掴まれた手
「──ァ…………君は、いッタい???」
誰? と、繋げヨウとシた言葉は……目ノ前に居ル人物の言葉デ掻き消サレた。
『もう自分の姿さえ理解らなくなったの?』
…………自分ノ、姿……?
『まぁいいや──初めましてかな?』
溜息ヲ吐き、謎ノ人物は告げル。
『僕の名前はイヴィル……あの人のモンスターであり、今は君の姿を借りて話をしている』
──僕の姿? アれが……???
『でさ? さっそく本題に入って悪いんだけど、君はいつまでこんな所に閉じこもってるワケ???』
「──こンな所?」
『いつまで意地を張り続けてるのさ?』
意地? 私、が──???
「何ヲ、言ってルの? 私ハ、僕はタだ……アの人を壊たいだけで……???」
僕の言葉ニ、相手ガ、笑う。
『──救いたい? 壊したいの間違いじゃないの?』
間違イ……?
『救いたいなら、どうして傷付けてるの? 何から、救おうとしてるの???』
──??? 何、カら?
「ソレは………………」
アれ? ドウしテ、言葉ガ、出ないノ???
『それにさ、残念だけどあの人はもう「救われてる」よ。君では無い、別の人間にね』
ッッッ──!
「違う!!! あノ人はまだ、救われてない!」
そんな筈がない! 僕じゃない誰かガ、あの人を、先輩を救ったなんて……そんなのッ──
「そんなの──僕は……私は認めないッ!!!!!」
──ぁ。
『少しは、自分の事を思い出したかな?』
目の前の、僕が笑う。
「…………君は、誰?」
『? さっき名乗ったと思うけど???』
僕を揶揄う様に、僕はクスクスと笑っている。
「そうじゃなくて。先輩のモンスターが、何で此処に居るの? 此処は、僕の精神世界的なヤツじゃないの?」
──言ってて、頭痛くなってきた。
『あー、それね? うん正解。此処は確かに君の精神世界的な場所だね』
「──それはどうも。で、何で人のプライベートルームに平気な顔して居るの、君は?」
そう、不機嫌丸出しに訊くと……、
『それはあの化物同様に、君に『憑依』したからだよ』
……あの人の命令でね。
と、僕の姿をしたモンスターは話す。
「先輩の命令で?」
『そうだよ。君があの化物に憑依されて全く目を覚まさないから荒療治ってね! ま、アラームみたいな?』
……それはまぁ、随分と嫌味なアラームで。
『苦労したよ。あの化物に気付かれない様に、少しずつ、武器を伝って中に入ってさ?』
ハァ……と、息を吐くモンスター。
『君の中に入ってからも、あの化物に気付かれない様に注意をして……アイツが弱るまで待ってさ?』
──漸く、ここまで来られたよ。
ニコニコと、僕の姿をしたモンスターは笑う。
『で? 君はいったい何時まで意地を張って閉じこもってるの??? 認めたく無いとかガキか?』
………………前言撤回。
アレ、笑ってない。怒ってる。
『今の僕には君の記憶がある。だから嘘は通じない』
そう、モンスターは笑顔のまま告げる。
……よくもまぁ、ご主人を痛めつけてくれたな?
暗に、そう言っているのだろう。僕の記憶を持ってるせいでちょっと過激になってるのかな?
『大体さぁ、嘘の仮面なんて誰でも付けてるでしょ? 別にあの人だけが付けてるワケじゃない』
それは、まぁ……はい。
『君、今まで嘘ついた事ないの? あるだろ???』
「…………はい……あります」
寧ろ、いっぱい……ついてました。
『疲れた時に、一人落ち込む事だってあるでしょ?』
「はい……」
『あの人の呟きもソレと一緒だよ。疲れて、弱音を吐露しちゃったって話……機械じゃあるまいし、ずっとニコニコなんてしてられるか? いいや、無理だね!』
うん……先輩は、機械じゃない。
──人間だ。
『喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだり……あの人もソレと変わらない。違う?』
「……いや。違わないね」
『でしょ? あの人も人間だからね』
あぁ、まったく……その通りだ。
人間だから──辛かったり、苦しかったりすると、弱音を吐露ことだってあるだろう。
逆に、格好をつけたくて……隠す事も。
強がる事だって。
『──本当はもう、気付いてるよね?』
あぁ……気付いてるよ。
気付かないワケが無いじゃないか……ずっと、その隣を歩いていたんだから。
「……認めたく、無かったんだ。本当は僕の手で先輩を救いたかったのに──って、ずっと思ってた」
でも──
「──あの人はもう、救われてた。僕じゃない、誰かに既に『負けて』……それを、受け入れて」
もう、『無』じゃ無くなってた。
本当の意味で……笑える様になってたんだ。
「はぁ──悔しいなぁ……」
思わず、言葉を零す。
嘘が通じないんだから、本音を言うしか無いじゃないか。ホント、嫌なアラームを贈られたモノだよ。
「──本当は、僕が先輩を『負かした』かったな」
我ながら、本当に諦めが悪いな。僕は。
『それなら、此処から出た後でまた挑めば良くない?』
自分の身勝手さが嫌に──ぇ?
「──挑む? でも、先輩はもう負けて……」
『君に負けたワケじゃないだろ?』
それに──と、モンスターは付け加える。
『それに、あの人が──まだ自分の事を「天才」と言っている理由、分からないワケじゃないだろ?』
──ッ!!!
先輩が……あの人が、まだ自身を『天才』と言っている理由──それは…………まぁ。
で、でも直接ソレを言われると……!
どうしよう──顔が、熱い。
『やっぱり理解はしてたんだね? なら、サッサと此処から出なよ。コレは君の力じゃない、そうだろ?』
ッ〜〜〜! ホンットに嫌味なアラームめ!
あぁ、そうだよ! コレは僕の力じゃない!!!
モンスターに取り込まれて、制御すら出来ていないのに、それを自分の力だなんて無様な事は言わない!
だから──良い加減、目を覚さないとね……ッ!
あ、でも──
「でも──どうすれば、此処から出られるのさ?」
『え、知らん。適当に暴れて手でも伸ばしてみたら? あの人ならワンチャン気付くよ、多分』
………………は?????
■■■
──あの、イヴィルくん? まだですか???
そろそろ、マジで辛くなって来たんですけど……?
いや、強がってあんな事言った手前……頑張りますけども? 身体さんがもう、悲鳴上げまくってんですよ。
ホラ、目もだんだん霞んできて──あはは、何か影の胸から生えてきたんだけど?
え? 何あれ、オレ病んでるのかな???
めっちゃピロピロ動いてるんだけど?
──ギィンッッッ!!!!!!!!
影の出鱈目な攻撃を防ぎ、距離を取る。が──
──え? 本当に何あれ!?
よく良く観ると、手? 手か、アレ???
何故、胸から手が生えるんだよ?????
「──ぇ? オレ、マジで病んでるのか???」
だっておまッ、手だぞ? 胸から???
パイパイから、手が生えてるんだぞ?????
久保の身体、どうなってるんだ?
──しかも、めっちゃ動いてる。
バババババッ! って、効果音が付きそうなくらい暴れてるんだけど……イヴィル、お前何したの?
ぇ、これ現実??? 夢じゃない?
「パラサイト、一旦、痛覚戻してもらっていい?」
『──(え、いま!? いま、戻すのか!!?)』
途端──とてもじゃないが、表現できないレベルの痛みが全身へと襲い来るッッッ!!!!!
「ッ"ぅ"ッッッ──ぱ、パラサイト……つ、痛覚をしゃ…………ッ、かひゅッッッ──!」
『(言わんこっちゃない!!!)』
──ヤバい。マジで、ヤバかった。
え? コレやばない???
オレの身体、ヤバない!????
口の中に溜まった、鉄の味の元を吐き出す。
赤いソレを観ながら、思う。
──あ、コレ……夢じゃない。と。
そして、あの影のオッπから生えた手も──恐らく、多分、現実のモノだろうと……!
確かに、あの真下くらいだもんね? 核あったの。
でも、それなら──ッ!
「パラサイト、超電磁砲!!!」
──あの手は、オレが掴まなきゃな……!!!
超電磁砲を放つ!
『──ッ!』
もう何度も喰らっているだろう超電磁砲を、影は躱わす。銃口の射線外へと──!
──ホント、奥の手ってのは残しておくべきだよな。
「パラサイト──影の前に転移!」
瞬間、一度視界がグニャリと歪み……次の瞬間には、オレは影の目の前に居た。
『──ッッッ!!?!???』
「パラサイト武装解除! 久保、聴こえているなら手を伸ばせッ!!!」
そう声を張り上げる!
ピクリ──手が、確かに伸ばされた!!!
オレは……その手を、掴む!
──そして、思い切り……その手を、引いた!!!
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