VS 黙示録5
「──キメラ!! 暫くの間、黙示録の相手を頼む!」
そうキメラに指示をすると、
『了解しました! 主!!』
……と、嬉しそうに快諾してくれる。
つい先程まで構ってすらやれなかったのに……健気な子やでホンマ。
──まぁでも、お前がどんなに健気でもオレのモンスターを『捕食』したって事実は消えないからな? ひと段落したらゆっっっくりお話しをしようか(ニッコリ)。
◆◆◆〜課金の暴力〜◆◆◆
「──さて、それでは愉しい愉しい強化のお時間がやって参りました!」
「なんで番組風なのよ?」
「──今回使用するアイテムはコチラ!
……蘇生薬 1個
回復薬(フル) 1個
レベル一括薬 1個
──お好みで、
……攻撃強化薬 99個
防御強化薬 99個
魔法強化薬 99個
魔法防御強化薬 99個
貫通付与薬 1個
──なんとコチラ、合計金額……523600円!!
たったの……523600円です!! いやぁ、安くてお買い得ですねぇ!!」
「──無視なのね……って高ッッッ!?」
千尋さんのナイスなノリツッコミが炸裂する!
「アンタこれ! 何が『たったの』なのよ!? これ安いとか言う奴が居たら、そいつのドタマかち割りに行くわよ私!!?」
──うわぁお、なんか物騒なこと言ってらぁ。でも、その考えでいくと……。
「え? じゃあ久保(バイト仲間/厨二病)のドタマかち割りに行くんですか千尋さん?」
「……は? それどういう──まさか……ッ!?」
ふッ、そのまさかだよ。
「久保の奴、良い買い物したって喜んでましたよ。オレは懐が潤い、久保は戦力が潤う……これぞ正にwinwinの関係!!」
「──き、如月ぃいいいいいいいぃぃぃッッ!!」
ぬッ……なしてガチギレ? そんで何でオレ怒鳴られてんの??
「なんで売ったぁ!? テメェは私んトコの陣営だろうがよぉ!!?」
今はね? 今はそうだよ?? でも……。
「いえ、当時のオレは自由だったので。それに『売ってほしい』って言われt──」
「──ッ、もういい!! 買う!」
なんか諦めたみたいな言い方だけど……オレ、事実なんにも悪く無いからね?
まぁいいけど──それは兎も角、お買い上げありがとうございま〜す!!
◆◆◆
オレは早速、千尋さんお買い上げのアイテム一式を取り出し……ピクリとも動かないティアマトちゃんへと使用していく。
「ねぇ、その薬どうなってんの? ちゃんと効いてるのそんなやり方で?」
種類によって色分けされた薬の小瓶を一つ手に取り、千尋さんは訝しむように訊いてくる。
「効いてますよ。ちなみにコレ、飲んでも掛けても効果有りの逸品ですので……千尋さんもどうっスか?」
人体への効果の有無は不明だけどね☆
「──遠慮するわ……というか、その薬を全部一気に使うの??」
「そうですけど?」
当然じゃないか! いくらオレでも必要の無いアイテムを売りつけたりはしまへんがな!
「それと使用したアイテムは勝手に消滅するのでゴミの心配もありませんよ。良かったですね千尋さん!」
この量の空き瓶の処分とか……うぅッ、想像したら寒気がするわ。
「──というか、千尋さんも手伝って下さいよ! この量を一人で使うの結構大変なんですから!」
……まぁ、一番大変なのはモンスターだと思うけどな!
◆◆◆〜〜〜そして〜〜〜◆◆◆
「「「──終わったぁあああああああああああああああああああああぁぁぁッッ!!!」」」
ふぅ!!!!! 漸くドーピングが終わったわ!!!
オレと千尋さんは苦行から解放され、一息つく。
『それはそれは! おめでとうございます主!!』
キメラも笑顔でオレを労って──へ?
──ちょい待ち……なんでコイツ……黙示録の相手は??
オレは油の刺さっていない機械のような動きで、黙示録の方へと顔を向ける。
「「「…………………………(チーン)」」」
──あッ………………。
◆◆◆m(_ _)m◆◆◆
「──ねぇ如月ぃ、私の出番は?」
千尋さんは爽やかな笑顔で問うてくる。
「…………いや、えっと……ま、まだ帝王が居ますから! というか、リーダー同士のタイマンって胸熱展開じゃないっスか!?」
「──それが時世の句でいいのね? よし、ティアマトちゃん殺っちゃって!!」
「タンマタンマタンマッッッ!!! ティアマトちゃん待って! 触手ッ!? 触手はやめて!!」
ティアマトの白銀の触手でモニョモニョされながら、オレは必死に許しを請う!
「だって仕様が無いじゃないですか!!? 確かに『相手を頼む』とは言いましたけど……! 張り切って本気で相手をするだなんて普通思いませんよ!? つまり! オレは悪くありません!!」
そう言ってはみるが、触手は力強くオレの身体を締め上げる!
「──いだたたたたたッッッ!! ちょ、キメラ! お前も何か言え! そもそもお前の所為だろコレ!?」
と、当の本人に話しを振ってはみるが……、
『はい……全ては私の所為です。私は所詮ただの虫。私のような害虫が主のお役に立とうなどと──何と愚かで儚い夢だったのでしょう……どうせ私なんて──』
………………しまった! コイツには意思疎通のスキルがあったんだった!!
オレの(心の中)の罵詈雑言を受け、キメラくん……戦闘不能である! しかもなんかブツブツ言ってて怖い!!
「──アンタねぇ、よく『自分は悪くない』だなんて言えるわね!? あの子……綾ちゃんだっけ? を見なさい!」
千尋さんがそう言うや否や、ティアマトによってほぼ強制的に黙示録の方々へと顔を向ける。
……其処には……真っ白に燃え尽き、死んだ魚の目で虚空を見上げ、何やらブツブツと独り言を言っている方が──。
「──ふふッ、初恋の人には財布扱いされ……その人の目を覚まそうと覚悟を決めたのに、その人のモンスターにまさかのワンパンで沈められて──私の覚悟って何なんですかね? 今日って厄日なんですか?? 私、そんだけ悪い事しました? しかも父は厨二病で……何ですか騎士って?? 何でドイツ語なんですか???」
………………oh……あ、綾ちゃん??
「えっと、綾ちゃん……?」
光を失った瞳をオレに向け、綾ちゃんは力無く言葉を紡ぐ。
「あ、如月さん……厨二病な父の使いっ走りである私に何か御用ですか?」
──と。
…………………………ち、千尋さん……? そう、千尋さんへと顔を向けるが、
「自業自得ね。自分を信頼している相手を裏切り、貶め、財布にした挙句、その子の覚悟すら平気で潰したのよ? この女の敵め!」
千尋さんは吐き捨てるように言ってくる!
──いやいやいやいや!?!!? それは言い過ぎなのでは!? だいたいアンタだってほぼ同罪でしょうが!??
「はぁ!? 確かにオレは内心、社長を含めプレイヤー全員を財布だとは思っています!!」
「ほぉ……私を含めて──ねぇ?」
だって本当の事だもん!! 社長含めプレイヤーは皆等しく、オレの大切な財布だぁ!!
「それに覚悟って言ってますけど、寧ろその程度で潰れるほど脆いモノなんて無いのと同じです! オレのこの腐りきった性根をナメないで頂きたい!!」
「それを自分で言うかぁ〜!!」
叩けば壊れるような薄っぺらな覚悟で、このオレの性根をどうこう出来ると思う方が間違いなのだ!! オレを改心させたいなら、それ相応の覚悟を見せてみろ!!
オレは一つ息を吐くと………………再び、綾ちゃんの方へと顔を向ける。
「──仕事とプライベートは別なんです。だからこそ、オレの仕事を邪魔するのなら相手が誰であろうと容赦はしませんし、平気で相手を裏切ったり利用だって喜んでします!」
「アンタは社長にも容赦無いけどね?」
…………そりゃあ、社長が仕事を邪魔してくるからね。あと、このバイトとオレの『商売』は別モノだから。併用出来るからしているだけ。
「──今はまだ、仕事の時間なので敵対者である貴女に此れ以上言葉を掛けるつもりはありませんが……」
うっわぁ──これ結構緊張するわぁ!! 無茶苦茶恥ずかしい!
「……この仕事が終わったら、その──少しプライベートの方で話しがあるので、付き合っていただけると幸いです」
「──ぬ!? 愛の波動を感じる!!」
……ッ、ホントに五月蝿いわこのクソ社長が!! あと、そんなんじゃないから!!! 黙示録の面々も変な顔を向けてくんな!!
色々と嘘をついたのは事実だし……敵とはいえ、相手はまだ中学生だしな……アフターケアぐらいはするべきだろう。
「…………それって……ッ? あ、ぅ──ッッッ!!!」
お〜い、綾ちゃ〜ん?? どうしてソコで顔を真っ赤にするかなぁ? クソ社長がニヤニヤしながらコッチを見てくるんだけど??
◆◆◆ニヤニヤ(*´∀`*)ニヤニヤ◆◆◆
「──なら、黙示録の残存戦力は……佐藤さん──あ、ごめん。『帝王』佐藤と、その取り巻きが数人ってとこかな?」
と、オレは綾ちゃんに問う。
「……はい。ただ、戦力面で言わせてもらえば、父が主戦力であって残りの方達はあくまで父のサポートです」
綾ちゃんはそう答えてくれるが、何故協力してくれているのかが全く分からない!
──実はお父さんの事が嫌いだったとか? まぁ、あんなアダ名を付けられたらなぁ……綾ちゃんじゃなくても怒って当然だわ。
それにしても……、
「いやぁ、春が青いわねぇ〜!」
「全くっスね! リア充滅べ!」
………………コイツらぁ……さっきからコッチ見てニヤニヤしやがって!!
オレは千尋さんに笑顔を向けると、
「──良かったじゃないですか千尋さん……カイザーとその取り巻き数人、纏めて相手が出来ますよ?」
そう、腹いせがてら告げてやる。
──漸くの見せ場だ、さぞ喜んでくれる事だろう!
「……ふぁ!? ソレ、私一人で相手すんの?」
「そりゃ勿論、オレは一切手を出しませんので──存分に楽しんでください☆」
そのオレの言葉に、千尋さんは固まりつつ必死で食い付いてくる。
「いや、でも……そうよ! 仕事! アンタはまだ仕事中でしょ?! いやぁ、ホントに残念だけど……仕事中なら仕方が無いわ! 私に協力させてあげるわよ!!」
──ふッ、甘いわ!!
「え? オレのシフト、あと十分で終わりっスよ??」
「…………………………HA??」
おや、どうやら聴こえなかったようだ。仕方が無い、もう一度言おうか……。
「オレの仕事、あと十分で終わり──OK?」
「…………マジで?」
「マジっす」
──ハッハッハッ、残念だったなぁ千尋さん!!
「……残業しない?」
「しません。というか、この会社は残業禁止でしょ? 社長さん」
残業禁止&週休二日なホワイト企業です! って、自分で言ってたじゃん!!
……まぁ、オレは高校生なんで土、日、祝日八時間の学生用シフトだけどね☆
「──というワケで、後はお一人で頑張って下さいね。社長さん♡」
オレは今から、綾ちゃんに『煽ってごめんなさい』&『そのお詫び』として綾ちゃんオススメの喫茶店でお高いパフェでも奢って来ますので……!! オタッシャで〜!!
……だって社長、出番欲しがってたしね! 若いモンは此処いらで退散するとしましょう!
そう気を利かせたのに、
「──クッ! まだよ、まだ終わらないわッッッ!!」
何やら、社長が悪あがきし始めた。
社長は高速でスマホを操作し……ん? なんだ?? 何やら悪寒がする。
「──ゃ──ッッッ!!!」
…………………………んん!? 今、何か声が聴こえて……はぁッッッ!?!!?
「「「──綾ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!」」」
『──ッ!? 主あぶない!!』
瞬間!!
……まるでガラスが砕けるような破砕音と爆音──それとほぼ同時に、オレの視界が一気に暗転する!!
『主! お怪我はございませんか!?』
慌てた声でキメラは問うてくるが……いったい何があったんだ!?
というか──何かが、オレの身体をウゾウゾと這い回っているのだが? これなに??
「……キメラ、何があった?」
とりま、先ずは情報収集からだ。
『敵襲です! 社長室の大窓を突き破り、モンスターに乗った男が一人──攻めて来ました!!』
「──は?」
……え? このタイミングで??
『はい! このタイミングで、です!』
カイザーか? いやでも……一人で?? つーか何で窓から?? 奇襲のつもりか?
そんな考えが頭の中を駆け巡るが、今はそんな事よりも……、
「……キメラ、他の奴らは無事か? お前も怪我とかしてない?」
とりあえず、怪我人が居ないか確認しておかないと……。
『〜〜〜ッッ、はい!! 私も、その他の皆様も問題ありません!』
何故かキメラは嬉しそうに答えるが──まぁ、全員無事なら良かったよ。
「……そうか。それはそうと……オレ、さっきから全く周囲が見えないんだけど? お前、何かした??」
嫌ぁな予感を感じながら、オレはキメラに問う。
すると──、
『──はい! 僭越ながら、主のお身体に私の分体を纏わせております!!』
と……キメラ君は元気良く、答えてくれた……。
……纏わせている、という事は──つまり、今、オレの身体は……キメラの分体まみれだという事だ。
つまり──キメラ(虫)の分体……まみれ、と。
『はい! それはもう隙間無く、私まみれです!』
………………そっかぁ。いや、うん。あ、ありがとうね〜。
『いえ! 主をお護りするのは当然の事ですので!! ナデナデなど要求しません!!』
要求してんだよなその言い方だと。まぁ、別に良いけど。
『ッ!? マジですか!!? ナデナデからのヨシヨシとかもアリなんですか!?!?』
……要求増えてるな〜? 何なら、晩飯に高級ハチミツでも用意してやるから、とりあえず──一旦、オレから離れようか。な??
是非ともブクマなどをお願いします!!!