焼肉事変 5
『──だいたい主はシャイ過ぎなんです! いつまでタイミング計ってるんですかヘタレですか!!?』
人の罪を暴露すると言いながらいきなりディスって来やがったんだけど、この虫……?
あと、オレはヘタレじゃない!
シャイでも無いし、タイミングも計ってない!
『じゃあ私が飲んだ炭酸水は何ですか? 素面で話すのがキツくなった時の逃げの手段でしょうが!!!』
「……マジ? アンタそれはヘタレだわ」
ケラケラ笑いながら、キメラに同調するBBA。
はぁーーーーーーーーッッッ????????
「あの炭酸水は唯の気分転換用に頼んだだけなんですけどぉ??? オレは、ヘタレじゃ、無い!」
ハッキリと、そう告げる!
これ以上言うなら名誉毀損で出るとこ出ますけd
『じゃあ今すぐ其処のメ──女に言う事言って下さいよ、言えるんですよね? ね、主???』
………………………………いや、あの。
「それとコレとは──話が、違うじゃん? ね?」
ほら、あの……アレだよ、こう、ね??? タイミングがさ、相応しく無いじゃん?
「売り言葉に買い言葉でそういうのは、オレ……ちょっと違うと思うワケよ?」
『──つまり言えないと? やはりヘタ──』
レ、じゃないです!!!!!
「──はぁ〜〜〜ッ!? よし分かった、言うよ、言えば良いんだろこの謀反虫めが!!!」
上等だ、言ってやるよ! 言えば良いんでしょ!?
「久保! こんなタイミングで悪いが、入院中にした約束を──今、果たさせてもらう!!!」
と、スマホを操作し……ストラップサイズになっているミシャンドラを召喚する。
「──先ずは、コイツをお前に。データは調整したから、次からは普通にモンスターとして召喚できる」
やっぱ、依代とかそういうのはアカンと思うのよねオレ。なので、普通のモンスターとして調整した。
「コレでもう、あのバグも起きないだろう」
「あ、ありがとう……先輩」
召喚されたミシャンドラを受け取り、照れたように僅かに頬を染める久保。
ウンウン、頑張った甲斐が──
『──じーーーーー(˙-˙ )』
「ニヤニヤ──(´∀`)」
………………チッ!
「それと……社長が言ってたデータの件だけど、アレはな──その…………」
すぅ、はぁぁ。
「……全部、事実…………だ」
罪を告白するように、言葉を紡ぐ。
「最初は、ほんの好奇心だった。
ゲームを造るのは、いったいどんな感じなんだろうって、そう思っただけの……」
緊張で、喉が渇く。
手も、震えていた。
「プログラムについて一から勉強して、色々と調べて、ゲームを造った」
──楽しかった。
──感動した。
「その内──最初は苦戦したのが嘘みたいに、すらすらプログラムが組めるようになって、」
色々なゲームを造った。
徐々に、感動は失われた。
出来る事が当たり前になった。
「──また、つまらなくなった」
大した努力なんてしてない。
他人の方が、自分よりももっとずっと努力をしていた筈なのに……また。
虚しくなった。
「そんな気持ちを消す為に、色々なゲームを造っては配布して……プレイヤーの評価を集めた」
高い評価ばかりだった。
その過大な評価に、吐き気がした……。
「オレなんかには勿体無いほどの、過大な評価ばかりだったよ」
そんなに評価をもらえるほど、オレは努力なんてして無いのに……。
胸が苦しくなった。
「あぁ、またか。って、そう思った」
虚しくて、悲しくて……
どうしようも無いほどに、苦しくなった。
「──いっその事、プロに見てもらおうと思った」
それが、全ての始まり。
バイトとして、あの会社で働いて……
「偶然出来たなんて言い訳までして、造ったゲームを評価してもらった」
そして、また虚しくなった。
変わらない結果。覆されない過大な評価。
…………泣きたくなった。
「天才だと褒められて、社長に見せようって先輩やその上司に言われて……もう、どうでも良くなった」
無意味だと、決め付けた。
オレには……いつか必ず、オレを負かすと言ってくれた後輩との約束がある。
だから、オレは大丈夫。
「出会って早々、不躾にも社長にゲームを売ろうとした。勿論、色々と見積もって……」
何なら、ちょっとばかし儲けが出るように。
どうせ、辞めるつもりだったから……自分でもどうかと思うほど強気で。
目上? 上司??? 知らないですね! と。
「そしたら、社長の奴……何て言ったと思う?」
一つ、久保に問う。
「……あのゲームの評価を元に、儲けが出るように水増しした値段。絶対にそれ以上にはならない」
なりようが無い……筈──だった。
それを──
「あら、そんな程度の額で良いの──ってさ」
即決した社長を見て、馬鹿なんだと思った。
見てもらう人、間違えたな……と。
「あ〜、そんな事も言ったわね〜〜〜!」
と、酒瓶を手に……社長は目を細める。
あの日を懐かしむように……。
「そ、それで? どうなったの???」
そう、結果を知っている筈なのに問う──久保。
「…………オレがまだこの会社に居るのが答えだよ」
「ウェヘヘへ、糞ほどバズってぇメチャクチャ儲けちゃったわよイェーーーーーーーーーーーーーィ☆」
「あー………………それは、うん。どんまい先輩」
オレは、社長に負けた。
オレの『絶対』を……アッサリと、本当にアッサリと、社長は覆してみせたのだ。
「見積もりが甘いのよぉ! お客様を見ないからそうなんの、悔しい? 悔ちいでちゅね〜境ちゃぁん!」
そして、オレの人生に……↑に負けたという汚点がついてしまったワケなんですよ、はい。
■■■
「──コレは、どうなって…………?」
「ふふん! 見ての通りよ。貴方の見積もりの何十倍かしらね、新人くん?」
社長室に呼び出され、
眼前のモニターを見て、オレは声を上げた。
「計算を間違えた? それとも評価を誤ったのか……いや違う。何度も確認した、あり得ない」
そうだ、あり得ない。
どう計算しても、こんな結果になる筈が無い。
なのに……どうして?
「──とても面白い!」
「?」
「続編キボンヌ!!!」
「??? 何を言って……?」
「楽しいゲームをありがとう! コレはね、このゲームに対しての……プレイヤー達の評価の声よ」
──いや、そうでは無く……。
「それが、何か?」
「貴方は、このゲームの評価、つまりは収集したデータを元に値段を決めたのよね?」
「それはまぁ……そうですけど?」
「ホントに評価を全て読んだの?」
「は?」
「だから! 届いたお客様の声を、ホントに全部読んだのかってコト!!! どうなの?」
──なぜ、そんな事を訊くんだ?
「いいえ。評価だけなら、わざわざ読まなくても総評を見れば明らかでしょう? 必要がありません」
それに、読んだ所で同じ事が書いてあるだけだ。
必要が無い。無意味だ。
「あっそう。どおりでね」
どおりで?
「新人くん……貴方は、この文字に込められた想いを知らない。だから簡単にあのゲームを手放した」
「──は? 想い??? 文字に?」
何を言っているんだ?
頭がおかしいのか???
「それが理解らない内は、まだまだ貴方に儲けさせてもらえそうね。また良い売り物があったら宜しく」
理解が出来ない。
何を言っているのか、分からない。が……
馬鹿にされたのだけは、理解った。
悔しくて、今まで流すだけで……ろくに目を通してもこなかった文字を見た。
ただの文字、同じ文章の寄せ集め。
その筈だ。その筈……なのに──
『サイコーでした!』
『僕も見習って面白いゲームを造りたいです!!!』
『続きを、どうか続編を恵んでくだせぇ〜!』
──温かい。
ただの文字列? コレが?
あぁ、オレは……どうやら節穴だったらしい。
過大な評価だとは、思う。けれど──
──けれど…………
・
・
・
「──あら、新人くんじゃない! 貴方、随分と良い眼をするようになったわね。そっちの方が素敵よ」
「セクハラですか警備さん助けてぇーーーッ!」
「違うからッ!? ちょ、皆んなもそんなゴミを見るような目をしないで!!? って、何笑ってんのよ!?」
ここまでお読み下さりありがとうございます! 宜しければ是非ともブクマなどをお願いします(゜∀゜)ノシ