第二幕 過去
三叉路橋。
和傘を差した男がひとり、登場する。
名は薊彦。
朱隈。
鷹の羽柄の袖をした着物を羽織っている。
黒を基調とした着物。
羽は紅色、もう片方は茶色と緑色をしている。
薊彦はくるりとひと回転。
調子に乗っている様子。
正面から右よりの場所で足を止める。
欄干の前。
雨が止んだのが分かったのか、空に手をかざしてみて、傘を閉じる。
「予定外、予定外。勤めが長引いた。陰陽師が流行るとは、これ世が荒れること。頭が痛む。魑魅魍魎に百鬼夜行、鬼、あやかしに妖怪ともども、きりがない。しかし双子のかたわれ椿輝のため、土産も買うたし、よしとしよう。どれ、ついで。夜桜ならぬ夜藤でも見ていこうか」
薊彦は傘を欄干に立てかける。
花道にスポットライトが当たる。
一瞬影の塊に見えるが、それは影林鬼というあやかしだ。
大きな猫の姿をしていて、背中には紅色の翼が生えている。
中の役者は、フードマントをかぶっている状態に似ている。
黒子姿に、顔の部分は衣装の口の中。
噛む部分があって、少し動いただけでフード状の頭が取れることは無い。
手首には黒いリストバンド。
爪にも黒か紺色の色づけがされている。
影林鬼は藤を見上げている薊彦を発見。
そぞろに近づく。
上半身を持ち上げ、空をかくような仕草。
ピンスポットの光が消える。
姿が隠れる。
舞台天井から、黒い紗布が薊彦の頭上に向かって落ちて来る。
邪気だ。
薊彦はそれをいきおいよく払う。
「何奴っ」
影林鬼はいつの間にやら舞台へと移動している。
黒御簾から音楽が流れ始める。
「さてはこの界隈に現れる、『かりき』とか言うあやかしっ。都一の陰陽師、この薊彦が退治してくれようぞっ」
二足立ちになった影林鬼は、いきなり薊彦に襲いかかる。
走って来た影林鬼のうしろあしを薊彦が両手で払うと、影林鬼は空中でばく転。
着地。
三味線のツケ。
薊彦は欄干にかけてあった和傘を取る。
四回、影林鬼の前足と交わる。
和傘をバッと広げる。
両者、正面を向く。
大きく傘を回している間、惑わされた影林鬼もくるくると回る。
(回っている時間は、音楽隊と息を合わせ自由なものとする。また回り方も自由なものとする。追伸 曲名指定『影林鬼』)
両者、うしろに跳び退る。
曲調が変わっていく。
舞う。
互いに向き合う。
薊彦は傘を閉じる。
歌が終わる。
影林鬼は薊彦に飛びかかる。
のけぞる薊彦。
四本足で着地した影林鬼。
薊彦は転びそうになりながらも、体勢を持ち直す。
奈落を使って影林鬼退場。
その間、薊彦はよろけながらも袂に隠してあった、魂を表した拳大の水晶を取り出し、根元を表している階段をのぼってその魂を隠す。
(水晶はガラスでも可)
背中の演技。
数秒の間。
振り返り、すさすさと正面、指定された場所へ。
立ち止まる。
舞台全体が暗転。
赤いピンスポットの光が薊彦の上半身に当たる。
無表情。
持っていた傘を足元で広げ、弧を描きながら肩にかける。
肩にかけた瞬間、スポットライトの光が青に変わる。
朱隈が藍隈に見える。
青白く見える顔。
藍隈は悪役のしるしだ。
影林鬼に体をのっとられた薊彦。
数秒の間。
ライトの光が消える。
舞台が暗くなる。
薊彦こと影林鬼、音をたてずに退場。
実際に赤から青の光に移したら、朱隈が藍隈になるのかは分かりません。検証をしたことがありませんが、作品の効果として楽しんでいただけたらさいわいです。




