………………さ、さよか。
「このタイプは色彩が綺麗に映りやすくて──」
「ほぅほぅ……なるほど!」
「コッチのは値段は少し高くなっちゃうけど──」
「ふむふむ……!」
「んで最後にオススメするこのタイプは──」
「なるほど、なるほど……!」
・
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・
「──以上かな! もし迷うのならいっその事、好きなデザインや値段で決めちゃっても良いと思うよ」
と、先輩は笑顔でセールストークを締めくくる。
「──ねぇ、久保……如月、将来マジで何になりたいのかしらね???」
「さぁ? 幸せなお婿さんとかじゃない???」
いつの間にか集まっていた客や店員達の熱烈なアンコールに、漸く気付いたらしい先輩が驚いたような困ったような顔をコッチに向けて来るけど……、
「──ゴメン先輩。彼処に突っ込む勇気は無いや」
「身から出た錆よ。店員達までペンとメモ帳握りしめて聴き入るような商品案内を披露したアイツが悪い」
いっそ、ウチのゲームの宣伝でもしなさいよ。
と、鬼婆は一人言るけど……それとコレとは話が別じゃない?
って、あーぁ。遂に店長さんまで出て来た。
「──ふぅ……巻き込まれたら面倒だし、僕は暫く別の売り場を見て来るね」
悪いね、先輩。
また十数分後に……ね!
「──あ! 待ちなさいよ、アンタだけなに平然と逃げようとしてんのよ!!!」
◆◆◆〜〜〜十数分後〜〜〜◆◆◆
「──どぉして助けてくれなかったんだッ!!!」
「え〜〜〜? だって先輩、楽しそうだったし??」
案の定、やつれて帰って来た先輩が恨みがましそうに詰め寄って来るけど、僕は悪くないよ。
それに──。
「──それに良い宣伝の練習にもなったんじゃない? またアプリを売b──もごッ!??」
「おっと! なぁにを言っているのかな久保クンや」
あぁ、そう言えばまだ秘密だったっけ? ずっと病室で作業片手にコソコソしてたもんね???
「──? ねぇ、綾ちゃんはどうしたのよ?? 一緒じゃないの???」
「途中で帝王が現れて連れて行きました」
帝王……? あー、佐藤(父)のことか──あの娘も大変だね、あんな父親を持つと。
「ぷは! それで、先輩は欲しいモノ買えたの?」
「うん? あー……カメラは買えた。でも、はぁぁ」
──と、何やら盛大に溜息を吐く先輩。
「どうしたのよ、如月?」
「はぁ──欲しかったPCが売り切れてたんですよ。結構人気のヤツだったんで、次いつ入荷るのかも分からないって……はぁぅぅうううッッッ!!!!!」
余程悔しいのか、先輩は俯き溜息をこぼす。
あー、そのチラシの……確かに人気の商品だね。
「へぇ〜。そのPC………………あ"ッ!!?」
──?
「どうしたんです社長? 変な鳴き声あげて、お腹でも空いたんですか???」
「ッ変な鳴き声って──あ、いえ……そうね。お腹も空いて来たし、コレ以上、運転手さんを待たせるのも悪いし…………欲しいモノが買えたのなら、もう行く?」
・・・・・・・・・・・・社長???
なんだ?
いつもの社長なら、間違いなくキレるのに……この不自然な笑顔はいったい??
あと、さっきの奇声も。
「? どうしたんです、社長???」
「なにがッ!?? ほ、ほらアンタ達も疲れてるだろうし明日はパーティーだから早く帰って休みたいだろうなぁって思っただけよ!?」
目をかっ開き、早口で捲し立てる社長……。
「社長、何しでかしたんですか?」
「正直に吐きなよ?」
「ッッッ!? な、しょ、正直に吐きなよってなに! 私いままで嘘をついたコトなんて無いわよ!??」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「「──社長??????」」
「ッ、っう〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」
正直に言ったほうが、楽になれるよ?
もはや、逃げ場は無い! と、悟ったのか……社長は小さな声で──
「が────して、のよ!」
「「──は??????」」
「だから──! 我慢してるのよ!!!」
「なにを?」
──なにを??
「ッ〜〜〜!!!!! トイレを! ごめんなさいね私自分のテリトリーじゃないと安心して大きい方が出来ないのよ、だから早く帰るわよいいわ"ね"!??」
「「………………………………」」
と、半ば無理矢理タクシーに詰め込まれる僕達。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!!!」
タクシーが出発してから、社長はずっと真っ赤な顔でプルプルと震えていた。
「(恥ずかしいのなら、どうしてあんな嘘なんてついたんだろう? 理由は──?)」
■■■──如月宅前──■■■
「──はい到着! サッサと降りなさい如月、お大事にねまた明日ッッッ!!!!!」
「え、ちょっ!? まだ支払ッ──!!?」
半ば、蹴り出すように先輩を外に叩き出すと──そのままドアを閉め、タクシーを発進させてしまう。
「……えっと、社長???」
「────ま、しょう…………」
へ???
「どうしましょう!?? いや、どうすればいい!? 教えて、アンタ如月の後輩でしょ!!??!」
「ちょッ!? 急になに!!?」
てか肩が痛いッ! そんな爪立てて鷲掴まなくても逃げないよ!?
「──完全に忘れてたわ!!! どうしよ、そんな人気のあるヤツだなんて知らなかったのよ!? ただの貢ぎ物として用意しただけだったの、そんなに欲しがってたとかホントに誓って知らなくてッこ、コレはいったいどうやって渡せばいいの!?? 普通、普通に渡せばいいのかしらでもアイツ変にプライド高いから自分が買えなかったモノを私がすんなり渡したりなんかしちゃったら喧嘩売ってんのかって思われたりなんかしたらどうしよう!?!!? どうしましょう意識したら意識したで緊張しててててててててて──ッッッ!!!!!」
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