修学旅行 〜怪異譚〜 6
「──取り敢えず、一旦出てくれません? オレもシャワー浴びたら直ぐに出るので、話はそれからで」
「そうね……そうするわ」
拘束から解放すると……ウゴウゴと蠢きながら、大人しく脱衣場の方へと這いずってゆく社長。
「──社長さん、大丈夫ですか?」
「ウン、平気よ。回復薬もちゃんと飲んだから」
「もはや原型留めてないけどね、社長」
「それ、回復薬効いてるのか?」
「じゃあ先生、後で……」
そう、社長の後に続き──久遠達がゾロゾロと男湯から退場しようとする……が、
──スパンッッッ!!!!!!!!
「──ぴッ!?」
「…………へ? 扉が……?」
あの……?
脱衣場への扉がひとりでに勢いよく閉まったのですが??? なにこれ? ドッキリ?????
それとも、此処って自動ドアだったっけ? 勢いつけ過ぎてるぞ。こりゃたまげたなぁ〜〜〜:(;゛゜'ω゜'):
『──♪♪〜〜〜♪〜』
オマケに、何か聴こえてくるのですが???
歌……いや、詩…………かな?
あとなんか、あの──背筋が、ゾクゾクして来たのですけど……? 悪寒的な意味で。
『〜♪♪♪〜〜…………ア、リス……みつけ、た』
──アリス?
『いっ、しょ──い、こ?』
詩は変わらず、紡がれ続けているが……音が反響しまくってる所為で──その出所が分からない。
「あ! コレよ、この歌みたいなのを如月の偽物もずっと歌ってたの!」
と、声をあげる社長。
は? オレの偽物……???
そんなの、何処にも──ッ!?
『アリ、ス……ア、リス…………』
──ッ、鏡に!?!!?
洗い場の、鏡……その全てに──オレが映り、何かを欲するようにその手を伸ばす!
途端……鏡の表面が波打ち、鏡から手の様なモノが伸び、肩や頭、やがては身体まで出て──待って?
………………なして、裸なん???
は、ぇ……素っ裸で出て来よったんやけど、どないなっとん? は???
「き、如月さんがいっぱいですッッッ!!!!!」
「先輩パラダイスだねゴチになります!!!!!」
『元主のビュッフェだと!? 私も同行しよう!』
と、何故か嬉しそうに叫ぶ綾ちゃんと久保。あと突然湧いて出たバアル。
──いや、あの……もっと他に、言う事がさ?
あると、思うんですけれども……自分。
◆◆◆( ´_ゝ`)◆◆◆
「………………」
オレは無言のまま、目の前の惨状を見る。
其処には──
「うぇへへッ──乱暴な如月さんもアリですね! ケルベロス、クローをお願いします!」
と、とても楽しそうに……鏡から出て来たオレ(素っ裸/偽物)を刈り取る死神と、
「お、やるね佐藤ちゃん! あ、こら先輩……オイタしちゃメッ☆ ミシャンドラ、やれ!」
と……此方も、オレ(素っ裸/偽物)を破片にしくさる後輩。
『ハァ、ハァ──なぁ主よ、コレ二十体ほど持ち帰っても良いか!? ちゃんと世話するから!!!』
あと、鼻息荒く宣っている後輩のペット。
が、鏡から出て来たオレを愛でつつも、容赦無く破壊していく。
「──オレ、嫌われてるんですかね?」
あるぇえ……?
久保は兎も角、綾ちゃんは鏡からフロントマンが襲って来た時に悲鳴上げてたって言ってなかった……?
じゃあ今、目をギンギンにしている彼女はいったい? 悲鳴では無く喜声上げて破壊してますけど?
チラリ……と、千尋さんの方を見れば──
「いや、愛されてんでしょ。多分……」
──と、『知らん、何あれ怖』みてぇな表情を浮かべていた。
何だろ──何か、腑に落ちないんだけど?
あと、キラキラと割れ散る鏡のカケラを見てると、何故か身体が震えてくる。
「くっそ、全ッ然開かねぇ!」
「頑張れゴーレム!!!」
そして猛者二人+一匹が暴れている横で、扉を開けようと悪戦苦闘する田中と久遠。
「アンタ、顔色悪いわよ? 湯冷めして風邪引かないように、温泉にでも入ってたら?」
「寒気がしてきたので、そうします」
どう考えても、湯冷めから来る寒気では無いが……此処は、お言葉に甘えよう。
所詮、マッパのオレに出来る事なんざ無いしな。邪魔にならんように風呂にでも入ってるわ。
「すまん……久遠、田中。ふぃ〜〜〜──ん?」
近くの湯に足をつけ、そのまま肩まで入った所で……
オ レ は 気 付 く ・ ・ ・ 。
「あの──社長……」
「あん? 何よ、如ら──ぎぃぁああああああああああああああああああああああああああッッッ!??!?」
轟く、社長の絶叫──。
それは、そうだろう。気持ちは良く理解る。
──水面から、無数に伸びる白い腕。
その腕が、ガッチリとオレの身体に巻き付き……物凄い力で拘束しているのだ。
何だろう……絶対いま思う事じゃないんだけど、えっちぃな? コレ? 何か、動きがヤラシイ。
でも、反射するモノなら鏡判定になるとかそういう感じだったりすんのかな?
まぁ、するんだろうね……腕、出て来たし。はぁ。
溜息を吐き、gabrな感情を表に出さないように注意しながら社長に笑顔を向ける。
「社長。オレはもうダメです……」
スマホはロッカーの中。
今のオレはマッパ!
流石にこの拘束から抜け出すなんてのは、無理ゲーだと脳が訴える。
なので、最後くらいは潔く……。
「──ッ、なに言ってんのよ如月!?」
まだ回復薬の効果が完全に出てはいないのか、社長は足を引き摺りながら此方へと近付いてきた!
──ふ、そんな足では助けようにも踏ん張りがきかんだろうて……。
「ダメです、社長。オレの事はいい……早く、みんなで脱出する方法を──」
「──ふざけんじゃないわよ! みんなで脱出するのなら、アンタだって居なきゃダメでしょ!?」
だから諦めるな!!!
と、社長は吼え……手を伸ばす。
まったく……
「まったく、社長は我儘ですね」
「ふん! 当然でしょ!!!」
それなら──
オレの腕を、社長が掴む。
「それなら……一緒に来て下さい」
「──ゑ?」
──オレは社長の手を掴み返し、そのまま社長を引き摺り込むように思い切り引っ張った!
「さ、一緒に行こうぜ☆」
瞬間、バランスを崩した社長が思い切り──ザパーーーーーーンッッッ! と、湯へと落ち……
白い水飛沫を上げながら……腕はオレを、オレは社長を床に空いた黒い穴へと引き摺り込む。
ぐにゃり……と、歪む視界の中……オレは鬼の形相で踠く社長を、力の限り抱き締めた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます! 宜しければ是非ともブクマなどをお願いします(゜∀゜)ノシ