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…………先輩が……倒れた。
医者の話によれば……過労だと、先輩のお母さんが教えてくれた……。
「あの子は、昔から頑張り屋だから──」
──そう、困った様に話してくれた。
先輩が……頑張り屋…………?
いつも楽しそうに、遊んで、笑っていた先輩が?
………………あれ?
先輩って、どんな顔で笑ってたっけ?
白い部屋の中、点滴に繋がれた先輩に逢った。
──その顔は、あまりにも『無』だった。
表情を全て削ぎ落とした、そんな顔で、ずっと虚空を見つめていた。
僕が部屋の中に入った事すら、気付いていなかった。
「…………しんどいなぁ…………」
ふと──先輩が言葉を発した。
誰に向けてでも無い、静かな部屋に漏れ出ただけの小さな本音。
天才としての仮面が外れた瞬間だった。
「──先輩…………もういいよ」
思わず、声が出る。
その声に、初めて気付いた様子で僕を見た先輩の顔は──笑顔だった。
いつもの……あの、笑顔。
「びっっっくりしたぁ〜! おまッ、居るなら居ると声を掛けてくれよ!? 寿命が縮んだわ!!!」
いつもの仮面を付けた先輩のその笑顔は、酷く歪んだ痛々しいモノだった。
目の下の隈、蒼白い肌、乱れた髪。
その全てが、歪んでいた。
「もういい……もういいんだよ、先輩! そんな風に笑わなくても──取り繕わなくてもいいんだ」
どうして、僕は気付かなかった?
ずっと隣に居た筈なのに……!
「取り繕う? 何を言っ──」
「──無理して笑わなくていい! しんどいなら、しんどいって言えばいい! 隠さなくていいんだ!」
「それで何か変わるのか?」
先輩の声に、色が無くなった。
その目は、先程までの……あの目だった。
表情が無い。そんな『無』だ。
「無様に喚いて、泣いて、何が変わる? 何も変わらないだろ? そんなの無意味だ、理解できない」
淡々と、先輩は告げる。
──無意味だ、と。
──理解できない、と。
それはあの時、天才だと言われ続けてきた『私』が思っていた本音だった。
自分から『努力』してるなんて喚きたく無い。
泣いたところで意味なんて無い。
──そう、決め付けて……黙り込んで!
あぁ……この人も、『私』と同じなんだ。
そう、理解した。
いや、もしかすると『私』よりもタチが悪い。
──何故なら、
「そもそも取り繕うって何だよ? オレ、特に何も隠してないぞ〜??? ベッドの下とか探らないでね」
この人は──隠し慣れてる。
嘘を吐く事に、慣れすぎているんだ。
だから自然と嘘を吐き、話を逸らされる。
──だから、誰も気付けない。
言葉では、今の先輩には届かない。
それなら──
「ねぇ、先輩…………僕は、先輩を倒すよ」
──自分が、先輩にしてもらった様にすれば良い。
先輩を倒して……負かして、そして言うんだ。
「そして先輩に言ってあげる。先輩は唯の『努力をする凡人』だって! 僕と何も変わらないってね!!!」
あの時、先輩が僕に言ってくれたあの言葉を。
僕を救ってくれた、あの言葉を……!
今度は僕が、先輩に返す番だ!!!
「だから覚悟しておいてね、先輩!」
その時……目を見開いていた先輩は、
ふと、小さく笑った様な気がした。
■■■
『*●●↓↓◆!!!!!』
「──ッ! また!!!」
痛みすら感じていないのか、無茶苦茶に影は暴れ、その両剣を自身を閉じ込める檻に何度も叩きつける!
──バキンッッッッッ!!!!!!!!
何度も、何度も刃を叩きつけられ……火花を散らし、限界を迎えた檻は、遂に砕け散る。
だが──ッ!
「──パラサイト! 砕けた檻を液体に変化させ、檻を再形成! 影を捕えろ!!! ミニガンも発射!」
あの檻はパラサイトがその形状を変化させたモノ。
破壊されても、また再構築できる!
再び、両手ミニガンが閃光と共に弾を撃ち出す。目的は檻の補強、そして、影の足止めだが──ッ!?
『──ご主人様ぁッッッ!!!!!』
『──主、躱してくださいッッッ!!!!!!!!』
ッ、真正面……だと!?!??
無数の弾丸の雨を、真正面から躱し、弾きながら高速で影が突っ込んでくる!!!
──キメラは躱せと言うが……ッ、間に合わない!
それなら──ッ!!!
「──パラサイト、盾に!」
『──(任せろ!)』
躱せないのなら……真正面から受け止める!
耐える為に、両の脚に力を込め──ッ、待て!?
奴は……何処だ…………?!!
真正面から突っ込んで来ていた筈の影の姿が掻き消え、オレの眼前に、あの影の姿はなッ──
「──先生後ろッ!!!!!!!!」
途端、久遠の悲鳴のような声が響く!
声に反応し、背後へ振り返ろうとしたオレの目は……此方へと、今にも振り下ろされる刃の姿を捉えた。
「ッ!」
──回り込まれた……のか。
視界がスローモーションになり、ゆっくりと刃がオレへと振り下ろされる……。
だが──オレの身体は指一本動かない。
これは……流石に、どうにも出来n──
「──レヴィアタンッ、ブレス!!!!!」
諦めかけた瞬間──上空から……紺碧の光が……影へと降り注ぐ!!!
「って、冷たッッッ!!?!?」
光の余波か、オレとパラサイトも霜に覆われた様に白く変色するが……まぁ、命取られるよりはね?
遥かにマシだよ、ありがとう。冷たいけど。
ピタリと、その動きを静止した……刃を見る。
──間一髪って、こういう事を言うんだな。流石にコレ振り下ろされてたら良くて重傷だったわ……。
心臓をバクバクさせながら、影へと目を向ける。
影は……透明な氷に覆われ、ピクリとも動かない。
「──随分と遅かったですね、社長?」
白い溜息を吐きつつ、そう皮肉を言うと……
「あら、ごめんなさい? もう少しゆっくりの方が良かったかしら???」
ワイバーンに騎乗した千尋さんが、そう笑った。
──あと、ごめん。
絶対、いま言うべきじゃないって事は理解してるんだけど……我慢出来ないから、言うね???
「で? その泥棒みたいな格好は何です??? まさか、ソレに時間掛かったなんて言いませんよね?」
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