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ねこのうんち

作者: 乃亜 佑恭

ただそこにいるだけで苦しかった。

誰も話しかけてくれないし、目を合わせてもくれない。

私は自分の席に座り、ただ下を向いているだけだった。

授業の内容なんてもちろん全く頭に入らない。

一時間目が終わり休み時間になって、小学生の頃に一番仲の良かった友達の方を見たけど、こっちを見てはくれない。

まるで私なんて存在していないみたいに、みんなの時間だけが動いていて私は取り残されていく。

耐えきれなくなって、私は二時間目が終わると黙って教室から逃げ出した。

『あの高さならきっと… 』

学校からの帰り道、最近の私は通り沿いにあるビルやマンションを見上げてはそんな事ばかり考えていた。

駅に着くと、人身事故による電車遅延の張り紙が改札口の横に貼り出されていた。

しかも私の最寄り駅での事故だったらしい。

あまり早く家に着くのも嫌だからちょうど良かったと思ったけど、事故があったのは早い時間だったらしく、遅延はほぼ解消されていて車内もガラガラだった。

この静かな電車に揺られたまま、どこか遠くに行けたらいいのになぁと思った。

最寄り駅に着いて踏み切りを待っていると、遮断器の囲いの中にキーホルダーが落ちているのを見つけた。

『あっ!私のと同じだ!』

ステンレス製でねこの形をしていて、家族旅行で海に行った時に買ってもらったお気に入り。

その時、キーホルダーのすぐ横にハエがたくさん飛んでいるのが気になって、ちょっと低くなった段差の所を見てみると、黒っぽい棒のような物が落ちていた。

『なんだ、ねこのうんちか…』と思ったけど、よく見ると爪がついている。

『うんちじゃない!人間の指だ!きっと、人身事故で死んじゃった人の指だ!』そう思って誰かに知らせようと周りを見渡したけど、近くには誰もいなかった。

駅まで戻って知らせた方がいいかもしれないと思ったけど、ちょうど踏み切りが開いたのと、きっと他の誰かが見つけてくれるだろうという人任せな考えと、そもそも今は誰とも話したくないという気持ちが強くて、結局そのまま見て見ぬふりをしてしまった。

家に着いて玄関を開けると、見たことのない男性用の革靴とパンプスがあった。

そしてリビングからはお母さんの嗚咽が聞こえていた。

そう、私の両親はいつも喧嘩をしていて、私はいつも放ったらかしだった。

離婚の話しが出ているから、その相談か何かなんだろう。

誰とも顔を合わせたくなかったので、私は手も洗わずにそのまま二階の自分の部屋に行きベッドに寝っ転がった。

何もかもが悲しくて、涙が頬を伝って流れ続けた。

しばらくすると誰かが二階に上がってくる音が聞こえたので、私はベッドの上に起き上がった。

するとノックもせずに部屋に両親と知らない男女が入ってきて、お母さんが泣きながら私の机の引き出しを開け始めた。

私は呆気に取られて、ただぼんやりとそれを眺めていた。

「あった… これです。 あの子が一番気に入っていた写真… この写真でお願いします… 」

「かしこまりました、お預かりいたします。それではお花の通り道などもございますから、あとは玄関から先程の部屋までの通路の寸法などを測らせていただいて…  」話しながら四人は出ていってしまった。


大嫌いなはずのお母さんの涙はとても綺麗だった

涙を堪えるくしゃくしゃな顔のお父さんはカッコよかった

私はいま初めてその事に気がついた

その嬉しさで溢れ出した涙を追って視線を落とすと


私の右手には人差し指がなかった

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったし、文書書くの上手ですね! たぶんネタバレ的な事書いちゃいけないだろうから 自分自身が1番死を実感できないでいる場合多いのかもって 感じました 死って本人より周りの方が辛いもんです…
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