もういっ……ぇ、ちょっと待って!?
■■■──如月宅/跡地──■■■
(早朝)
「うっわ……ポッカリとキー様の家が消えてるね」
『消えてるね、では無い! 元はと言えば、貴様があの傍迷惑な変態を召喚して主に押し付けたからこうなったのだ!!! サッサと主を返せ!』
ヒナちゃん先輩の肩を強く掴み、虫くんは怒鳴る。まぁ、気持ちは理解るよ。
「──そうよ! 一秒でも早くウチの会社の如月を返して頂戴!!! 〆切さえ間に合えば後はどうとでもしてくれて構わないから、今だけはお願い! 私達にはアイツが必要なのよぉッ!!!」
「社長……なんて力強い言葉なんスか」
「お姉様、そこまで如月のコトを考えて──!」
ごめん。控えめに言ってカスかな?
でも、ある意味いつも通り過ぎてちょっと安心しちゃったよ僕。
………………………………うん。
黙ってようとは思ったんだけど、無理そうだから言わせてもらうね?
「社長達さ、そのバカデカい虫網……なに?」
その、まさかそれで先輩を捕まえるつもり???
「ふふ──昨日、仕事をする時間も惜しんで拵えた特注品よ。ボタン一つで電流から催眠ガスまで出るわ」
「いや仕事しろよ、ダメ人間が」
なにドヤ顔で説明してるの? んなモン拵える暇があったのなら、進捗の一つでも進めなよ。
「うぐッ! 正論が、正論が痛いっす!!!」
「完全に徹夜ハイでしたものね。ちなみに、金盛財閥全面協力ですわ!」
「そう……権力の無駄遣いって知ってる???」
大体、金盛財閥の助力があったのなら仕事はどうとでも出来たでしょ!? バカなの!!?
完全に目的を忘れてるじゃん!
「ふっ──大丈夫よ、如月さえ捕獲すれば結果的には何も変わらないわ!!!」
「全力抵抗する先輩の絵が見えるんだけど……?」
あと、それバカの発想だよ。社長。
「いけるいける、大丈夫……缶詰にするホテルは既に予約した。もしやらないって駄々を捏ねるのなら、奴のクリスマスはホテルで楽しい楽しい謝罪会見をする事になるだけよ──うふふふふ」
壊れた目で、虚空を見て社長は笑う。
「ねぇ、拉致監禁って言葉知ってる? それ犯z」
「──アンタが何時ぞやにしでかしたヤツでしょ? いい話風になってたけど、私がやろうとしてる事と同じ事よね? 違うの、んッ???」
………………………………………………。
ごめん、先輩。
僕、先輩に何て事を──社長と同じ事をしていたなんて……ごめん、ごめんなさい!
あと、今の僕では社長を止められないみたいだ。
「ホントにごめんよ! 先輩ッ!!!」
「──おおッ!? ウチ、久保が言い負かされたトコ初めて見たよ! 凄いね、社長さん!!!」
うぐぐぅう…………ッッッ!!!!!
『おい女ァ! 雑談はいいから、早く主をt──』
「──もう! キー様が居ないと、虫くんはホントに短気だねぇ……そっちはどう、アー様! 舎弟くん!」
そう……ヒナちゃん先輩が、二人に呼び掛ける。
てか、さっきから妙に静かだと思ってたら──パシられてたのか、二人とも。
「──はーい! もう直ぐで、渡された図面通りには出来るんですけど……」
「ホントにこんなんで先生が戻って来るんすか?」
と、赤いペンキの缶とブラシを手に持った二人が神妙な面持ちで……ヒナちゃん先輩に問いかける。
…………渡された、図面……?
「大丈夫だって、信じなさ〜い! あぁ、でも一つだけ訂正してもいい?」
と、あいも変わらず……軽いノリでヒナちゃん先輩は言葉を返す。
「ぇ──なんですか?」
「シッ! コレで完せ──!?」
──ッッッ!?!!?
なんだコレ!? 視界が歪む!
それに、二人が描いていたモノが紅く……どこまでも不気味に紅く光って!!?
「──ソレはキー様をコッチに召喚するモノじゃなくてね、ウチらがアッチへ行く為のモノなの」
はっ!?!!?
ちょ、この女!? そういう事は先に!!?
「くッ──!」
ダメだ、グラグラして……気持ち悪い。
身体中から力が、抜ける。足も、感覚が。
「ダメだよ、抵抗しちゃ。大丈夫だから、流れに身を任せて……キー様を連れ戻したいんでしょ?」
まるで揶揄うような、優しく諭すような……声。
そんな声で、ヒナちゃん先輩が静かに──けれども愉しそうに、言葉を紡ぐ。
──くそ!
「あとで、おぼえ、てろ……よ!」
グラグラする視界の中、最早、焦点すら合わない目でヒナちゃん先輩を睨む。
力が抜け、倒れたのか全身に硬い地面が当たる。
──その中で、何とか……そう言葉を放った瞬間、僕の意識は、闇の中へと消えていった。
最後に見たのは、忌々しい程の……ヒナちゃん先輩の笑顔だった。
「──え? あれ……ウチ、図形が完成したら即魔界行きだって言って無かったっけ??? やばぁ……」
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