許し、赦され
──扉から出て行った社長の背中を見送り、思う。
にゃろう……雑な説明だけして帰りやがった!
………………と。説明するならちゃんとせぇや! え、なに? 自分の黒歴史を自分で語れと!?
貴様に敗北したという我が人生最大の汚点を!?? 語れと!? 自分で? は、キレそう。
おのれ社長!
テメェ、今頃どうせ──
「──ふふん、青春っていいわ〜! さぁ、私に感謝して存分に語り合いなさい!!!」
とか、無い胸張って思ってんだろ?
お陰でこちとら大変気不味いです。いらん事しやがってありがとう御座います今度藁人形贈りますね^ ^
「──……あの、先輩…………」
ほらぁ〜〜〜!
後輩が思い詰めた様な顔してんじゃん社長のバカ!
説明するならちゃんとしてよ〜もぉ〜〜〜ッ!!!
「どうした後輩?」
──あ、胃が痛い。
先輩の威厳やら何やらで表情こそ真顔をキープしているが、マジ無理。気分転換に始末書書こっと。
コレ、何の始末書かは知らんけど……。
「その、ごめんね……騒いじゃって。煩かったよね?」
「や、ジブン全然気にしてねぇっす! ウス!!!」
自分の黒歴史に叩き起こされました!!!
めっちゃ気にしてるし、下手な寝起きドッキリよりタチが悪ぃなと思います!
──いやまぁ、隠してたオレも悪いけどね。うん!
「えっと…………社長が言ってた事、ホント? その、データだけしか見てなかったとかって?」
「 げ ぼ ぉ !」
──あ、いきなり本題に入って来るんスね(^ཀ^ )
「先輩ッッッ!!?!?」
「ら、らいりょうふ……これ、へひゃっふ…………」
(大丈夫……コレ、ケチャップ…………)
「大丈夫じゃないよ先輩!? どう見てもケチャップじゃないし、量も相当出てるよ先輩ッ!!?」
ハァ、ハァッ……落ち着け、落ち着けってんだよぉオレ。くそ、全身が震えやがる!
「と、取り敢えずナースコールを──え?」
「ろうひ──は?」
(どうし──は?)
え? 何か、枕元に置いてたオレのスマホが光っ──
──ボフンッッッッッ!!!!!!!!
『………………』
「……え?」
「…………ミシャンドラ……」
途端、オレのスマホからコミカルな音と共に召喚された(勝手に出て来た)のは──ミシャンドラだった。
調整中の為、只今ストラップサイズにまで小型化しているミシャンドラが……その手でペシペシと、
オレの頭を叩いてくる。
──尻込みしてないでサッサと言え。
まるで、そう……言うように。
うぅッ──はぁ。
まぁ、ずっと隠してたからこうなったワケだしな。いつか、いつか、と逃げるのは終わりにしよう。
「──久保、悪いが先に言わせてくれ。すまなかった」
そう、オレは頭を下げる。
「ぇ? ちょ、先輩!?」
久保が驚愕した様な声を出しているが、続ける。
「本当はもう、オレは社長に負けてるんだ。それも、悔しくも無いほど圧倒的に」
逆に清々しい敗北だった。と、まで言える。
「──先輩……」
「天狗になってた。
お前に言ったよな、お前は努力をする凡人だって」
苦笑する。
ホント、酷い自惚れだ。
「オレさ……ずっと自分が嫌いだったんだ。
努力なんてしなくても何でも器用に出来た。その気になれば、誰にも負ける事が無かった」
上が無かった。
ただずっと、空虚な場所に立ち続けていた。
「本気で何かに取り組んだ事なんて無い。
そんなつまらない自分が、大嫌いだったんだ」
だから──、
「だから──あの日、我慢出来ずに言っちまった。
お前はオレとは比べ物にならない程、必死に努力をしてた事を知っていたから」
天才なんて言葉に、負けてほしくなかった。
そもそも、そう卑下されるべきはオレなのだから。
「──お前に気に入られて、ずっと一緒に居れば居るほど……自分のつまらなさを思い知ったよ。
オレは、努力をするフリばかりだったから」
吐きそうになる。
オレなんかが、コイツと一緒に居ても良いのだろうか? と、ずっと自問自答を繰り返していた。
久保は、あの子はあんなにも輝いているのに。
「ちょっと待ってよ!? まさかあの時、先輩が倒れたのって──ッ」
「──ご名答……自己嫌悪によるストレスでな」
もっと言うなら、お前に見合う先輩になりたくて……がむしゃらに色んな物に手を出した事による過労だ。
全く、慣れない事はするモノじゃないな!
──マジで骨身に沁みたよ。
「その後、お前が今みたいに見舞いに来てくれて柄にも無く甘えて重荷を背負わせた。
本当に悪かった! 何でもするので許して下さい」
オマケに自分が負けた事すら黙ってました!
人生最大の汚点だからと言って、ダンマリはアカン!
そのせいで色々と背負わせてしまったし、そもそも今回の件だってちゃんとオレが言ってれば──
──あ、やば。死にたくなってきた。
自分で言ってても、思うもん。
オレだったら一瞬で後輩やめるな! って。
いや同年代だけどね!? そうノリツッコミしつつ、そ〜っと久保の表情を窺う。
「……何でも? いま何でもって──???」
おっと……欲望に染まった目をしてやがる。
これは早まったか──?
「──っと、危ない危ない。今は真面目にしなきゃね」
………………今は?
その一言にゾクリとするが、それが罰だと言うのであれば甘んじて受けよう。
「ねぇ、先輩……なら、どうして先輩は今でも自分を天才なんて呼んでるの?」
──うん。やっぱ、そう訊いてくるよな……。
理解ってた。
そして、その問いに対するオレの答えは……、
「それは──お前とだしな、約束したの」
……幾度考えようと、コレしか出なかった。
あの時は気付いてなかったが、どうやらオレは、あの約束が相当嬉しかったらしい。
あー、顔が熱い。
負けた事の無い、つまらない男に──努力家の後輩が言ってくれた一言。大切な約束。
「──嬉しかった。綺麗だった。
あの約束は……こんなオレなんかには勿体無いほど、とても輝いてたんだ」
噛み締める様に、一言、一言、伝える。
「でも社長に負けた……と」
「が ふ ぅ ッ !」
はい。負けました。
ごめんなさい(土下座)
切腹で良いですかね?
「──ふ、くく……ッ、ごめん! 揶揄いすぎた」
と、久保は笑い……息を吐く。
そして、オレを真っ直ぐ見据えると──
「──うん。そういう事なら許すよ……その代わり、僕が色々した事も許して欲しいな? 先輩」
お互い様って事で……ね?
悪戯っ子のように笑い、言ってくる。
成程──データ改造、サーバー乗っ取り、アイテムの不正使用etc……をチャラにしろ。と?
………………はぁ〜〜〜〜〜ッッッ!
「卑怯だな……だがまぁ、許すよ」
「ふふ、卑怯なのはお互い様でしょ? あんな殺し文句言われて怒れる人間が居ると思う???」
珍しく反省したのにさ──と、久保が言う。
「──確かにな!」
と、言葉を返し──互いに、どちらかとも無く笑い出した。
──その笑顔は、あの日の笑顔よりも……遙かに輝かしい笑顔だった。
「あ、言っておくけど先輩を倒す事を諦めたワケじゃないからね! 勘違いしないでよ!!?」
■■■
「──あ、先輩。僕達のいざこざに巻き込んじゃった人達へのお詫びどうしよっか?」
「うん? あー、それなら今度オレのポケットマネーで焼肉奢る事にしたから……お前も来い(血ཀ血 )」
「え!? 先輩が、奢るの!!? 先輩が!?」
「オレだって嫌だけど、まぁ……仕方無いかなって」
「──へぇ、じゃあ先輩……その時にでも教えてくれる? 結局、データって何の事だったのか」
ギクッ──Σ( ^ω^ )
「負けた事は正直に言っただろ? わざわざその、汚点の内容まで言わなきゃダメなのか???」
「どんだけ嫌なのさ? ダメだから、途中から避けてたの気付いてたからね? ちゃんと白状してもらうよ!」
「………………はい」
うぅ……言うよ、言えば良いんだろ!!?
焼肉に行った時にでもちゃんと話しますぅ〜!!!
「あと、その小さいミシャンドラについてもね」
「はい……」
『………………』
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