修学旅行 〜怪異譚〜 16
──いやぁ、虫くんて本当に有能だよね……。
虫くんが『擬態』やら『分裂/増殖』のスキルを使い単騎制圧した城の玉座にて──赤の女王に問う。
『さぁ吐け、主は何処に居る? 妾が世界とかワケ分からん事を抜かしていただろうお前、世界なら主の現在位置くらい分かるよな??? とっとと言った方が身の為だぞ? でなければ──』
──と、虫くんは懐から……一匹の虫を取り出す。
あッ……。
「ひ、ひぃいいいいいいいッッッ!!?!?」
恐らくは、虫くんの分体が擬態した姿だろう『虫』を見た赤の女王は悲鳴を上げる。
黒く、艶のある身体……
俊敏性に特化しているだろうボディのライン……
…………そして、特徴的な頭部の長い触角──。
──モザイク必須なあの姿は、間違いなく……台所の黒き流星こと、あの虫だ。
ソレを手に、虫くんは赤の女王へとにじり寄る。
「め、メイドぉおお!!? そ、そんな所に立っておらんと、早ぅ、早ぅこの痴れ者共を始末せい!!!」
そう、玉座に縛られている赤の女王が叫ぶが……、
「あらあら、ご冗談を」
と、メイドさんは笑う。
「──せっかく捕えた敵を、どうして助けなければならないのですか? ねぇ、女王様???」
……そして、メイド服諸共──下半身から解け崩れる様に無数の虫へと『戻る』と、
一直線に玉座へと向かってゆく。
「き"ゃ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"──ッ!!!」
足元から這い上がってくる波のような虫達に、喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げる赤の女王。
うッ……、
見てるコッチにまでダメージが──全身、痒くなってくるようなそんな気がしてk
『・・・・・・。』
「あ。ち、違うからね虫くん!? べ、別に気持ち悪いとか思って無いからね!!?」
『──主よ、生半可な慰めは逆効果だ。やめてやれ』
「オレは格好良いと思いますけど? そういうの」
正気かい、舎弟くん!? あッ、いや……大丈夫だよちゃんと理解ってるから!
先輩の情報を吐かせる為に敢えて、敢えてそういう風にやってるって!?
僕、ちゃんと理解ってるからね!?? 虫くん!
『……メイドに擬態した方は、通常なのだが?』
「………………」
………………………………あ、えと、その。
「い"や"ぁ"あ"あ"あ"キ"モ"チ"わ"る"い"よ"ぉ"お"お"お"お"お"お"お"お"お"お"ッッッッッ!!!!!!!!」
赤の女王の絶叫が響く中──僕は、静かに虫くんから目を逸らしたのだった。
──ゴメン、虫くん!
■■■
「──社長、制圧まぁ〜だ〜〜〜?」
床の影から頭だけ出し、社長に問う。
ほら、もっとペース上げて! ティアマトちゃん以外にもちゃんと指示出してッ!!!
「頭踏み潰されるか、そのまま埋まってるかどっちが良い!? って、影の蛇ちゃん後ろに注意!!!」
と、矢継ぎ早に社長の指示が飛ぶ!
お、イイヨイイヨ! その調子!!!
ビュッ、と幼虫が吐き出した糸をシャドウスネークは影に潜り躱わす。
『あリす、アりすぅウウうウううゥゥぅ!!!!!』
──ぅおッと!?
白の女王が杖か? を、ぶん投げてくる!
間一髪で影に潜ってやり過ごしたけど、あと一瞬遅かったら頭に風穴空いてたな……こりゃあ。
それに……白の女王の注意はまだオレに向いてる。
………………うーん。
服の中に隠した、アレを使うには──女王の注意を逸らさないと……。
その為には──
「へい、社長!」
「──なにッ!?!!? 踏むわよ!??」
社長の足元へコンニチハしつつ、
「嫌だ、踏まないで下さいよぉ? 一つ、雑兵共の動きを観て分かった事があるので情報共有をば──」
「…………何企んでんのよ?」
え? 嘘、ひどッ!!?
せっかくオメェ、情報を渡そうとしてんのに初手疑いに掛かるとかコイツ人間じゃねぇ!
「ぴえん……上見てプリーズ」
はい、見事なシャンデリアがぶら下がってますね?
「──は? アレがなに???」
「落としたら、スッキリしそうですね?」
「………………は?????」
帽子も、猫も幼虫も──所詮は駒だ。
観察する限り、その指揮は女王が取っている。
さて──そんな指示を出す頭が潰れたら、奴らはいったいどうなるかな?
「雑兵、女王の指示に忠実……その視界、断ったらどうなるか?」
「あ──把握!!! ゴーレムちゃん、天井目掛けて破壊●線いくわよ! ティアマトちゃんカムバック!」
よしよしよしよしよし! さすが社長、その決断の速さは社長の数少ない美徳の一つっすよ!!!
シャドウゴーレムがチャージを開始する。
『──ッ!? 止メろ!!!』
察したか……それとも…………。
ま、それはどっちでも良い。
──肝心なのは、女王の注意がオレから逸れたって事だ。
雑兵共も、女王の命令に従うように社長の方へと纏めて押し寄せてゆく。
あぁ、いいね! いいよぉ!!!
──ターゲットが孤立して、実に狙いやすい!
もうちょい、もうちょっと……。
服に隠した例のアレを取り出し、確認する。
んぇ? 例のアレって何だって???
そりゃあ、あんさん──アレは、アレやがな。
タッタラタッタ、タッタラタッタッタァ〜〜〜──
──Revolver♡
帽子のトコから仮パチしてずっと持ってた、revolverさんやがな!
そしてまた、帽子とのゲーム開始直前に確認のフリして抜いておいた弾をin☆
ダメだよぉ〜、オレに武器を与えちゃぁ〜〜〜。
最高にハイな音を上げて、準備OK!
すぅ〜〜〜、はぁ〜〜〜〜〜ッッッ!
深呼吸をし、今ッ!!!
『──ナぁッ!?』
女王の背後、その足下の影から勢い良く飛び出し──
「──はい、こんにちは。そして、さようなら!」
笑顔で挨拶! そして、頭部に銃口を当て、
……引き金を、引く!!!
ガァンッッッッッ!!!!!!!!
と、いう重い銃声と共に──
「──は、ぇ?????」
と、社長の間の抜けた声。
……そして──
──キィィイイイイイイイインンッッッ!!!
表現しようも無い甲高い音が、部屋中に轟く!
『──あ、リす……』
頭部から、蜘蛛の巣状に割れ……鏡のカケラを散らせながらも──女王は最後に、そう呟いた。
■■■
──キィィイイイイイイイインンッッッ!!!
「ッ、なに!? この音ッッッ!??」
「うるせッッッ!??!?」
『──グ……頭が』
『チッ! 結合がッ……!』
「──いや、じゃ! 妾はまだ……ッ!!!」
ビキッ──!
「へッ!??」
なに!? いきなり、赤の女王の身体に亀裂が!
「いやじゃッ、いやじゃぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!!?!??」
その断末魔を最後に、亀裂は更に大きく広がり……
赤の女王は、バラバラに砕け散る。
後には──大量の、鏡のカケラだけを残して……。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます! 宜しければ是非ともブクマなどをお願いします(゜∀゜)ノシ