第三幕 再会
舞台が明るくなる。
曲線を描いている根を表す階段。
そこに腰掛けていた藤美禰、山茶花彦。
何か話しているかのように、顔を見合わせている。
同時に横に振り向く。
気配に気づき、立ち上がる。
舞台正面左、椿輝姫が登場。
赤を基調とした着物を着ている。
兄のための、椿輝姫の舞。
表裏が金と銀の扇の使い方が美しい。
それに見とれている藤美禰。
舞が終わる。
藤美禰と椿輝姫。
視線が合う。
今宵、椿輝が装いを変えて来たのはどうやら藤美禰のためらしいことが表情で分かる。
藤美禰とそのうしろについている山茶花彦は階段を降りる。
移動。
舞台の真ん中あたりで立ち止まる。
欄干の側。
「奇遇ですなぁ。見違えるほどに美しい」
「なんのことやら」
「つれないお方だ」
「そう言えば、名をまだ聞いておりませぬ」
「わたしの名は藤美禰、こちらは従者の山茶花彦」
「良い名じゃ」
「おおきに・・・またお会いできましたね」
「なんのことやら」
「よい夜ですなぁ」
「ええ、まったく。兄が喜んでいるような気がしまする」
「なぜに?」
「はて?兄が死んでから枯れなくなった藤大樹、今宵はいっそう藤の色が冴えて見える」
「なんの因果か藤大樹」
「兄がここにいるようで、毎晩会いに来るのです」
舞台袖から、透明な蝶が飛んで来る。
何かの予感、椿輝姫は蝶達に振り向く。
蝶達が見えなくなる。
舞台正面右、差した和傘で顔が見えない人物が登場。
「噂によるとこの界隈、『かりき』と称すあやかしが出るとか」
「それが兄の仇で」
「なんと」
「このような闇夜、通りがかるのは何者やら」
「ほんに」
「なにぞ、嫌な予感・・・」
椿輝姫、藤美禰、山茶花彦は登場した人物に振り向く。
登場した和傘の人物は立ち止まる。
傘の位置を少し上げる。
「あなやっ、あの姿はっ・・・」
椿輝姫は数歩、前へ。
「兄上っ」
何も答えない男。
薊彦こと、影林鬼。
正面からの視野、薊彦の右に回る山茶花彦。
「あやかしのにおい、何奴ぞっ」
「この者こそ、噂の『かりき』に違いない」
「よくも兄上をっ、退治してくれようぞ」
「敵討ちに野暮ではあるが、力を貸そうぞ山茶花彦よ」
「退治、退治ぃ」
よおぉ~ぉうっ。
ドンッ。
黒御簾から声と太鼓の音。
タタンッ。
四人での見得きり。
薊彦はその瞬間、ツケを足で叩いて首を回し、流し目。
藤美禰は欄干に片足をかけ、シッポを表している絹糸でできた腰の珠房を回す。
椿輝姫は中腰、小首をかしげてしなつくり、扇で自分を扇ぐ。
山茶花彦はオレンジ色の紗布を頭上で一回転させ、見得陣の外側に向かってしゃがみながら片足を伸ばして見せる。
まるで一枚の絵のようだ。
しばらくの間。
音楽が鳴り始める。
合いの手と鼓の音が入る。
四人の舞。
舞台端から波が来たように、順番に回転するシーンがある。
四人には別々の振り付けがしてある。
薊彦こと影林鬼が傘を閉じる頃、曲の終わり。
彼は傘の柄から、仕込み刀を引き抜く。
隣にいた山茶花彦がその刀で斬られる。
「藤美禰様、どうか、お逃げをっ・・・」
舞台端、山茶花彦は事切れる。
倒れる。
藤の枝がゆれたのか、少し花弁がちらつく。
「山茶花彦っ・・・おのれっ、これからは我にとっても仇じゃっ」
舞台に黒子達が現れる。
その黒子全員が全員、装飾要素をふんだんに使った着物を着ている。
黒子は見えない、というていだが、目で見て楽しむタイプの黒子だ。
椿輝姫は閉じた扇で攻撃。
刀と扇で互角の戦い。
大きく跳ね返り、間合いをとる。
数人の黒子に抱き上げられた藤美禰、空中飛び蹴りを再現。
攻撃。
うしろによろける薊彦こと影林鬼。
すぐに体勢を持ち直し、着地した藤美禰を攻撃しようとする。
「ふじみねっ」
藤美禰の前に立ちはだかる、椿輝姫。
刀が腹部あたりを貫く。
(腹部を刺して貫いたように見える演技の行使、作品全体)
「つばきっ」
藤美禰は扇を持った手で、空中を払う。
呪術、縛。
薊彦こと影林鬼は手を放す。
椿輝姫は片腕で刀を押さえ、腹部に刺さったままの演技。
よろける。
「つばきっ。おのれっ、よくもっ・・・」
椿輝姫は指を二本たて、空中に線を描く。
「式っ」
擬人化した透明な蝶役達が、数匹・・・舞台袖から出てくる。
ひらひらとした衣装の美人揃いだ。
薊彦を押さえる。
椿輝姫は己に刺さった刀を抜き、かまえる。
薊彦こと影林鬼は動けない。
「兄上の仇っ」
椿輝姫は彼を刺し貫く。
のけぞる薊彦こと影林鬼。
刀を抜く。
よろけて、地面に刀を落とす。
「椿輝・・・おおきに・・・」
「かりき・・・?」
式達が薊彦こと影林鬼をどこか、別世界にでも連れて行くように移動させる。
舞台正面、右側にはける。
「兄上っ・・・」
立ちくらみ。
地面に倒れそうなところを藤美禰に抱きしめられる。
ゆっくりとしゃがみこみ、横たわる椿輝姫。
「ふじみね・・・よう、顔が分からぬ・・・顔を見せてたもれ・・・」
「つばき・・・」
藤美禰は椿輝姫のあごを自分の方に向かせ、客に分からないよう口付け。
「つばき・・・」
「これでよいのかもしれぬ・・・」
「つばき・・・」
「ふじみね・・・」
椿輝姫は震える腕をのばし、藤美禰の顔、ほほを愛しげに触る。
見つめあい、数秒後。
ことりと体から力が抜け、椿輝姫の腕が投げ出される。
「つばきっ」
藤美禰、嗚呼、と嗚咽。
「山茶花彦、聞いているなら願いを叶えてくれっ。どうかつばきと兄の魂を、出会わせてやってたもれっ」
舞台装置、欄干の裏側から円形の軸に二枚の長い長い紗布を付けたものが現れる。
それはゆっくりと二重螺旋を描きながら、天へと昇っていく。
「昇れ、昇れ・・・昇りたまえ」
藤の根元から出てきたように見えた紗布。
それは薊彦と、それを見つけた椿輝姫の魂を表している。
藤美禰は天を仰ぐ。
背中ごしに、魂は昇り続けている。
「いつか我が会いに行くまで、どうか二人で待っていてくれっ・・・」
都一の陰陽師、薊彦の魂を抜かれた藤大樹。
枯れぬと言われた藤大樹。
その幾千もの枝垂れた花達が、いっせいに舞い散る。
大量の、藤色の紙吹雪が落ちてくる。
香のかおりが焚き染められている。
天を仰ぎ続ける藤美禰。
「いつか、またっ・・・」
ドンッ。
太鼓の音と共に、黒御簾から音が聞こえる。
定式幕が閉まりはじめる。
「いつか、またっ」
チョン、チョン、チョン、チョン、
チョン、チョン、チョン、チョン、
チョン、チョン。
チョン、チョン。
チョン、チョン。
チョン。
チョ、チョン。
ドドン。
閲覧ありがとうございました。
シリーズの「夜の菊」をご覧いただくと、こちらの作品に更にコクが深まるかもしれません。
ぜひぜひご一読を。




