいけハル婆!


 がんばるぞー!


 私語をする者はさすがにいないけど、好奇の目、観察する目がこちらを見おろしている。あー、視線が突き刺さる。

 すると、先日画家のモルズベリー様と交わした会話を思い出した。私が視線が突き刺さると言ったら、なにか刺さったのかと聞いてきたっけ。なんだかおかしくなってしまって、私は皆を見返しながら笑ってしまった。


 お義姉様が中段くらいの席から微笑みかけてくれた。ブンブン手を振りたいところだけど、そっと微笑みを返すにとどまる。先生に指し示された席に座った。


 先生の話を聞きながら、窓の外をそっと見た。女子学園は、なんと男子学園の隣にあるのだ。それを知った時は頭の中に警戒音がビービー鳴った。どうやら敷地は完全に別なんだけど、大きな講堂や図書館なんかの施設の一部は共有となっている。だから男子生徒と全く会わないわけではないと判明した。ヤバい。これはヤバい。

 これはこれで人生ハードモードだ。ハードじゃない人生なんてないんだろうけど。ゲームの攻略対象とかはもう、顔も名前も忘れてしまったけど、改めてハンサムだったり偉かったりするヤバそうな人には、絶対に近付かないと心に誓った。


ーーーーーーー



お読みいただき、ありがとうございました!

後半も、ハル婆と一緒に頑張りたいと思います、どうぞよろしくお願いします。

次回は来週末を予定しています。

応援いただけると嬉しいです。

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