VS 黙示録
……私の名前は、佐藤 綾。
何処にでもいる平凡な女子中学生だ……いや、平凡な女子中学生だった。
──昨日までは……!!
◆◆◆
『騎士様──戦闘部隊総勢20名! 準備完了致しました!! ご指示を!!』
父の組織、『黙示録』の構成員が敬礼しながら私に言ってくる……。
──やめて! ホントにやめて!! 恥ずかしいから!!!
そんな言葉が喉元まで出かけるが、私は何とかその言葉を呑み込み指示を出す。
「は、はい! えっと……こ、今回の目的は、この会社の社長──百鬼 千尋さんを無力化し、如月 境夜さんを我々の陣営に引き込む事です! で、では、これより作戦を開始します!!!」
◆◆◆
うぅ……は、恥ずかしかったぁ!! フロントの人、すごく生温かい目をしてた!! 絶対、頭の変な集団だって思われちゃったよぉ!!
でも、フロントの人……何も言わずに通してくれたな。父さんが言ってた通りなら、如月さんが手を回してくれたのかな?
…………如月さん、社長さんに脅されてるらしいけど大丈夫かな? 私達を手助けしたのがバレて、社長さんに酷い事をされてたらどうしよう!?
■■■〜〜〜5F〜〜〜■■■
──チーン!!!
到着を告げる機械音と共に、エレベーターの扉が開く。
この会社には、一定の階数で乗り換える必要のある『部署エレベーター』と──『社長室』まで一気に行ける『直通エレベーター』があるって、初めてこの会社に来た時……如月さんが説明してくれたな。
直通エレベーターはカードキーが無いと動かないから乗れなかったけど……エレベーターを乗り換えていけば部署エレベーターでも『社長室』に辿り着ける……。けど──ッ!!
──如月さん大丈夫かな……!? 無理やり働かされてたりとか、乱暴な事をされてたりしたら……ッ!!
ただでさえ準備にも手間取っちゃったし……ごめんなさい如月さん! どうか無事でい──、
「──レディース&ジェントルメーン!!! ようこそおいで下さいました! 組織、『黙示録』の皆様がた!!」
──て……へ? き、如月さん??
「ワタクシ、このイベントの『企画担当者』……如月と申します!! 以後、お見知り置きを☆」
如月さん? は、その綺麗な顔に笑顔を浮かべ、意気揚々と告げる!!
「ではでは! さっそく、このイベントのルールを説明させて頂きま──」
「──ちょッ!? き、如月さん!! 待ってください!!!」
思わず、私は声を上げる!
「はい? 何でしょうか??」
私の言葉に、如月さんは小首を傾げているが……どう考えてもおかしいよね!?
「如月さん! いったい何があったんですか!?!?」
何この豹変ぶり! 私の知ってる如月さんは冷静で……優しくて──。
──思わず、スマホを握る手に力が入る……スマホに付けていた、如月さんから貰ったストラップが大きく揺れ動く。
「いやぁ、別に何とも無いんですけど……?」
「嘘です! 社長さんに脅されて仕方なくやっているんですか!? それとも、まさか洗脳されたりしたんですか!?」
声を荒げ問う私に、如月さんは少し困ったような顔を向け、
「ぅうん……さすがは迷探偵。綾ちゃん、将来探偵にだけはならない方がいいよ?」
「──なぁッ!? 元から探偵になる気なんて無いですから!!」
私の言葉に苦笑いしつつ、如月さんは話しを続けた。
「ま、まぁ……今のオレが『洗脳されてない』なんて言っても信じてはもらえないだろうし、それは社長に直接訊いて下さい」
なんか諦めたような言い方だけど……確かにそれが一番確実なのかな……?
「社長が居るのは三十階の『社長室』です。但し!」
如月さんが不敵な笑みを浮かべる。
「皆様が乗って来られた『部署エレベーター』は、五階、十階、十五階、二十階、二十五階で乗り換える必要があるのですが……」
ゆっくりと如月さんは話しを続ける。凄く楽しそうに。
「その全てのフロアに、モンスターを配置させてもらいました☆」
………………はい? か、会社の中に、モンスターを!?!?
「──つまり、『社長室』に辿り着く為には……オレの配置したモンスターを突破しなければならないって事ですね! いやぁ、大変だ!!」
いや、軽く言ってますけど……会社の人達はその事を知ってるの!? モンスター同士が戦っている中、仕事をするの!?!?
「じゃあ、オレは一足先に失礼します!! 『社長室』からニヤニヤと、皆様の奮闘ぶりを観させてもらいますんで!! グッドラック☆」
──ぇ? き、如月さん行っちゃうの!?!!? ……また迷子になったらどうしよう……。
「……あ! 一度この会社で迷子になられた方向音痴なお方の為に、僭越ながら案内役を付けさせていただきますのでご安心を──( ^ω^ )bグッ☆」
思い出したように如月さんはスマホを弄り、モンスターを召喚する。
〜〜〜ッ、というか方向音痴なお方って!! こんな広い会社なんだから迷っても仕方ないじゃないですか!!! 何がグッ☆ ですか!? 如月さんのバカッ!!!
「じゃ、キメラ! 後はよろしく!!」
如月さんはそう言い残し、何故か召喚したモンスターに自身のスマホを渡すと……足早にその場を後にする。
◆◆◆
『──皆様、初めまして。主より、皆様の案内役として召喚されましたキメラです』
如月さんが召喚したモンスター、『キメラ』が恭しく頭をさげる。
……このモンスター……なんだか、如月さんに似て──。
『──はい。私は、主の姿に「擬態」しておりますので』
ッ!? いま……何で!!? 私、口に出して言ってないのに!?
『私には「意思疎通」のスキルがありますので……皆様の考えなどは言われなくとも分かります』
無感情にキメラ……さんは告げる。
『それと……皆様、そろそろ主が配置されたモンスターが此方へとやって来ますので……戦闘準備をお願いします』
──ッ、モンスターが!?
『はい。あと、主より「アプリを使えば、相手モンスターのステータス情報が確認出来るぞ☆」との事です』
「チュートリアル!? チュートリアルなんですかコレ!??」
アプリを起動し、私はキメラさんのステータスを確認する。
『ランク???/キメラ (Lv MAX)
(HP150000/150000)
(MP65000/65000)
(攻撃力 98000)
(防御力 86000)
(魔法力 99999)
(魔法防御力 97000)
・
・
・
{特殊スキル}
(擬態)(分裂/増殖)(同化)(意思疎通)(捕食)』
「…………強すぎません?」
思わず、私の口から声が漏れる。
『そうですか? 「捕食」して良いのならまだまだ能力を強化できるのですが……?』
──え? これ以上強くなれるって……ゲームバランスが崩壊してません? それ??
『あ、それよりも……来ました。主のモンスターです』
キメラさんの指差した方向からは、赤色の巨狼が雄叫びを上げて此方へと駆けて来る!!
『ランクD/ガルム (Lv 10)
(HP1256/1256)
(MP132/132)
(攻撃力 198)
(防御力 153)
(魔法力 15)
(魔法防御力 12)……』
──良かった!! キメラさんみたいなのが出てきたらどうしようかと思った!!!
というか、普通のモンスターってこういうのだよね!? 別にそのモンスターが弱いんじゃなくて、キメラさんが異常なだけだよね!!?
「総員、戦闘準備!! あのモンスターを無力化します!!」
私は声を大にして告げる!!
まだ分からない事だらけだけど……一先ずは、三十階の『社長室』を目指すべきだと思うから……。
◆◆◆
「──ドリアード、ガルムに『防御低下』!!」
「セイレーン、騎士様のケルベロスに『攻撃増加』!!!」
仲間のモンスター、ドリアードとセイレーンがサポートしてくれる!! これなら!!
「──ケルベロス、スキル発動! 『破壊牙』!!」
私が召喚したモンスター……ケルベロスは黒炎を纏い、自身より一回り小さいガルムの身体へと牙を突き立てる!!
……ガルムは何とか反撃しようと暴れるが、ケルベロスはビクともせず──やがて、ガルムはその動きを完全に停止させた。
『ふむ……おめでとうございます。この階での戦いは、皆様がたの勝利です』
相変わらずの無表情で、キメラさんはそう告げる。
──皆んなのモンスターがサポートしてくれたから、何とか倒せたけど……次の階に配置されているモンスターも同じように倒せるとは限らない。
私は自分達が乗って来たエレベーターへと目を向ける。
──体勢を立て直す為にも、戻る事も視野に入れておくべきだよね……?
『成る程……ですが、それは主の意向に沿っているとは言い難いですね』
途端に、キメラさんの右腕が解けるように無数の黒い粒子へと変化し、その粒子は……エレベーターの扉へとびっしりと纏わりつく!!
……エレベーターの扉に纏わりついたソレは、扉を黒く染め、波打つように蠢いていた……!
「──ッ、これ……虫!? いやぁああああああああああああぁぁぁッッ!!!」
エレベーターの扉近くに居た仲間の一人が悲鳴を上げる!!
──虫……? あの黒い粒子が全て??
『……ソレは私の『分体』です。まぁ、確かに私自身……虫なんですけどね……えぇ、虫ですよ。昨日だってウッカリ擬態を解いてしまったが故に、主のお母様から殺虫剤を掛けられて死にかけましたしね……ただ其処に居ただけなんですけどね……ははッ』
キメラ……さんは、自傷気味に笑う。
そして自傷気味に笑いながら、更に自身の右肩辺りまでを虫に変化させると、その虫達を先程倒したガルムへと纏わせた!?
『いいですよね犬は……何処に居ても、「よしよし」と褒められて。モフモフだからですか? ペロペロしても誰にも嫌な顔なんてされませんものね?? それに比べ私達なんて……殺虫剤ですよ? ただ其処に居るだけで殺されかけるんですよ分かります??』
…………ガルムの身体を覆い、蠢き、やがて──ガルムは完全にその場から『消滅』したのだ。跡形も無く……。
そして、役目を終えたように虫達はキメラさんの所へと戻ってゆ──、
『──なに悠長に犬っころに起きた事を脳内解説してるんですか? そもそも皆様、同じモノを見てるんですからソレ必要無いでしょう?? なんです? 現実逃避ですか?? 何から逃避してるんですか私ですか?? そんなに痛々しいですか私は? 別に其処の犬っころが羨ましくて『捕食』したワケではありません断じて違います。ただ、こうやった方が主のお役に立てるだろうなぁっと考えてやっただけですそうですよ。フワフワのモフモフになれば主からも褒められやすいかなぁなんて微塵も思っていませんので勘違いしないでください』
淡々とキメラさんは話しながら、自分の身体を再生してゆく。
『──取り敢えず、この階での戦いは皆様の勝利なので次のエレベーターまでご案内します』
自身の身体を再生し終わると、キメラさんは一人で奥へと進んで行ってしまう。
……何とか、私達はキメラさんの後を追っていくが、その時──何処からともなく……、
「「「いやぁあああああキメラやめてぇええええええええええええぇぇぇッッ!!!」」」
……という悲痛な叫びが上層から聴こえたような気がしましたが、多分気のせいなのでこのまま進んでいこうと思います。
■■■〜エレベーター内〜■■■
『あぁ、言い忘れておりました。皆様の中に怪我をされた方や、モンスターが負傷……または戦闘不能になられた方は居ませんか?』
ふと、思い出したようにキメラさんは口を開く。
「──それなら、オレのモンスターがさっきの戦闘中に怪我をしちまってよ……まぁ、時間経過で治るんだが、このまま戦闘させて大丈夫なのかなって……」
キメラさんの言葉に、仲間の一人が手を挙げ告げる。
『──では、此方をどうぞ。主からです』
……如月さんから? もしかして、社長さんにバレないように私達を手助けしてくれるのかな?
そう期待を込めて、仲間がキメラさんから受け取ったモノを私は見る。
『『『人、またはモンスターの治療……1000
モンスターの戦闘復帰……3000
{補助アイテム一覧}
レベルUP薬……2000
HP回復薬(小)……800
HP回復薬(中)……1500
HP回復薬(大)……3000
MP回復薬(小)……1000
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(注:こちらはエレベーター内でのみ利用可能なサービスです。
尚、一部のアイテム以外は戦闘中にのみ使用可能です)
──それでは良い買い物を……グッドラック☆
追記:料金は後払いでも構いませんよ♡』』』
………………。
………………………………。
…………この紙を見た瞬間、私は、自分の中で『期待』とか『信頼』とか呼んでいたモノが崩れ落ちる音を聞いたのだった……。
この度はご覧いただきありがとうございました!
面白かった、続きはよ!! と、思われましたら是非ともブクマなどをお願いします! 作者の──略!!!