VS ミシャンドラ 2
──あの日の事は忘れない。
初めて『負けた』、あの日。
世界が色付いた、あの日。
天才から、凡人になった……あの日。
…………先輩に出逢った、出逢えた……あの日の事は絶対に忘れない。
学年試験、その結果が貼り出されたあの日──
──僕は、私は、初めて負けた。
全力でやった結果だから、悔しさはあまり無かった。代わりに、私の中にあったのは好奇心。
──ドキドキした。
自分を負かした相手は、一体どういう人なんだろうか? と、固唾を飲んで……その人を見に行った。
「──ふははははッッッ! 賭けの内容は憶えてるだろうな!? じゃ、焼きそばパン買ってこいや!」
………………驚いた。
いや、マジで。声が出なかった。
綺麗な顔をした彼は、その顔を嘲笑に歪めて……声高らかに嗤っていたから。
「クッソォォオッ──お前! さては頭が良いのを隠してやがったな!? 卑怯だぞ!!!」
「または教師を買収したんだろ貴様!??」
「不正だ不正! 久保が負けるワケがねぇ!!!」
──え? 私ッ!!???
「はぁん? 久保よりテスト結果が上なら、何でもするって言ったのはお前らだろ? 違うか、うん??」
……よくよく、話しを聴いてみたら……どうやら彼らは賭けをしていたらしい。
私より、試験結果が良ければ何でもすると。
──そんな内容の賭けを。
つまり、私は彼の……焼きそばパンへの執念に負けたという事? は??? マジで?????
あまり無かった筈の、悔しさが湧いた瞬間だった。
「だからってお前! 居眠り常習犯が学年一の天才を打ち負かすって大穴も良いトコだろうがよッ!!!」
──ズキッ!
また、胸が痛く……苦しくなった。
ああ、この人達もか。と、絶望した。
「──はぁ? お前なに言ってんの???」
「へ?」
…………?
心底、不思議そうに彼が口を開く。
「久保は天才なんかじゃないぞ? アイツは努力をする凡人だ……天才って言うのはオレみたいな──」
──ガタンッ!
「…………ぁ」
動揺して……思わず、物音を立ててしまった。
何とか取り繕おうとしたけど──ダメだった。
彼らと……彼と目が合った瞬間、もうダメだった。
目頭が熱くなって、ボロボロと目から雫が溢れて……止まらなくて。
──泣いた。泣き続けた……。
「あーーーッ! 如月が久保を泣かせたー!!!」
「最っっっ低!!!!!」
「このゴミクズ! 人間の恥ッッッ!!!」
「──はぁあッッッ!?!!? ぇ、でも……いや待って、確認させて! これオレのせいなの!?」
「「「──そうだよ!!!」」」
いや、違うから……。
でも、上手く言葉が出なくて。
漸く、落ち着きを取り戻した時にはもう──色々と、彼に……先輩に貢いでもらった後だった。
あの日……私は、僕になった。
──白黒だった世界が色付いて、初めて……この世界が綺麗だって思えた。
何とか僕を宥めようとする先輩が面白くて……。
優しくて、温かかった。
だからかな……その日。僕は『恋』をした。
■■■
「Fu*kyou──【ほんまにアカン言葉】!!!」
「──落ち着きなされ境夜たん!!? 見た目はアレになっても相手は女の子でござるよッッッ!?」
「そうだぜ先生!? 幾ら先生ばっか集中的に狙われるからって、その言葉はダメだと思うオレ!」
「うるせぇーーーーーッッッ!!!!! さっきからオレばっか狙いやがって……オレは壁じゃない!」
『●☆?↑↑〆!??』
──ゴギィィインッッッッッ!!!!!!!!
ああもうッ! だから腕が逝ってるって言ってんじゃん!? 良い加減にしろよ久保ぉおおおッ!!?
大盾から火花が散り、腕の痺れがより酷く……感覚的にも重くなってくる。このままじゃ、不味い。
「──チッ! 超電磁砲、いくぞ!!!」
魔法のお陰でチャージタイムは無いが、オレの腕さんと背骨さんが悲鳴をあげる。ごめんね!
連撃を避ける為とは言え……マジでキツい。
『──(チラッ)』
でもなぁ……アレに頼るのはちょっと……。
さっきからチラチラと、羨ましそうにコッチを見てるあの変態に──頼るのだけは、おぅん…………。
でも、今は少しでも戦力が欲しいのも事実だし。
……回復時間も欲しい…………すぅぅ……ッ!
心の天秤をギッコンバッタンしまくった結果──
「……タマ…………壁、頼んでも良いか?」
オレは──変態が今最も欲しているだろう命令を下した。下して、しまった。あの変態に。
『──ッ! りょ…………いえ、もう一声……』
(###^ ω^)──ブッッッチン!!!!!!!!
「さっさと行けこの愚鈍な肉壁が。役に立て」
『〜〜〜ッッ♡♡♡ ウェヒヒッ……ありがとうございますッ肉壁行きますッッッッッッッッ♡♡♡♡♡』
そして砂埃を舞い上げ、久保とオレの間を割くように飛来する巨大な変態……間違えた。悪魔。
『貴様に怨みは無いが……いや、むしろ感謝しているがご主人様からのご命令だ! かかって来い!!!』
『──@☆☆←↓○?!!』
瞬間──タマを無視して此方へと再度突っ込んで来た久保を……タマが巨大な剛腕を薙ぎ、弾き飛ばす!
『ほぅ……迷いが無く、重い、良い一撃だ。少しばかり、我の腕も痺れた。で? 次は、どう来る??』
『→→◇*☆?←☆!?』
ッ!? 久保の……あの人影の、もう片方の腕までもが、細剣に変化しただと──ッ?
『クハハッ──ご主人様にそれほど遊んでもらいたいのか? まぁ、気持ちは理解るが…………諦めろ』
双剣を構える人影……。
『&☆☆*↑↑↓ ●*↓↓!!!』
──ッッッ!?
『おっと……まだスピードも上がるのか。だが、我が居る限りご主人様にその刃は届かぬと知れ』
オレの眼前に突如現れた人影を難無く尻尾で弾く。
…………いや待って? まだ本気を出してなかったらしい久保にもビックリしたけどさ???
タマ………………いや、タマさん???
お前、そんだけ強かったの? えッ?
マジでごめん、唯の変態だとばかり思ってたわ。
「──えっと……じゃあ、壁、お願いします?」
『………………むぅ』
「あぁ、すまん。ちゃんと護れよ、肉壁?」
『ンンッ♡♡♡ こ、この肉壁めにどうぞお任せ下さいご主人様ぁあああああんッッッ♡♡♡♡♡♡♡♡』
──あー、はいはい。じゃ、オレ達ちょっと回復挟むから宜しくな。
こら久遠、目を合わせちゃいけません!
◆◆◆
『主、報告が……』
──来たか。
中庭に散開していたキメラが集まり、言葉を紡ぐ。
『この場の至る所から、あの影を観察しましたが……やはり、不具合の影響が出ているようです』
…………はぁ、やっぱりか。
嫌な事ほど、本当に良く当たる──。
『具体的には攻撃そのものの無力化。攻撃が当たる直前、何か……見えない障壁の様なモノで弾かれていた様に、私には見えました』
成程な?
オレが強制的に壁をやっていた時……久遠のバハムートや鈴木さんの女神が援護してくれたが──
──そのどれもが、そもそも効いていなかった。
「吹き飛ばしたりは出来るが、ダメージそのものは入っていなかったワケか。はぁー、ダル!」
手に持っていた回復薬を一気に呷る!
ホラよ、パラサイトも飲め。むしろ飲まなきゃやってられるか! ケッ!!!
「うーむ……そもそも攻撃が効かないのならば──我々に勝ち目自体無いでござるよ?」
──どうするでござる?
と、目を向けてくる鈴木さん。
…………ん? どうするって……。
「構わず攻撃を仕掛けますよ。そして相手の行動パターンを頭に叩き込み、機を待つ。常識では?」
「でもよ──ッ先生!」
訝しげな、不安な表情を向ける久遠。
──はぁ、仕方無いか。
「そもそも、相手のHPを0にするだけが勝利条件なワケじゃないぞ? いいか、今回の勝利条件は──」
そう、今回に限りは──コソコソ。ぽしょぽしょ。
討伐はまぁ、しなきゃだが……今じゃない。
それにコッチには最強の変た──壁が居る!
この勝利条件の達成は、決して不可能じゃない!
と、いうワケで……再戦行ってきま〜す!!!
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