お買い物
■■■〜〜〜AM 9:30〜〜〜■■■
「──…………」
『……ターゲット、コンパクトミラーを取り出し髪型チェック入りました! どうぞっす!!!』
「うん、見たら理解るわ。上野くん」
…………どうして、こうなっちゃったのかしら?
『そうっスか、いつでも狙撃出来るっすよ!』
「貴方、いつから隠密部から暗殺部にジョブチェンジしたの??? てか、何処に居るのよ?」
周囲を見回しても、それっぽいのは居ないわね。マジで何処から電話して来てるの???
『捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食──』
『おいクソ虫、元主の顔でソレやめろ。顔面崩壊ってレベルじゃないぞ? モザイク処理されたいのか?』
『──(寄生出来そうな人間は居ないかな…?)』
アレは、キメラちゃん達だし。
「あ、先生の髪型チェック終わったっすよ」
「今度は深呼吸を始めましたわ、お姉様!」
「先輩、だいぶ緊張しているみたいだね」
この子達はまぁ……うん。私が呼んだのと、勝手に合流してきた奴よ。
『騎士様を泣かしたら、その瞬間──あの守銭奴の頭の風通しを良くしてやるっスよ……!』
「そっちの方が恐怖で泣く事になると思うけど?」
──あ、深呼吸も終わったわね。って、また髪型チェック!? アンタさっきもやったでしょッ!!?
さっきから、時計見てはソワソワしてるし……!
待ち合わせ30分前よ!? まだッ!!!
「乙女ですわね、如月……」
「あぁ、キミにも理解るかい? アレも先輩を推せる理由なんだよ──普段はガメツイ、腹黒い、守銭奴とマジで終わった性格をしているのに……たまに見せるあの乙女チックな部分に! あの照れた顔に! 恥じらったような仕草に! 自分の性癖をいったいどれだけ歪められたコトか!!! ほら見て、周囲の人も先輩の可愛さにヤラれて先輩の事をイヤラシイ目でチラチラと──」
──アンタ、今日いっぱい喋るわね。久保。
『ん!? た、ターゲットの表情が変わったっす!』
…………ほぇ???
スマホから聴こえる上野くんの声に、焦りのようなモノが浮かぶ! 何事かと思い、如月の方を──ッ!?
ぃや、あの…………誰??? どちら様?
「──こ、恋する乙女の顔ですわッ!!?」
「普段の邪悪さがカケラも無いね……」
「?????」
如月だったモノの目が、キラキラって……。まるで無垢な少女みたいに──ヴォエッッッ!
「──すみません! もしかして……お待たせしてしまいましたか、如月さん!?」
「ん? 全然、オレも今来た所だよ。綾ちゃん」
ヴ ォ エ エ エ エ エ ッ ッ ッ !
嘘つけよ、オメェよぉ……一時間以上も待ってただろうがよぉ、髪型とかチェックしてよぉぉ──???
「うぷッ……白々しいわ、アイツ」
『ターゲットから、犬の耳と尾が見えるっす。誰っすかアレ!? オレもっと汚いのしか知らねぇっすよ!』
■■■
『──ッッッ!!!!!』
『ステイッ! クソ虫、ステイッッ!!!』
■■■
「そ、そうなんですか!!! 良かったぁ〜!」
「ふふ。それじゃ、時間よりちょっと早いけど……もう買い出しに行っちゃう?」
ホッ、と胸を撫で下ろす綾ちゃんに……小さく笑いつつ、乙女は問う。
「──はい! 如月さんが宜しければ!!!」
「うん。じゃあ、行こっか」
そう……和かに笑いながら、共に歩き出す乙女と圧倒的可愛いの化身(綾ちゃん)。
「あ、そのマニキュア……凄く綺麗な色だね? とても良く似合ってるよ」
「……ッ! ぇ、あっ──ありがとう、ございます」
や、野郎!!! さっそく仕掛けやがったわ!
恥ずかしそうに、手で口元を隠す綾ちゃん。
その指先の小さな爪には、確かに可愛らしい桃色のマニキュアが塗られていた。(ノ●Д●)
あの乙女、いち早くソレに気付き……尚且つ、即座に褒め言葉を捻り出したとでも言うの!??
──き、如月……恐ろしい子!!!
『ッ!? し、社長! あの野郎をもっと良く見て下さいっす、マジやべぇっすよ!!!』
「え? ちょ、どうしたのよ突然!??」
スマホから上がる悲鳴にも似た、上野の声。
『あの野郎、車道側を歩いてるっす!!!』
「ぁんですってぇ!?!!?」
──そんな、いつの間に!? ハァッΣ(・□・;)
まさか、まさかあのマニキュアを褒めた一瞬で……己と綾ちゃんの立ち位置を入れ替えたと言うの!?
そ、そんなコトが──可能、なの?
あんな腹黒守銭奴に!? 出来るの!?? そんな、漫画でしか見たコト無いような紳士プレイが!?
『──お、恐ろしいっす……奴は、紛れも無く……乙女の皮を被った紳士っすよ!!!』
「お、落ち着きなさい上野くん! そんな一朝一夕で身に付けたような紳士力なんて、所詮は付け焼き刃。今にボロを出すに決まっているわ!!!」
か、監視を──監視を続けるわよ!!!!!
「──き、キュンキュンします……わ」
「ふッ。キミとは良いジュースが飲めそうだ」
「………………紳士力???」
■■■
『A"aaaaaaaaaaaaaa!!!!!』
『──だからステイと言っているだろうがクソ虫! って、パラサイト!!! 貴様、一般人の身体に寄生しようとするな! 迷惑を掛けないの、メッ!!!』
『………………(チッ!)』
■■■
──よし、コレで準備は整った!
『さぁ、現れ出でよ人間界へと続く門よ!!!』
魔法陣へとありったけの魔力を注ぎ込む!
……ッ、やはり……消費が、激しいか!!?
だが、全ては我が王と──愛する魔界の為!
我が魔力、欲しければ幾らでも注いでやろう! 故に、故に! 顕現せよ、顕現、してくれ……!!!
──人間界への門よッ!!!
魔力が足りなければ、この命を削っても構わない!
この姿を維持出来なくても、構わないから!!!
頼む! 顕現せよ、開け……開いてくれッ!
『『『──門よッッッ!!!!!』』』
命の限り、叫ぶ!
その瞬間──身体中から、力が抜け……視界が、急速に闇へと包まれた。
最期に、この目が映したのは……
赤く、紅く……光り輝く……魔法陣だった。
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