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歌舞伎 藤大樹  作者: 八雲之阿国/吉良リクア
3/4

第二幕 過去

 三叉路橋。

 和傘わがさを差した男がひとり、登場する。

 名は薊彦あざみひこ

 朱隈しゅぐま

 鷹の羽柄の袖をした着物を羽織っている。

 黒を基調とした着物。

 羽は紅色、もう片方は茶色と緑色をしている。

 薊彦はくるりとひと回転。

 調子に乗っている様子。

 正面から右よりの場所で足を止める。

 欄干らんかんの前。

 雨が止んだのが分かったのか、空に手をかざしてみて、傘を閉じる。


「予定外、予定外。(つと)めが長引(ながび)いた。陰陽師(おんみょうじ)流行(はや)るとは、これ()()れること。頭が痛む。魑魅魍魎(ちみもうりょう)百鬼夜行(ひゃっきやこう)、鬼、あやかしに妖怪ともども、きりがない。しかし双子のかたわれ椿輝(つばき)のため、土産(みやげ)()うたし、よしとしよう。どれ、ついで。夜桜(よざくら)ならぬ夜藤(よふじ)でも見ていこうか」


 薊彦は傘を欄干に立てかける。


 花道にスポットライトが当たる。

 一瞬影の(かたまり)に見えるが、それは影林鬼というあやかしだ。

 大きな猫の姿をしていて、背中には紅色の翼が生えている。

 中の役者は、フードマントをかぶっている状態に似ている。

 黒子姿に、顔の部分は衣装の口の中。

 噛む部分があって、少し動いただけでフード状の頭が取れることは無い。

 手首には黒いリストバンド。

 爪にも黒か紺色の色づけがされている。


 影林鬼は藤を見上げている薊彦を発見。

 そぞろに近づく。

 上半身を持ち上げ、空をかくような仕草。

 ピンスポットの光が消える。

 姿が隠れる。


 舞台天井から、黒い紗布しゃぬのが薊彦の頭上に向かって落ちて来る。

 邪気だ。

 薊彦はそれをいきおいよく払う。


何奴なにやつっ」


 影林鬼はいつの間にやら舞台へと移動している。

 黒御簾から音楽が流れ始める。


「さてはこの界隈に現れる、『かりき』とか言うあやかしっ。都一の陰陽師、この薊彦が退治してくれようぞっ」


 二足立ちになった影林鬼は、いきなり薊彦に襲いかかる。

 走って来た影林鬼のうしろあしを薊彦が両手で払うと、影林鬼は空中でばく転。

 着地。

 三味線(しゃみせん)のツケ。

 薊彦は欄干にかけてあった和傘を取る。

 四回、影林鬼の前足と交わる。

 和傘をバッと広げる。

 両者、正面を向く。

 大きく傘を回している間、惑わされた影林鬼もくるくると回る。


(回っている時間は、音楽隊と息を合わせ自由なものとする。また回り方も自由なものとする。追伸 曲名指定『影林鬼』)


 両者、うしろに跳び退る。

 曲調が変わっていく。

 舞う。

 互いに向き合う。

 薊彦は傘を閉じる。

 歌が終わる。

 影林鬼は薊彦に飛びかかる。

 のけぞる薊彦。

 四本足で着地した影林鬼。

 薊彦は転びそうになりながらも、体勢を持ち直す。

 奈落を使って影林鬼退場。

 その間、薊彦はよろけながらも袂に隠してあった、(たましい)を表した拳大(こぶしだい)の水晶を取り出し、根元を表している階段をのぼってその魂を隠す。


(水晶はガラスでも可)

 

 背中の演技。

 数秒の間。


 振り返り、すさすさと正面、指定された場所へ。

 立ち止まる。

 舞台全体が暗転。

 赤いピンスポットの光が薊彦の上半身に当たる。

 無表情。

 持っていた傘を足元で広げ、弧を描きながら肩にかける。

 肩にかけた瞬間、スポットライトの光が青に変わる。

 朱隈しゅぐま藍隈あいぐまに見える。

 青白く見える顔。

 藍隈は悪役のしるしだ。

 影林鬼に体をのっとられた薊彦。


 数秒の間。


 ライトの光が消える。

 舞台が暗くなる。

 薊彦こと影林鬼、音をたてずに退場。

実際に赤から青の光に移したら、朱隈が藍隈になるのかは分かりません。検証をしたことがありませんが、作品の効果として楽しんでいただけたらさいわいです。

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