因縁
──大きく息を吸い、吐く。
「はい。よぉーく存じておりますわ、金盛財閥の金盛 金芽様。それで? どういったご用件で?」
本音は、今すぐ電話をぶった切りたい!
でも、ここは穏便に。大人の余裕で──
『──あら、私の名前をご存知でしたの? そのミジンコ並の頭脳にしては……褒めて差し上げますわ』
「ぶッ!?」
──あ"?????
「いえいえ、其方こそ偉大なお爺様の七光、世間知らずなお嬢様にしては記憶力が良いようで!」
「ちょッ、社長──!??」
『あ"? 何か勘違いしていらっしゃるのでは無いかしら? 私はお爺様に認められて今の地位に──』
ハッ、16の小娘の何を認めたと?
「──そんなお話は結構よ。それで、ご用件は何かしらと訊いているのだけれど、早く話してくれない?」
金盛財閥の先々代であられる、あの御老体の事は尊敬しているけど……いかんせん、孫バカが過ぎるわ。
如月も、何であの世間知らずのトコなんかに……。
『なッ、そんなの貴女に言われ──え? ぁ、そうでしたわね……私とした事が、すぅ、はぁ……』
ん? 何かしら???
電話の向こうで……誰かと、会話してる?
『……そうですわね。用件と言うのは、今度開催されるゲームの祭典についてですわ!』
──勿論、ご存知ですわよね?
と、奴は言う。
ッ、痛いトコを突いてくるわね──!
「──『やっぱゲームでShow』……の、事ね?」
『そうですわ! そこで出展するゲームについて、此方は概ね完成しましたのでご連絡をと』
………………ッ!
『後は、そうですわね……感謝でも……と』
「──は? 感謝ですって?」
電話の向こうで笑っているのか──クスクスと、嫌な、悪意に満ちた声がする。
『──えぇ! こんなにも素敵で、優秀な部下を譲って下さった事への感謝ですわ!!!』
「なっ!? まさか如月さんが辞めたのって……!」
私を見る上野君を手で制し、言葉を紡ぐ。
「そんな事で感謝される必要なんてありません。如月が自分で決めて御社へ行った──それだけですので」
自分でもゾッとするくらい、音の無い声ね。
「…………ッ」
そんな顔させてごめんなさいね。でも、それでも、割り切れない事ってあるものなのよ。
『まぁ、それもそうですわね──如月が貴女を見限って私の元へ来た。それだけですものね?』
愉快そうな嘲笑が、耳に刺さる。
『ですが、如月が貴女を見限ったお陰で──私が楽をさせて頂いているのも事実ですので』
──感謝しますわ。
「ッ! 用件が、それだけなら……もう失礼しても良いかしら? 此方も暇じゃないので──」
受話器から、ミシッと音がする。
『──えぇ、えぇッ! お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでしたわ。それでは……御社のゲーム、楽しみにしております』
と、いう声を最後に……ガンッッッ──!
半ば叩きつけるように、受話器を戻す。
「かぁ〜〜〜なぁ〜〜〜もぉ〜〜〜りぃ〜〜〜!」
ギリギリギリギリ──ッッッ!!!!!
「ヒェッ!? し、社長! と、取り敢えず落ち着いて下さいっす!!! 口から煙が!」
ふぅーーーふぅーーーーーッッッ!!!!!!!!
「──く、ょ!」
「はい?」
聞き返す、上野くん。
だから──ッ!!!
「──景気付けにカツ丼食いに行くわよ! 早く準備なさい、上野くん!!!」
あの小娘に、如月ぃ!
見てなさい、目にモノを見せてやるわッ!!!
■■■
「──おぉーーーほほほほほほほほほほッッッ!」
愉快そうに口に手を当て笑う、金盛のお嬢様。
アッチは今頃、地獄絵図だろうなぁ……と、思いながら書類を机に置く。
「ささッ、お嬢様。此方の書類に判を」
心の中で合掌しつつ、笑顔で告げる。
「──嫌ですわ」
「──へ?」
え……あの?
「こんな仕事は他の者にでもさせておけば良いでしょう? 私、甘いモノが食べたいですわ」
「えっと、でもコレはお嬢様自らがや──」
「──嫌なモノは嫌です! それに私、先程まで貴方が持って来た書類を読んで目が痛いのですわ!」
と、目頭を押さえるお嬢様。
ちな、読んでた書類は結局──
『──読み難いですわ! もっと私が読むのに相応しいモノにしてから出直していらっしゃい!!!』
と、読み始め3分でゴミ箱行きとなった。
ハッハッハッ、こりゃ参ったね!
………………はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!
「ですから、ね? 甘いモノでも食べてリフレッシュしたいのですわ! 食べに行きましょうよ!!!」
──ぁ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ッッッ、やめろ!
オレの手に絡みつくな!!!
あと何がリフレッシュだ、お前何もしてねぇだろうがよこんの我儘娘がぁあああああッッッ!!!!!
「そうですね! では、キメラとでも行って来て下さい、書類はオレの方で処理して──」
「──私は、貴方と、行きたいのですわ!!!」
オレは、行きたく、ありませんわ!!!
──お前マジ巫山戯んなよ!? この山積みになった書類が見えないの、眼科行け!
誰かこの処理してくれんの!? ァア!!???
『おい、娘! 貴様、いい加減に──ッ!!!』
「──虫はお黙りなさい!」
ピシャリ! お嬢様が言い放つ!!!
「私、虫は嫌いですの!」
『──ッ!?』
あ、やばッ!??
「あの、お嬢様? 今のキメラは擬態をしているので虫の姿では──」
ないですよ。と、言おうとした矢先……
「──虫は虫でしょう! そんな害虫を私の部屋に放たないで欲しいですわ汚らわしい!!!」
──ッ!
「………………キメラ、悪い。戻ってくれ」
『ッ、主──! し、承知しました』
キメラをスマホに戻し、息を一つ吐く。
「──申し訳、ありませんでした。お詫びと言っては何ですが、何処へでもお供させていただきますよ」
◆◆◆キメラside◆◆◆
──糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が……
声が、する。
それに、主のスマホに戻される時──私は確かに見たのだ。
主の手が……何かを抑えるように強く握り込まれ、小刻みに震えていたのを──。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます! 宜しければ是非ともブクマなどをお願いします(゜∀゜)ノシ