修学旅行 〜怪異譚〜
■■■〜〜〜翌日/早朝〜〜〜■■■
「っう──ッ!?!!?」
グニャリ……と、浮遊感と不快感を足して二で割った様な妙な感覚で目が覚める。
「うぅ……昨日、飲み過ぎたのかしら?」
そう、一人呟き……身を起こす。
ふと、隣のベッドに目をやると──綾ちゃんはまだ寝息を立てて、グッスリと寝ていた……。
………………ふむ?
枕元に置いておいたスマホを手に取り、設定を諸々イジった上で──起こさない様に写真を一枚。
「ふっ、さすが私ね……!」
「──何やってんスか、女社長…………?」
綾ちゃんのベッドを挟む形で、端のベッドで寝ていた久遠君がジト目で私を見ている。
──あ、分かり易くすると……
綾ちゃん
↓
私→■ ■ ■←久遠くん
……てな感じでベッドが並んでて、其処に私達が寝てたワケね! OK???
え? 何故、久遠君が同室なのかって???
──羨まけしからん?????
はぁ〜! なにアンタ、如月なの???
逆に訊くけど、久遠君はまだ中学生よ?
なのに一人部屋にするとか、可哀想でしょ!?
経費うんぬん以上に──!
──イジメ、ダメ、絶対!!!
わかったッッッ!?!!?
「あらら、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「いや、何か妙な感覚がして目が……って、そうじゃなくて! 女社長、何してたんスか?」
てへぺろ、と誤魔化してみるけど……ダメね。
「──許して……冬にはね、色々とイベントが控えているの! 如月抜きじゃ、正直キツいのよ!!!」
如月は糞な部分は数あれど、仕事だけはメッチャ出来る奴だからね!
でも……奴を動かすには、供物がいるの!
イベントの提案、開催、クレーム対応……etc。
「アイツはね! 糞だけど、今やウチの必須戦力なのよ理解る!? その為なら、私は、私は──ッ!」
──盗撮魔(綾ちゃん限定)にでも何でもなってやるわよコンチクショーーーッッッ!!!!!
プライド? そんなモンで飯が食える???
綾ちゃんには、後で如月の写真でもプレゼントしておくから──それで許して? ね?
「………………女社長…………」
「何も言わないで。貴方も大人になれば理解るわ」
「──ぅ、ぅうん……?」
あら? そうこうしてたら、綾ちゃんも起きちゃったみたいね???
「ぁ、おやようございましゅ……しゃしょうしゃん」
まだ眠いのか……目を擦りながら、舌足らずに挨拶をしてくる綾ちゃん。
「──ぶふッ!」
「はい、おはようございます。綾ちゃん」
おっと、これは思わぬレアボイスをゲットね! 如月が駄々をこねた時の奥の手にしましょ。
ぐふふ、悪く思わないでね。綾ちゃん。
「さて! 皆んな起きちゃったみたいだし、少し早いけど一階のレストランでご飯にしましょっか!!!」
このホテルのレストラン、調べたらモーニングも絶品らしいからね!
──ふふ、今から楽しみだわ!
◆◆◆
「あら? おかしいわね???」
「人が、誰も居ませんね……?」
「でもパンフでは、もう開いてる時間のはず……」
スマホの時刻を確認しながら、私達は首を傾げる。
「私、ちょっとフロントの人に確認して来ますね!」
「あ、待てよ佐藤! オレも行く!!!」
「ちょっと二人とも──って、行っちゃった……」
二人の遠くなって行く背中を見送りつつ、若さって良いわね〜とか羨ましくなっちゃうわ。はぁ。
「──♪〜〜〜」
「うん? 何かしら……レストランの中から、なにか聴こえて──へッ!?」
妙な音……と、いうか歌声かしら?
──が、レストランの中から聴こえて、其方に目を向けると──私は思わず、声を上げる!
「──如月、アンタ……何時の間に!?」
私の目線の先には、如月が居た。
それも……先程、綾ちゃん達と見た時には『誰も居なかった』筈の席に──座っている。
そして、窓の外へと目を向け……何か、歌の様な、詩の様なモノを歌い続けているのだ。
──ぞくッ……と、理由も理解らない悪寒が走る。
ずっと、淡々と歌われるソレに──不安とも、恐怖とも呼べる感情が際限無く湧き上がって……怖い。
怖い、怖い──怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいッッッッッ!
「はっ、はぁッッッ」
脚がガクガクと震え、呼吸が速くなる。
早く此処から逃げたいのに、まるで縫い付けられた様に如月から目が離せない。
ふと……如月が、顔を此方に向けた。
「──ひッ!」
その、顔は、嗤っていた。
悪意に満ちた、そんな笑顔。
三日月の様に歪められた口からは、尚も、あの歌とも詩とも取れる……何かが紡がれ続ける。
「ぁ、あぁ……」
声が、出ない──!
──ゆらり。
如月が立ち上がる。
「♪〜〜〜♪♪〜〜〜〜〜」
未だ、ソレを紡ぎながら……如月が、歩いて……
「「「──キャーーーーーーーーーーッッッ!」」」
「──ッ!? 綾ちゃんッ!!?!?」
背後から、悲鳴が上がる!
あの声は、間違い無く綾ちゃんのモノだ──!
何かあったの!? でも、脚が動かないッ、あの、存在が怖い……
「──♪♪♪〜♪〜〜〜」
未だ、顔色一つ変えず……ソレを紡ぎ続ける、あの存在が怖い。
悪意に満ちた目が、此方に歩いてくる足が……
その存在の、全部が怖い。怖いのy──
「──ッ〜〜〜、ぇえい! しっかりしなさい!!! 百鬼 千尋ッッッッッ!!!!!!!!」
ば き ッ ッ ッ ! ! ! ! !
声と共に……何とか、動かせた腕。
その腕で──
──私は、私を全力でぶん殴った!!!
ここまでお読み下さり、ありがとうございます! 宜しければ是非ともブクマなどをお願いします(゜∀゜)ノシ